- ポルシェ / 911 ターボS(2020)
不動の王者
ポルシェ911ターボS(992型)に試乗。瞬間加速に何度も驚いた筆者がターボS感じたのは、「驚き」ではなく「衝撃」、いや「恐怖」だった。

992型ターボSはどう変わったのか
992型ポルシェ911のフラッグシップモデル「ターボS」に乗れると聞いて、筆者は密かに浮足立っていた。車のインプレッションには常に「巡り合わせ」というものがあり、運良くトライできる車は何度でもトライできるし、一方で特定の車にずっと乗れず仕舞いということも少なからずあるのだ。
こと911ターボについては、930の時代から「5分後に乗れる」とワクワクしていたらフライトの都合でキャンセル、964にいたっては取材直前にトラブル、997は自身の体調不良など、神様のいたずらともいうべきか、とにかく縁がなかったのだ。
「992ターボSがすごい」という話は、レセンス編集部員から聞いていたけれど、しかし2020年のデビューから4年が経ってもチャンスなし…。諦めかけていたタイミングの朗報だった。
911ターボS(992型)の心臓部は、911カレラをベースとするもので、完全なる再設計吸気冷却システム、ステッピングモーターが制御するウエストゲートフラップを備える大型可変タービン構造、応答性/出力/トルク特性/エミッション挙動/吹け上がり性能を大幅改善するピエゾインジェクターの使用がトピックだ。タービンホイールの直径は55mm(+5mm)に、コンプレッサーホイールの直径は61mm(+3mm)に拡大され、3.8リッター水平対向6気筒は650ps(+70ps)と800Nm(+50Nm)、0-100km/h加速タイムは2.7秒(−0.2秒)という数値を掲げるに至った。
992型ターボS 内外装の特徴は?
内外装にも変化が加えられている。
外装においては、フロントアクスル上部では45mmワイドになり1840mm、リアアクスル上部では20mmワイドとなり全幅が1900mmになった。トレッドはフロントが42mm、リアが10mmワイドになり、ポルシェ・アクティブ・サスペンション・マネジメント(PASM)スポーツシャシーは車高を10mm低くする。
エアインテークはワイドになり、標準のLEDマトリックス・ヘッドライトのダークインサートと合わせたターボ特有の外観が、迫力を際立たせる。
リアに回ると大きなリアウイングが左右に張り出す。角型テールパイプなどターボにしかないディテールは、GT3のような、わかりやすいレーシーさとは異なる、「無言の圧」を周囲に陽炎のごとく振りまいている。
内装は歴代ターボと等しい文脈だ。決してスパルタンというわけではなく、最低限の高級感とシンプルさ。運転に没頭できる上質な仕事場、といった表現が適切だろうか。シンプルであればあるほど、素材勝負になることはご承知のとおり。メーターパネル中央に「turbo S」のグラフィックがあしらわれる。
右手でキー(厳密にはキースイッチ)を撚ると、ざらついた、大きな音が爆発音が即座に響く。その後、911のフラッグシップの怪力をまざまざと見せつけられることになる。
極めて高い「巡航」速度域にこそ
京都の混雑した街中を走る限り、911ターボSは、硬く、無骨で、そっけない車だ、という印象を抱いた。排気音こそ大きくないけれど、さすがに前20、後21インチの低扁平率かつ極太タイヤのあげるノイズや硬さを隠し切ることなぞできず、だったらもっと音で酔わせてくれるGT3のほうがいいな、などという自らの身分を度外視したわがままな思考が先走ったりするのだった。
道が空いた。ノーマル・モードのままアクセルを踏み抜いてみた。タイヤは永遠かと思えるほど空転を続ける。その後、ガッ、ガッと路面と捉えたかと思うと、尻を沈めたまま脱兎のごとく、いや猪のごとく前に突き進む。
その後、加速にもう一段階あることに気づく。「わ、速い」という驚きから少し遅れて、もう一発、さらに何倍ものトルクが湧き上がり、内臓を締め付ける。脳を置き去りにする。気づくと遠く離れていた前方車両がすぐ目の前にあった。唇は乾き、気の利いた感想が出て来ぬ程の衝撃。嘘だろう…。
ハイパワーEVがもたらす瞬間加速に何度も驚いた私がターボS感じたのは、「驚き」ではなく「衝撃」、いや「恐怖」。吐き気を感じ、落ち着くまでにしばらく時間を要した。
極めて高い巡航速度域にこそ、ターボSが解き放たれる領域がある。瞬間ではなく、巡航というところがポイントだ。
GT3と比べると一見わかりづらいアプローチかもしれない。しかし「911ターボ」に熱いファンが存在し、世代が変わるごとに乗り換えていきたくなる気持ちがわかった。ターボ、万歳。