ポルシェ911GT3(RR/6MT)/ポルシェ911カレラ4Sカブリオレ(4WD/5AT)両極にある陶酔

ポルシェ911GT3(RR/6MT)/ポルシェ911カレラ4Sカブリオレ(4WD/5AT)両極にある陶酔

同じ996世代のポルシェ911GT3とカレラ4Sカブリオレを比較試乗。それぞれの違い、いずれかにしかない突出したポイントを探った。同じ911だということが憚られるほどの違いだった。

現状打破したかった、あの時代

ポルシェ911。中でも996世代について、レセンス読者の皆様は、どんなイメージをお持ちだろうか。

911史上初の水冷エンジン? 涙目ヘッドライト? あるいは最近の上げ相場?

いずれにしても996世代の911は、ポルシェにとっての意欲作であった。

まずはデザイン。この頃デザイナー界隈では、初めてコンピューターグラフィックスがツールとして出回りはじめた。実際に996世代の911を目の前にすると、直線、平面が1つとしてない。空気を膨らませたような、滑らかな三次曲面だ。こんな911は後にも先にもない。

そしてエンジン。996世代の911がデビューするまでの初代から30年、ずっと空冷エンジンを貫いてきたが、水冷エンジンが取って代わった。効率(環境性能)とパフォーマンスへの配慮の結果だ。

標準のモデルのカレラ、そして四輪駆動のカレラ4/カレラ4S、ガラス・スライディングルーフのタルガ、高速性/快適性の両立を実現したターボ、そしてサーキット走行性能を見据えたGT3。

カレラやカレラ4/4S、ターボにはカブリオレモデルも用意された。

そんな多様な911の中で今回並べるのは、カレラ4SカブリオレとGT3。対局にあるような2台。どれほどの違いがあるのだろう?

カレラ/カレラ4S/GT3のスペック

ポルシェ911(996)のうち、カレラ/カレラ4S/GT3のスペックを比べてみたい。

カレラ
・新車価格:1039万5000円
・全長:4430mm
・全幅:1770mm
・全高:1305mm
・トレッド(前):1465mm
・トレッド(後):1500mm

・最高出力:320ps/6800rpm
・最大トルク:370Nm/4250rpm

カレラ4S ※()内はカブリオレ
・新車価格:1241万1000円(1493万1000円)
・全長:4435mm
・全幅:1830mm
・全高:1295mm
・トレッド(前):1470mm
・トレッド(後):1530mm

・最高出力:320ps/6800rpm
・最大トルク:370Nm/4250rpm

GT3
・新車価格:1764万円
・全長:4435mm
・全幅:1770mm
・全高:1275mm
・トレッド(前):1490mm
・トレッド(後):1490mm

・最高出力:381ps/7400rpm
・最大トルク:385Nm/5000rpm

今回比較する、カレラ4SカブリオレとGT3。馬力の差(60ps)、トルクの差(15Nm)、それと全幅やトレッドが数値上の大きな違い。

乗った印象はどう違うのだろう? まずはGT3のステアリングを握った。

911GT3はすなわち「武器」だ

筆者個人の経験を申し上げると、これまで996世代の911は、カレラ(前期)、カレラ(後期)、カレラ4(後期)、ターボ(後期)のクーペをドライブしており、恥ずかしながら996世代のGT3は憧れを懐きながら縁遠かった。

だからGT3に乗ると、まずスパルタンなシートに驚いた。さながらレースカーだ。

そしてエンジンが目を覚ますと余計に驚いた。音量は現代ポルシェのGT3に比べて控えめだが、その反響である。リアシートを省き、消音材を減らしたことで、明確なメカニカル音が室内を支配する。

硬い金属同士が擦れ合うような荒々しい音。私の肩にも自然と力が入る。

かっちりとしたショートストロークのシフトノブを1速に入れると、思っていたよりもクラッチミートする領域が狭いことに気が付く。スコンとギアが繋がった刹那、勢いよく車は飛び出した。

1速から2速へ、8200rpmまできっちりとエンジンを回して変速する。私はこれまでも何度か、車のエンジン回転フィールについて「淀みない」という表現を使ったことがあるけれど、それらを撤回したくなるほど、緻密でなめらか。気がついたらレッドゾーンに入ってしまう直前であった。

クラッチを踏んで3速へ。ダラダラと変速しているとあっという間に回転は落ちる。心を入れ替えて全開。

目の前にタイトなコーナーが訪れた。

然るべきブレーキングの後、996カレラを運転した経験を踏まえて大きめに舵を切る。GT3は思ったよりも急激に向きを変えた。なんとソリッドなことか! 自分が車の先端にいるかのような感覚に陥った。それほどクイックなのである。

