アルピナB6クーペ/BMW 650iグランクーペ(FR/8AT)似て非なり

アルピナB6クーペ/BMW 650iグランクーペ(FR/8AT)似て非なり

BMW 6シリーズ・ベースのアルピナB6クーペとBMW 650iグランクーペに試乗。なぜアルピナらしさが色濃く出せるのか。驚きだ。

似て見える2台

アルピナB6クーペとBMW 650iグランクーペ。同じV型8気筒ツインターボを搭載し、6シリーズをベースとする。

であれば、アルピナはどれほど特別なのか?もっといえば、ほとんど同条件でアルピナらしい味を出せるのか?が知りたかった。

エンジンは同じV型8気筒ツインターボでありながら、650iは450ps/5500-6000rpmと650Nm/2000-4500rpmを発揮する。B6は600ps/6000rpmと800Nm/3500-4500rpmと少なからぬ差がある。

トランスミッションは8速AT(ZF 8HP70)で共通だが、タイヤサイズの違い(650iが前:245/40 R19、後:275/35 R19であるのに対し、B6が前:255/35 ZR20、後:285/30 ZR20)も走りに影響するだろう。

内外装も違う。試乗したアルピナB6は、定番のデコラインをまとい、エアロが特別なものになっている。ホイールもアルピナらしい「アルピナ・クラシック」を履く。内装は特に650iから乗り換えると、構成するデザインは同じであるのに雰囲気が全く違う仕立てだった。詳しくは後述する。とにかく走り出そう。

BMW 650i

まずはBMW 650iに乗った。いわゆるBMWというブランドから連想するイメージ通りだ。

ごく低速域からステア操作に対する反応は鋭い。グランドツアラー的立ち位置は尊重しつつ、みずから曲がりたがる性格である。

高速域になってもこの性格は変わらない。たとえば九十九折を積極的に走らせるシーンでも、想像より速いタイミングでノーズが内巻きになる。例えばメルセデス・ベンツなどから乗り換えると新鮮に感じる挙動だと思う。

気になったのは乗り心地だ。決して硬くはないところは美点だけれど、一言でいうと落ち着かない。一般道を流す程度では気づかないどころかむしろ心地よいのだが、高速域のコーナリング時に下から唐突で大きめな入力があると、その後の縮み/伸びが大げさなほど大きい。収束までにも複数回の往復運動を要す。結果、高速域は、ぶわぶわとして不安な気持ちになった。

良いなと思ったのはインテリアだ。ドライバーズシートを中心に、まずダッシュボードが弧を描く。そしてセンターコンソールも巻き込むようにデザインされている。ボディサイズを感じさせない落ち着きがある。セダンモデルとの棲み分けがとてもうまく行っている。同じ手段をジャガーのセダンも採るが、6シリーズのそれは、10年以上も前のデビューであることが信じられないほど現在でもモダンである。

アルピナB6

アルピナB6に乗り換えた。シートに座ると、まるで全く別の車であるかのような錯覚に陥る。理由はウッドの使い方や効果的なステッチ、シートの座り心地によるところが大きい。

室内は一気に明るく華やぎ、しかし落ち着きがある。元あるデザインをどうアルピナの空気にするか慎重に吟味したことが窺える。同乗した編集部員も「アルピナだなあ」と独り言ちた。

走り出してもすぐにアルピナが作った車だと実感する。650iでは添加物による味付けに近い鋭さを感じたが、B6は全ての所作がナチュラルだ。重すぎない。軽すぎない。ステアリングを切れば、アクセルを踏めば、その分だけの反応を寸分の狂いなく見せる。気持ちがいい。

心配していた1インチアップ分の乗り心地は、むしろより良くなっていた。アシがよく動く。トレッド増加分がノイズ発生のトレードオフになることはよくあるけれど、室内が650iよりも静かであることも不思議な魅力であった。

V型8気筒ツインターボもなめらかに回る。しかし殊更に主張することはない。車全体のフィールのための重要な要素でありながらあくまで黒子に徹する。幹は太く、しかし穏やかだ。

結果、アルピナB6は、BMW 650iよりも遥かに速く、遥かに快適な車であり、しっとりと落ち着きがある。本当に同じベースの車なのかと勘ぐりたくなるレベルであった。

しかし編集部内では結論が割れた。

分かれた意見

私達はそもそもアルピナへの羨望や愛着がある。ありすぎるといってもいい。だからレセンス編集部の別メンバーも含めて反応を聞いた。

価格まで考慮すると、それは高いほうが良いという事になりかねないので、敢えて価格は考えず、乗り味のみにフォーカスした。これもまた中古車の良いところかもしれない。

結果、650iの方が良いという答えと、その逆が真っ二つに分かれた。面白い。

理由を聞くに、650iを推す声のなかには「日常域が機敏で面白い」というものが多かった。アルピナB6は「自分の意のままに操ることができる」という内容に集約された。前者は「BMWらしさ」によるものだと思う。事実、そういうスタッフは3シリーズを普段の移動のアシとして所有しており、それと共通する部分を良しとしていた。後者はポルシェなどの経験が豊富なエンスージアストが多かった。

車に何を期待するかによって、同じ車でも、見え方が違うから面白い。

少なくとも私はアルピナの価格に正当性があると感じるどころか、あれだけの得も言われぬ乗り味を手にできる価格としてはバーゲンだとさえ感じる。また、6シリーズを全く異なるレベルに仕立てたアルピナに敬意を表したい。

SPEC

アルピナB6クーペ

年式
2013年
全長
4895mm
全幅
1895mm
全高
1370mm
ホイールベース
2855mm
トレッド(前)
1600mm
トレッド(後)
1640mm
車重
1950kg
パワートレイン
4.4リッターV型8気筒ツインターボ
トランスミッション
8速AT
エンジン最高出力
600ps/6000rpm
エンジン最大トルク
800Nm/3500-4500rpm
サスペンション(前)
ダブルウィッシュボーン
サスペンション(後)
インテグラル・アーム
タイヤ(前)
255/35 ZR20
タイヤ(後)
285/30 ZR20

BMW 650iグランクーペ

年式
2013年
全長
5010mm
全幅
1895mm
全高
1390
ホイールベース
2970mm
トレッド(前)
1600mm
トレッド(後)
1640mm
車重
2000kg
パワートレイン
4.4リッターV型8気筒ツインターボ
トランスミッション
8速AT
エンジン最高出力
450ps/5500-6000rpm
エンジン最大トルク
650Nm/2000-4500rpm
サスペンション(前)
ダブルウィッシュボーン
サスペンション(後)
インテグラル・アーム
タイヤ(前)
255/35 ZR20
タイヤ(後)
285/30 ZR20
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