2代目パナメーラの頂点・ターボS。圧倒的な性能と存在感を兼ね備えたその完成度は、いま改めて“最高”という言葉を思い出させる。希少でありながら、いまや現実的な存在となったこの一台が、他にはない特別感を与えてくれる。
「ターボ」から「ターボS」に
2020年のマイナーチェンジで、ポルシェは大胆な決断をした。
従来の「ターボ」を引き継ぎながら、その性能と存在意義を再定義し、最上位モデルを「ターボS」として仕立て直したのである。
前期型のターボが550psだったのに対し、後期のターボSは630ps。80psの差以上に、走りの印象が変わった理由は、エンジン内部にある。
圧縮比を9.7に落とし、タービンレイアウトを変更。燃料噴射系やクランクシャフト、コンロッド、ピストンに至るまで新設計。
同じ4.0リッターV8ツインターボでも、ブロック以外はほとんど別物といっていい。
加えて、PDCCスポーツやPTVプラス、カーボンセラミックブレーキ(PCCB)、四輪操舵などを標準装備とし、「上位グレード」ではなく「別格の一台」に進化した。
“ターボS”という名は、単なるネーミング整理ではない。
ポルシェはパナメーラというラグジュアリーサルーンの在り方を再定義し、その進化の証として、Supreme=究極のSが与えられた。
しなやかさと安定感
走り出してすぐに、前期のターボやひとつ下のグレードのGTSとはまったく違う世界だとわかる。
踏み込んだ瞬間に、空気の密度が変わるような感覚。いわゆるオーラという言葉の正体を、理屈ではなく身体で理解する。
スポーツプラスモードに切り替えたときの変化は鮮烈だ。
2.2トンを超える重量物が、まるで質量を失ったかのようにコーナーへ吸い込まれていく。姿勢変化は最小限で、ロールもピッチもほとんど感じない。
それでいて21インチタイヤにもかかわらず、乗り心地は驚くほどしなやか。
エアサスペンションと48V制御のPDCCスポーツが、路面の凹凸を吸収しつつ車体を常に水平に保つ。柔らかく上下するのに、姿勢はびくともしない──この相反する動きが同居しているのは、数値では説明しきれない知性の走りそのものだ。
低速ではゆったりと、時速100kmを超えると一気に引き締まる。その変化は自然で、運転していても制御が働いている感覚がない。
すべてが裏で完璧に整えられている。まるで、見えない手に守られているような安定感だ。
希少なモデルだが
この個体は2021年式、走行距離わずか1万3000km。
ボディはキャララホワイトメタリック、内装はボルドーレッドレザー。光の角度で表情を変える白に、深い赤が宿る──スポーツとエレガンスのあいだを見事に貫く組み合わせだ。
市場に出回るターボSは、驚くほど少ない。
同年式のGTSが全国で数十台見られるのに対し、ターボSは数台レベル。新車時価格は2880万円で、GTSよりも約1000万円高かった。
現在の中古相場は1500万円前後と、わずか4年で半値近くになった計算だが、これほどの完成度を持つクルマが驚くほど現実的な価格に落ち着いている。
装備はパノラマルーフ、マトリクスLED、ソフトクローズドア、シートヒーター&ベンチレーション、マッサージ機能付き4ゾーンAC。日常の快適性はSクラスや7シリーズにも並ぶ。
だが走り出した瞬間、明らかに別物だと気づく。
このクルマの上品さは、快適性の裏に隠された圧倒的な力によって支えられている。
特別感に浸りながら
過去に触れてきたパナメーラのなかでも、このターボSは特別だった。
最新の972型(3代目)も明確な進化を感じさせる仕上がりだったが、この2021年式のターボSには、最上位グレードならではの存在感がある。
前期ターボからの変化は単なるパワーアップではなく、見えない部分の熟成が生み出す完成度に、走るたび「よくできているな」と唸らされる。
ポルシェはこの世代で、ラグジュアリーサルーンの新しい基準を作った。
ニュル最速の称号を手に入れながらも、街中ではまるで静かな大型クーペのように振る舞う。
国内での流通台数は極めて少なく、最上位グレードのターボSに乗るという行為そのものが、ひとつの特権となる。
その特別感に浸りながら、ワインディングや夜の街中を走り抜けるひととき。
Supreme──その名のとおり、「最高」という言葉がいちばんしっくりくる一台だった。
SPEC
ポルシェ・パナメーラ ターボS
- 年式
- 2021年
- 全長
- 5,050mm
- 全幅
- 1,935mm
- 全高
- 1,425mm
- ホイールベース
- 2,950mm
- 車重
- 2,220kg
- パワートレイン
- 4.0リッターV型8気筒ツインターボ
- トランスミッション
- 8速AT(PDK)
- エンジン最高出力
- 630ps/6,000rpm
- エンジン最大トルク
- 820Nm/2,300–4,500rpm

河野浩之 Hiroyuki Kono
18歳で免許を取ったその日から、好奇心と探究心のおもむくままに車を次々と乗り継いできた。あらゆる立場の車に乗ってきたからこそわかる、その奥深さ。どんな車にも、それを選んだ理由があり、「この1台のために頑張れる」と思える瞬間が確かにあった。車を心のサプリメントに──そんな思いを掲げ、RESENSEを創業。性能だけでは語り尽くせない、車という文化や歴史を紐解き、物語として未来へつなげていきたい。





















