996型のターボとは

ポルシェ911（996型）は、993型の後継で、後に997型に引き継がれる、初の水冷式エンジン搭載車である。抜本的に新設計された初の911でもある。993型までは改良設計されたシャシーが使われのだ。内外装も大幅に生まれ変わった。

前期と後期、大きく2種類に分かれる996型は、まず1998年にカレラ・クーペ、カレラ4、99年にカブリオレが後を追う。2002年にはマイナーチェンジが実施され、電動ガラスルーフを備えるタルガ、ターボ、ターボSが加わる。その他カレラ4S、GT3、GT3 RS、GT2など幅広く派生モデルが用意された。

マイチェン前後の変更点は、ヘッドライト、前後バンパー形状、トレッド/フェンダー拡幅、シャシー強化（捻り/曲げ剛性＋25%）。パワートレインも進化。バリオカム・プラスが導入され、バルブタイミングは連続可変式に、リフト量も変化を受けた。

911ターボとGT2のボア×ストロークは共通のφ100mm×76.4mmの3600cc。ターボは420psを叩きだした。駆動方式4WDで、5速ティプトロニックを組み合わせた。

この記事の主役、911ターボ（996型）は、420 ps/6000rpm、560Nm/2700-4600rpmを湧出。100km/hまで4.2秒で駆けた（ティプトロニックSは4.9秒）。最高速度は305km/hに達した。

ポルシェ911GT3（RR/6MT）／ポルシェ911カレラ4Sカブリオレ（4WD/5AT）両極にある陶酔

既にわれわれはカレラ4SカブリオレとGT3を試乗している。となればターボのキャラクターが知りたくなるわけで…。

最新型より速い？

バサルトブラックの塗料を身にまとった911ターボは、決してこの車が特別なモデルだと知らなくとも振り向いてしまうオーラを放っているようにみえる。

フロントフェンダーは＋15mm、リアは＋60mm膨らんでいる。現代の911に比べると遥かに小さいにもかかわらず凄みがある。

キーを撚ると太く、低い音がリアから聞こえてくる。GT3と比べると遮音が効いている。

走り出すと乗り心地のやわらかさに気付く。PSMが標準装備であり、カレラ（前期）よりも車高が15mm下がっているものの、不快な突き上げはほとんどの場面で無かった。ボディ側が今ほどの剛性ではないことも、この優しい乗り味に繋がっているのかもしれない。衝撃は分散され、ゆるく逃される。

お待ちかねの加速である。私は最初からアクセルを深々と踏んだ。リアが沈み込み、一瞬の間をおいて前へ前へと進みゆく。トルクは無限だと錯覚してしまうほど終わりなく湧き上がる。速い……。

私は現代の911ターボよりも速く感じるという、不思議な感覚に陥った。今ほど巧みな制御があるわけではない。その上、わかりやすい制御があるわけではない。

その分、鼓動がそのまま背中を通し伝わり、サウンドが曇りなく耳に届く。この時代ならではの「味わい」であり、脚色という武器を持たなかったゆえの「凄み」なのだ。

もうひとつ、ティプトロニックにも改めて好感がもてた。マニュアルのダイレクト感、PDKの変速スピードと比較すると、どうしてもティプトロニックは可哀想な立場になることが多い。しかし2000年前後の緩く楽しめるキャラクターに、実はティプトロニックがマッチしていることを再発見したのだった。

再発見する魅力が

運転を交代して助手席に座った。少し余裕をもって車を見つめられる。

香り。革の香りだろうか、カーペットだろうか。懐かしい香りが鼻孔をくすぐる。ボタンの多いインパネ、ちょっとチープなシフトノブの感触。ポヨンとやわらかいシート。そのどれをとっても、われわれの知る懐かしいポルシェであり、憧れたポルシェだ。

高い性能を押し出し過ぎず、というかもう少しわかりやすく謳ってもよかったのではないかと思えるほど控えめな佇まい。今となっては隅々まで愛くるしく感じられる。

あるいはそう感じられる余裕が、時を経ることで、出てきたのかもしれない。

ぬるりと変速し、ワンテンポおいて減速する。その気になれば、今でも、周囲の車を置き去りにすることが出来るほど速い。

時を経て再発見する魅力がある。ポルシェ911ターボはそんな車だと感じる。まだ手に届く所にあることを感謝したい。