いくつかのコーナーをやり過ごした後に、さらにスピードを高めてみた。出口のアクセルオンも早めてみた。すると明確に「ここからはお尻を滑らせます」というメッセージがステアリングに伝わった。「あなたはそれに対処できますか?」。そう言われているような気もした。

この時、私は息が上がっていた。車の運転をして、脈拍が速まるという経験はあったけれど、息が上がったのは初めてのことであった。

全身を癒やしてくれたカレラ4S

ポルシェ911カレラ4Sに乗り換える前に、この車の外観を眺めてみた。

911ターボ(996)譲りの開口部の大きなフロントバンパー。カレラより、もっちりと膨らんだリアバンパー。左右のテールライトを水平につなぐリアガーニッシュ。とてもゴージャスな佇まいだ。

その印象は室内を見ても変わらない。レザーに覆われた室内は、車齢18年だというのに、大人っぽいレザーの香りがまだする。

シートに腰を下ろすと、ふんわりとした座面が体を支えた。いつも思う。ポルシェのシートはサポートが希薄な見た目である反面、とても心地よい(そして疲れない)

キーを撚ると、後ろで目覚めた水冷エンジンは、車体の遥か後ろで蠢いているように感じる。GT3のあの盛大な音と比べると、その静けさにはっとする。

こちらはティプトロニック。ガチャガチャっと「D」に入れると、そろりと2速でクリープ発進した。アクセルに足を添えると、ふわりと加速し始めた。

道は一般道。あまりよい道ではないけれど、臀部に下から伝わってくる入力は、適度に丸め込まれている。

アクセルをじわりと深く踏んで見ると、水平対向6気筒は、3595ccらしい豊かなトルクを湧き上がらせて加速する。

風切り音ひとつ発生させない。大気と一体になったかのよう。私はプールの水の中を泳いでいるような気分になった。

ノンストレス。そんな言葉を頭に思い浮かべる。カミソリのような911 GT3に乗った後だと余計にそう感じる。

だからといって薄味ではない。隅々まで一体感がある。赤信号で止まると、窓の外からエグゾーストの香りが鼻腔をくすぐった。どこか懐かしい気持ちになった。90年代の車の「生っぽさ」に触れた。

全ては突出した技術力のなせる技

同じ車なのに、かくも違うものか。

試乗前の予想は軽々と打ち砕かれ、越えられてしまった。

これは想像の話ではあるけれど、生産の「効率」などを考えれば当然、カレラを設計する際に、4Sを、GT3をどう作り分けるか、予め考えているのが現代の真っ当な工業というものだろう。

しかし996世代の911のバリエーションを味わうと、まずカレラが完成しました、さてここから4Sを、GT3を作り直しましょうか、といった試行錯誤の上の明確な差別化を感じるのは私だけだろうか。それくらいに「別モノ感」がある。

レースマシンさながらのGT3に打ちのめされ、4Sに癒やされた。

車というのは、いやポルシェという車は、実に面白いと思った。突出した技術力のなせる技だと感動した。

GT3と4Sの2台両方をガレージに入れ、平日は4Sを、休日はGT3を…なんて思っている自分の頬を叩いて現実世界に戻ることにしたのだった。

SPEC

ポルシェ911GT3

年式
2003年
全長
4435mm
全幅
1770mm
全高
1275mm
ホイールベース
2355mm
トレッド(前)
1490mm
トレッド(後)
1490mm
車重
1400kg
パワートレイン
3.6リッター水平対向6気筒
エンジン最高出力
381ps/7400rpm
エンジン最大トルク
385Nm/5000rpm
サスペンション(前)
マクファーソンストラット
サスペンション(後)
マルチリンク
タイヤ(前)
225/40 ZR18
タイヤ(後)
295/30 ZR18

ポルシェ911カレラ4Sカブリオレ

年式
2004年
全長
4435mm
全幅
1830mm
全高
1295mm
ホイールベース
2350mm
トレッド(前)
1470mm
トレッド(後)
1530mm
エンジン最高出力
320ps/6800rpm
エンジン最大トルク
370Nm/4250rpm
サスペンション(前)
マクファーソンストラット
サスペンション(後)
マルチリンク
タイヤ(前)
225/40 ZR18
タイヤ(後)
295/30 ZR18
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