ポルシェ・911S(RR/5MT)クラシックに自由を

オリジナルに縛られず、930を現代の感覚で仕立て直した一台。鮮やかなスピードウェイグリーンと張り替えたツートーンの室内が呼応し、クラシックを“自由に楽しむ”という新しい道を示している。

オリジナルに縛られず、930を現代の感覚で仕立て直した一台。鮮やかなスピードウェイグリーンと張り替えたツートーンの室内が呼応し、クラシックを“自由に楽しむ”という新しい道を示している。

オリジナルから距離を置いて

930型911は、もはや古いスポーツカーという呼び方では収まりきらない年代に入っている。

誕生から半世紀近くが経ち、維持し続けるには、ボディ・内装・機関のどこかに必ず大きな手入れが必要になる。オリジナル重視で丁寧に残すという道もあるが、それだけが正解ではない。

どうせ手を入れるなら、修復ではなく“再構築”に振り切った考え方があってもいい。

今回の911Sは、そんな発想から生まれている。

ポルシェ・911S(RR/5MT)クラシックに自由を

インテリアの大がかりな張替を避けて表面だけ整えるのではなく、シート前後、ルーフライナー、ドアトリム、ダッシュボード、カーペット、ステアリング──触れる部分も目に入る部分も、すべてを一度リセットしている。

クラシックカーのオリジナルを守ることには確かな意味があるし、当時の空気をそのまま手に取れる貴重な文化でもある。

しかし、そこだけに囚われすぎると、このクルマが持つまだ見ぬ魅力や楽しみ方を自ら狭めてしまうことになる。

オリジナルという軸から少し距離を置いたところに、新しい価値を生み出そう──それが今回の試みだ。

ポルシェ・911S(RR/5MT)クラシックに自由を

存在感の塊

外装色のスピードウェイグリーンは、930の丸みを帯びた面と細いピラーをくっきり見せてくれる。濃すぎず、浅すぎず、クラシック911の曲面がそのまま光を受け止める独特の明度を持つカラーだ。

その色に合わせて、インテリアの方向性を無難な収まりではなく、意図のある組み合わせへと振った。

それがホワイト×キャメルのツートーン。外から見ただけでもガラス越しにインテリアが存在感を放ち、普通の911とは明らかに異なる雰囲気をつくっている。

ポルシェ・911S(RR/5MT)クラシックに自由を

実際に座ってみると、ツートーンの華やかさがそのまま空間全体に広がり、外装色の明るさとしっかり呼応しているのがわかる。素材も色も、このスピードウェイグリーンに負けない勢いを持っている。

色だけではなく、細部の作り込みもまた室内の雰囲気を形づくっている。

シートや天井に刻まれたプリーツは、のっぺりしがちな白い面に陰影を与え、空間に軽い表情をつくる。ステアリングのキャメルレザーに走る白いステッチは小さなアクセントとして効き、古い計器類との対比が独特の佇まいを生んでいる。

ポルシェ・911S(RR/5MT)クラシックに自由を

クラシック911は、デザインの大半が線と面で構成されている。だからこそ、色を置く位置でその印象は大きく変わる。

ドアトリムの白いパネル、キャメルのダッシュ、真新しいカーペット──これらが緑のボディと水平のラインを共有することで、昔の911に新しい空気が流れ込む。

ポルシェ・911S(RR/5MT)クラシックに自由を

軽やかさと高揚感

930というクルマは、古さやその価値を考えても毎日乗るような存在ではない。ガレージに置いて眺めているだけでも十分に所有欲を満たしてくれる。

だからこそ、特別な日や少し気分を変えたい休日に連れ出すと、この仕様ならではの華やかさが、その時間を一段引き上げてくれる。

郊外を飛ばして遠出するよりも、街のなかをゆっくり流す方が、このクルマは映える。街の速度域で、空冷の振動と排気音に合わせてクラッチをつなぎ、信号待ちではガラス越しにツートーンの白が光を返す。

ポルシェ・911S(RR/5MT)クラシックに自由を

ファッションに例えるなら、外しアイテムでありながら、ここぞという時に選ぶ“特別な一着”のような存在だ。全身を整えたスタイルに強い色を差すような軽やかさと、自然と背筋が伸びるような高揚感が同居している。

外から見えるグリーンと、ガラス越しに覗くツートーンの内装——その両方が、狙いどおりのアクセントになっている。乗る人のテンションを少しだけ上げ、普段の景色をほんの少し違うものに変えてくれる。

ポルシェ・911S(RR/5MT)クラシックに自由を

自由に向き合える存在

古い車だからこそ、年式相応のケアが必要なのは言うまでもない。だが、記録簿21枚が示すように、この個体は長く手をかけられてきた素性の明るい一台だ。

もちろんクラシックカーならではの理解と覚悟は必要だが、これだけの履歴があれば、これから楽しむための確かな支えになる。

ポルシェ・911S(RR/5MT)クラシックに自由を

クラシックカーを所有するときに感じがちな“守らないといけない”というプレッシャーから解放し、もっと気軽に、もっと自由に向き合える一台だ。

スピードウェイグリーンの軽やかさと、張り替えた室内の明るさ。50年近い時間を経た素材に、現代の感覚がゆっくり重なっていく。

オリジナルの歴史と、これからの使い方。そのどちらも大切にできる第三の選択肢として、この一台を提案したい。

ポルシェ・911S(RR/5MT)クラシックに自由を
  • 河野浩之 Hiroyuki Kono

    18歳で免許を取ったその日から、好奇心と探究心のおもむくままに車を次々と乗り継いできた。あらゆる立場の車に乗ってきたからこそわかる、その奥深さ。どんな車にも、それを選んだ理由があり、「この1台のために頑張れる」と思える瞬間が確かにあった。車を心のサプリメントに──そんな思いを掲げ、RESENSEを創業。性能だけでは語り尽くせない、車という文化や歴史を紐解き、物語として未来へつなげていきたい。

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