セダンの落ち着きとミニバンの視界を併せ持つ、特別なオデッセイ VZ。V6とダブルウィッシュボーンが生む滑らかな走りは今も魅力的で、整備履歴も充実した一台だ。
INDEX
「セダンの余韻」をまとった
走り出してすぐに、この2代目オデッセイ VZは少し不思議な感覚をもたらす。
視界の高さはまぎれもなくミニバンのそれだが、最初の交差点でそのギャップに気づく。路面の継ぎ目を越えても頭が大きく揺れず、動きは小さく、しっとりと収まる。重心の高いミニバンではなく、ひとクラス上のセダンに乗っているような落ち着き方をする。
アイポイントの高さから来る安心感と、セダン並みの安定した身のこなしが同時に存在している。
ボンネットの下に収まる3.0リッターV6はほとんど主張しない。
発進時のトルクは厚いが、回転が上がってもエンジン音はささやき声程度に留まる。アクセルを少し深く踏み込むと、回転計の針だけが静かに右へ動き、その分だけ速度が増していく。上り坂でもキックダウンの衝撃は小さく、音も振動も遠くの方で起きているような距離感だ。
キャビンに目を移すと、大ぶりなセンターパネルを覆うウッド調パネルと、同じ材で縁取られたステアリング。ミニバンというより、やはり上級サルーンの意匠をそのまま落とし込んだような雰囲気に仕上がっている。
セダンのような乗り心地と、ミニバンならではの視界とスペース。
その組み合わせが、このオデッセイ VZだけが持つ独特の心地よさをつくり上げている。
VZだけが宿す走りへの執着
この違和感の正体は、スペック表を開くとすぐに見えてくる。
2代目オデッセイの主力は2.3リッター直列4気筒だが、このVZグレードだけはV6の3.0リッターを与えられていた。J30A型、SOHC VTEC。カタログ値は215ps、27.8kgm。数字だけを見ればスポーツカーのような派手さはないが、そのキャラクターはきわめてホンダ的だ。
アクセルオンで感じるのは「キレ味」ではなく「連続性」。
低回転域からしっかりトルクを出し、中間加速ではVTECらしい伸びを静かにプラスしていく。スポーツモデルに積まれたVTECのように、カムが切り替わる瞬間の劇的な高揚感があるわけではない。あくまで自然吸気らしい線の細いフィーリングを守りながら、余裕だけを増やしたような味つけだ。
足まわりもまた、ミニバンとしては贅沢な構成を持つ。
前後ともダブルウィッシュボーン式サスペンション。荷物と人をたくさん積むためだけならトーションビームでも成立したはずだが、ホンダはそうしなかった。車体の動きを丁寧にコントロールし、ロールさせつつもフラット感を残すための選択だ。
実際、コーナーでの印象は「腰の据わったワゴン」に近い。
ステアリングを切り込んだ初期の入り方は穏やかだが、その先でグラリと傾くことがない。家族を乗せるミニバンだからこそ、挙動の滑らかさにこだわった結果が、この乗り味に結びついている。
V6とダブルウィッシュボーンの足回り。走りの質感を重視してきたホンダらしさは、むしろこうした部分にこそ濃く刻まれている。
オデッセイが変えた時代
そもそもオデッセイという車種自体が、日本のクルマの価値観を変えた存在だ。
初代オデッセイは、当時のアコード(5代目)を土台に開発された。フロアをほぼ変えずに3列シートボディをかぶせたような成り立ち。結果として、当時主流だったワンボックス型RVとはまったく違う、背の高いステーションワゴンのようなミニバンが生まれた。
そのバランスが、90年代半ばの空気にぴたりとはまった。
RVブームの勢いに乗りながら、セダンやスポーツカーからファミリーカーへ乗り換える層の受け皿になった。家族を乗せながらも“普通のクルマ”として楽しめること。荷物が積めて、見た目も上品で、運転しても退屈しないこと。オデッセイはその条件を高いレベルで満たし、販売台数の面でも社会現象級のヒットを記録した。
2代目は、そのコンセプトをより洗練させたモデルだ。
全高はさらに抑えられ、ルーフラインは一層ワゴン的になった。ミニバンとしての実用性を損なわない範囲で重心をできるだけ下ろし、走りの質を高める方向へ舵を切った結果が、この世代のプロポーションに表れている。
3.0 VZは、その頂点に位置するグレードだった。
ただ広いだけのファミリーカーでもなく、アウトドアイメージをまとったRVでもない。セダンを源流に持つミニバンが、上級サルーンの余裕を身につけたとき、どんな存在になるのか。その答えのひとつが、このV6搭載オデッセイに具体的な形として残っている。
丁寧な整備履歴と快適装備
今回の個体は、初度登録から四半世紀近くが経とうとしているのに、オドメーターの表示はおよそ28,000km。
2003年以降の整備記録が、2年ごとに11枚きっちり揃う。車検や点検のタイミングをほぼ外さずに受けてきた履歴が、丁寧に扱われてきたことを示す証拠としてきちんと残っている。
フロント&リアのパーキングセンサーとバックカメラが備わり、全長4.8メートルを越えるボディでも取り回しに不安がない。大きなガラスエリアと高めの着座位置、そして電子的な補助の組み合わせは、実用上の不便をほとんど感じさせない。
キャビンは3列シートの7人乗り。3列目を床下に格納すれば、奥行きのあるフラットなラゲッジスペースが現れる。日常の買い物から家族の旅行、キャンプ道具一式まで、必要な荷物はだいたい飲み込んでしまう容量だ。
このオデッセイ 3.0 VZは、もはや“懐かしいクルマ”ではなく、セダンの余韻をまとった上級ミニバンとして、今から日々の足にしても無理のない一台だ。
普段使いの買い物から、週末のアウトドアまで。
気負わず使える上品さを備えた、いまの暮らしにも素直に馴染む一台だ。
SPEC
ホンダ・オデッセイ 3.0 VZ
- 年式
- 2000年式
- 全長
- 4,775mm
- 全幅
- 1,795mm
- 全高
- 1,630mm
- ホイールベース
- 2,830mm
- 車重
- 約1,640kg
- パワートレイン
- 3.0リッターV型6気筒
- トランスミッション
- 5速AT
- エンジン最高出力
- 215ps/5,800rpm
- エンジン最大トルク
- 273Nm/4,300rpm

中園昌志 Masashi Nakazono
スペックや値段で優劣を決めるのではなく、ただ自分が面白いと思える車が好きで、日産エスカルゴから始まり、自分なりの愛車遍歴を重ねてきた。振り返ると、それぞれの車が、そのときの出来事や気持ちと結びついて記憶に残っている。新聞記者として文章と格闘し、ウェブ制作の現場でブランディングやマーケティングに向き合ってきた日々。そうした視点を活かしながら、ステータスや肩書きにとらわれず車を楽しむ仲間が増えていくきっかけを作りたい。そして、個性的な車たちとの出会いを、自分自身も楽しんでいきたい。

















