フランス車の魅力は、狙って作られた個性ではなく、生活の中で磨かれてきた感覚にある。セニックRX-4は、4WDとMTという実用的な成り立ちの中に、道具としての美意識と、日常を楽しむための余白を自然に宿した一台だ。
狙ったわけではない乗り味
フランスでは、クルマは特別な存在ではない。
移動のための道具であり、生活を成り立たせるための一部。だからこそまず求められるのは、しなやかさであり、日々使い続けても疲れないことだ。
フランス車の「乗り味」が独特なのは、スポーツ性や高級感を狙った結果ではない。生活の中で使われることを前提に、路面や速度、荷物や人の重さを自然に受け止めるように作られてきた。その積み重ねが、結果として独自の質感を生んでいる。
セニックRX-4も、その思想の延長線上にある一台だ。
生活の道具にこそデザインを
興味深いのは、フランス人が「道具」を決して無味乾燥な存在として扱わない点だ。
生活に必要なものだからこそ、そこに色を置き、形に遊びを与える。機能だけで完結させず、使う人の気分や、日常の風景まで含めてデザインする。
このセニックRX-4のヴェルティゴグリーンのボディカラーは、その象徴だろう。
4WDという実用的な成り立ちを持ちながら、佇まいはどこかユーモラスで、アウトドアギアというよりも「暮らしの延長線上」にある表情をしている。
道具であることと、ファッション性を持つことは矛盾しない。むしろフランスでは、その両立こそが自然なのだ。
自分の感覚で進める
日本で唯一、MTとして存在したセニック。
日本仕様のセニックの中で、マニュアルトランスミッションが与えられたのは、このRX-4だけだった。
自分で操作し、自分の感覚で進ませる。その行為は、クルマを単なる移動装置としてではなく、生活の中の道具として扱う感覚に近い。
しなやかな足まわりと、過度に演出されていない操作系。速さを誇示するわけでも、快適さを押し付けるわけでもない。
ただ、自分のペースで日常を進めるための設えが、淡々と用意されている。
機会は多くないけれど
もうひとつ、このRX-4には無視できない背景がある。
そもそも当時、日本に入ってきた台数はごくわずかだった。加えて、多くを占めたAT仕様は、信頼性の面で不安を抱えやすく、故障をきっかけに姿を消した個体も少なくない。
結果として、現在も走れるセニック自体が非常に少ないのが実情だ。
その中で、MTで、RX-4で、きちんと残っている個体となると、出会える機会は限りなく少ない。
このクルマは、性能で語る存在ではない。合理性だけで選ぶクルマでもない。
けれど、生活の中でクルマを使い、その道具に少しの色気や楽しさを求める人にとって、これほどふさわしい一台も珍しい。
セニックRX-4は、フランス人が「道具」をどう捉えてきたかを、誠実に教えてくれるクルマだ。

河野浩之 Hiroyuki Kono
18歳で免許を取ったその日から、好奇心と探究心のおもむくままに車を次々と乗り継いできた。あらゆる立場の車に乗ってきたからこそわかる、その奥深さ。どんな車にも、それを選んだ理由があり、「この1台のために頑張れる」と思える瞬間が確かにあった。車を心のサプリメントに──そんな思いを掲げ、RESENSEを創業。性能だけでは語り尽くせない、車という文化や歴史を紐解き、物語として未来へつなげていきたい。



















