大きさに身構えるが、走り出せばその印象は静かに裏切られる。最新の技術を纏いながら、主張せずに扱いやすさへと昇華するEクラス。伝統は守るものではなく、自然に更新されるものだと教えてくれる。
大きいのに扱いやすい
このEクラスを前にして、まず驚かされるのはサイズ感だ。実車を目の前にすると、想像していた以上に堂々としている。
だが、その印象は走り出してすぐに修正される。
このクルマは確かに大きい。しかし、扱いづらさとは無縁だ。
狭い交差点や街中での取り回しは、感覚的には一回り小さなセダンに近い。この軽快さに、驚きと同時にどこか懐かしさを覚える。
実は、この取り回しの良さは目新しい価値ではない。
メルセデス・ベンツにとって、大きなセダンが扱いやすいことは伝統だ。
高速道路だけでなく、日常の生活圏で自然に使えること。それこそが、長年Eクラスに課されてきた役割だった。
そしてこの個体は、その伝統を最新のリアアクスル(後輪操舵)技術が大いに後押ししている。
低速域では後輪が前輪と逆位相に動き、ボディの大きさを意識させない。高速域では同位相となり、直進安定性を高める。
だが重要なのは、この技術が決して前に出てこないことだ。
ドライバーは「小回りが利く」と感じるだけで、制御の存在を意識させられることはない。
あくまで自然に、あくまで伝統の延長として機能している。
メルセデスの思想そのもの
足まわりの印象も興味深い。
直近のEクラスが、アジリティを意識するあまり引き締められた印象を残していたのに対し、このモデルでは随分と角が取れた。
かといって、Sクラスのようにすべてを受け流すわけではない。
路面との距離感は明確に保たれ、ドライバーは常にクルマの状態を把握できる。
この塩梅が、ドライバーズカーとして非常に巧みだ。
操る楽しさを残しながら、決して緊張を強いない。それは偶然ではなく、メルセデスが長年培ってきたセダンづくりの知見の結晶だろう。
セダンだからこそ
ここで、SUVとの違いがはっきりしてくる。
SUVは万能で便利だ。
だが、その万能性の代償として、メルセデスが本来大切にしてきた思想の濃度は、どうしても薄まる。
視点の高さや快適性は手に入るが、路面との関係性や、クルマと身体の一体感はどうしても抽象的になる。
セダンであるEクラスは違う。
低い重心、自然な着座位置、視界と車体の一体感。
そこに、メルセデス・ベンツが長い時間をかけて積み重ねてきた「移動をどう設計するか」という思想が、濃密に立ち上がってくる。
最高峰の道具
スリーボックスというオーソドックスなパッケージは、今の時代だからこそ新鮮だ。
SUVが固定観念となった今、このEクラスは「クルマとは何だったのか」を静かに問い直してくる。
大きいのに扱いやすい。
快適なのに、運転が曖昧にならない。
華美ではないが、満足度は確実に高い。
やはり思う。
メルセデス・ベンツは、最高峰の道具だ。
このEクラスは、その事実を、派手な演出ではなく、日常の一つひとつの操作の中で丁寧に思い出させてくれる。

河野浩之 Hiroyuki Kono
18歳で免許を取ったその日から、好奇心と探究心のおもむくままに車を次々と乗り継いできた。あらゆる立場の車に乗ってきたからこそわかる、その奥深さ。どんな車にも、それを選んだ理由があり、「この1台のために頑張れる」と思える瞬間が確かにあった。車を心のサプリメントに──そんな思いを掲げ、RESENSEを創業。性能だけでは語り尽くせない、車という文化や歴史を紐解き、物語として未来へつなげていきたい。


















