ランチア・テーマ8.32(FF/5MT)走る伝説

ランチア・テーマ8.32(FF/5MT)走る伝説

ランチア・テーマ8.32に乗ることが決まった時は、素直に嬉しかった。伝説のこの車に乗るとどんな景色が待っているのか。走り出すと、妄想を超える領域が待っていた。

ランチア・テーマ そして8.32

ランチア・テーマとはどんな車なのか?

ベータ(β)とガンマ(γ)の後継車として1984年から1994年にかけて製造していたFF方式の乗用車である。86年にはステーションワゴンも加わった。

コスト削減への要求が高まった結果、テーマの他にサーブ9000、アルファ・ロメオ164、フィアット・クロマが基本と共有した。いずれのモデルもベーシックな駆動方式はFFであるが、ゆったりとした余裕あるエクステリアデザインがどことなく共通している。

合理的な生産フローもあって、テーマは結果的に商業的な成功を収めた。

デビューから2年後の1986年、奇妙なモデルが加わった。テーマ8.32である。8.32はV型8気筒32バルブの意。

フェラーリ308GTB/GTSクワトロバルボーレ用の3リッターV8 DOHC 32バルブである。これをフロントに押し込む。

とはいえカジバが手を加えている。これが乗った印象にも大きく影響している。まずは乗ってみようではないか。

テーマ8.32の走りはどんなもの

ワインレッドのボディを纏うランチア・テーマ8.32は、控えめでありながらも、気品と豪華な雰囲気を強く放っていた。春先にしずかに、しかし強く香る沈丁花のようだと思った。

あまりにシンプルな面構成であるものの、その角度や膨らみが1℃でも1mmでも異なると緊張感が台無しになる。ジョルジェット・ジウジアーロ。なんと罪なデザイナーであろうか。

極めて控えめに特別なモデルであることを主張する外観に対して、内装は贅を尽くしたもの。隙間という隙間にびっしりとポルトローナ・フラウの革が覆い尽くす。

メーターパネルやドア内張りには鮮やかなウォールナットが貼られる。一見ブラウン一色ではあるが、ステッチの入り方や革のやわらかな膨らみのおかげでたくさんの表情を味わえる。走らせるまえから浸れる、のである。

ぐにゃりとシフトノブを1速に挿入。アップライトな姿勢でクラッチをモコっと戻せば、雄大なトルク、太いサウンドとともにテーマ8.32は前に進むのであった。

ステアリングの操作に対し、じんわりとクルマは向きを変える。シフトアップすると、215ps/6750rpm、284Nm/4500rpmのパワー/トルクがもりもりと湧き上がってくる。160km/h程度の高速巡航はへっちゃらであり、何より乗り心地が柔らかく路面に吸い付くような走りを披露する。

そう、すべての動きがジェントルでなめらか。車の実サイズよりも更に大柄な車に乗っているような錯覚に陥る。これこそがランチアの得意とするプチブル感であり、さらに贅沢なエンジンが、プチどころか本当のラグジュアリーカーに仕立ててくれているのかもしれない。

もっと遠くへ走りたい衝動が

最後にちょっとだけマニアックな話。ご興味があるかたはご覧下さい。

じつはテーマ8.32のエンジンにちょっとした違和感を覚えた。というのも、わたしが経験しているフェラーリ308GTB/GTSクワトロバルボーレ用の3リッターV8 DOHC 32バルブエンジンと、テーマ8.32のエンジンの印象があまりうまく結びつかないのである。後者のほうがマイルドというか穏やかというか…。

このF105AB型ユニット。テーマへの搭載のために、大きく改造されている。決定的に異なるのがフラットプレーンからクロスプレーンになった点。さすれば、高回転時の高出力特性は損なわれるものの、振動やノイズが圧倒的に抑えられる。

じつは試しにレセンス編集部では、フェラーリ308GTBも買った。同時に乗り比べれば…。と思い、2台で走った。308GTBの金属同士が擦れるようなヒリヒリとする高い音やノイズは、テーマ8.32では消え去っている。

その代わりに、驚くほどなめらかで、しかしたっぷりとしたパワーを生むエンジンを手にした。これがテーマ8.32のキャラクターに強く結びついているのだと納得した。

1日たったの6台しか作られなかったテーマ8.32は、40年の時を経ても全く色褪せないどころか、むしろ潤いを増したかのように感じた。

もっと遠くへ走りたい。衝動に駆られて再びステアリングを握った。右手でステアリング脇のレバーをひねり、ルームミラーを覗いた。リアスポイラーがトランクリッドから出てきたのだった。

SPEC

ランチア・テーマ8.32

全長
4590mm
全幅
1750mm
全高
1435mm
ホイールベース
2660mm
トレッド(前)
1500mm
トレッド(後)
1490mm
車重
1410kg
パワートレイン
3リッターV型8気筒
エンジン最高出力
215ps/6750rpm
エンジン最大トルク
284Nm/4500rpm
サスペンション(前)
ストラット
サスペンション(後)
ストラット
タイヤ(前)
205/55 VR15
タイヤ(後)
205/55 VR15
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価格
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