フォルクスワーゲン・ゴルフGTI(FF/5MT)ホットハッチのテロワール(前編)

フォルクスワーゲン・ゴルフGTIとプジョー・205GTI。同じ時代、同じカテゴリーに生まれた2台のどちらを選ぶか。その答えは、速さやスペックではなく、どちらに心が動くかだ。

フォルクスワーゲン・ゴルフGTIとプジョー・205GTI。同じ時代、同じカテゴリーに生まれた2台のどちらを選ぶか。その答えは、速さやスペックではなく、どちらに心が動くかだ。

テロワールという視点

クルマの違いを語るとき、性能やスペックの差に目が向くことが多い。

だがワインの世界では、同じ品種であっても、育った土地が違えば味わいはまったく変わる。その背景にある考え方が「テロワール」だ。

テロワールとは、土壌や気候、地形といった自然条件だけでなく、そこで培われてきた文化や思想、人の手までを含めた、土地固有の個性を指す言葉である。

フォルクスワーゲン・ゴルフGTI(FF/5MT)ホットハッチのテロワール(前編)

この視点をクルマに当てはめると、数字では説明しきれない“らしさ”が、輪郭を持って立ち上がってくる。

フォルクスワーゲン・ゴルフGTIとプジョー・205GTI。

同じ時代に生まれ、同じ「GTI」という記号を与えられながら、走らせた瞬間の印象は大きく異なる。

フォルクスワーゲン・ゴルフGTI(FF/5MT)ホットハッチのテロワール(前編)

その違いは、優劣ではなく、生まれ育った土地――テロワールの違いとして捉えるほうが、腑に落ちる。

前編ではまず、ゴルフGTIというクルマが、ドイツ的テロワールの中でどのように形づくられたのかを、実際の走りから見ていきたい。

フォルクスワーゲン・ゴルフGTI(FF/5MT)ホットハッチのテロワール(前編)

日常に落とし込まれたパッケージング

今回のゴルフGTIは、個体の状態が非常に良い。

外装も内装も清潔感があり、エンジンの調子もいい。まずその前提が、このクルマの評価を歪めない。

乗り込んで改めて感心させられるのは、パッケージングの巧みさだ。

ボディは決して大きくないが、車内は広く、4人が無理なく乗れる。荷物も積める。

フォルクスワーゲン・ゴルフGTI(FF/5MT)ホットハッチのテロワール(前編)

ホットハッチが掲げてきた「日常で使えるスポーツカー」という思想が、極めて現実的な形で成立している。

特にこの個体は4ドア。

それによって、ゴルフGTIは“趣味のクルマ”という枠を越え、日常で使う姿がよりリアルに想像できるクルマになる。

通勤、買い物、家族との移動。そのすべてを受け止めたうえで、速さを提供する。フォルクスワーゲン(国民車)という言葉が表す通り、その姿勢は、実にドイツ的だ。

フォルクスワーゲン・ゴルフGTI(FF/5MT)ホットハッチのテロワール(前編)

質実剛健さが生む安定感

走り出してまず感じるのは、低速域の安定感だ。

信号待ちからの発進や、街中の流れに乗るような速度域でも、クルマの挙動に曖昧さがない。派手な演出はないが、ステアリング、ペダル、ボディの反応がきちんと揃っている。

操作に対するレスポンスが早く、アクセルを踏み増した分だけ、素直に前へ出る。その反応は過敏ではないが、鈍くもない。

フォルクスワーゲン・ゴルフGTI(FF/5MT)ホットハッチのテロワール(前編)

ワインディングでは、踏み込めばしっかりと応え、ゴルフGTIが紛れもなくスポーツカーであることを思い出させてくれる。

飛ばせば楽しい。そしてその楽しさは、唐突な刺激ではなく、安定感の延長線上にある、きわめてスポーツカー的なものだ。

低速域からボディの剛性感が感じられ、足まわりも落ち着いているから、ちょっとしたコーナーや交差点でも、クルマの姿勢を自分で作っている感覚がある。

フォルクスワーゲン・ゴルフGTI(FF/5MT)ホットハッチのテロワール(前編)

スポーツカー的な高揚感を、無理なく日常に落とし込む。

ゴルフGTIは、速度ではなく「操作する楽しさ」を日常の中で味わわせてくれる。抑制の効いた刺激が、常にドライバーの手の内にある。

当時生まれたばかりのホットハッチという概念を、現代の道路でも、実用性と走りの両立というかたちで高い完成度を感じさせる一台だ。

(後編「プジョー・205GTI」へ続く)

フォルクスワーゲン・ゴルフGTI(FF/5MT)ホットハッチのテロワール(前編)
  • 河野浩之 Hiroyuki Kono

    18歳で免許を取ったその日から、好奇心と探究心のおもむくままに車を次々と乗り継いできた。あらゆる立場の車に乗ってきたからこそわかる、その奥深さ。どんな車にも、それを選んだ理由があり、「この1台のために頑張れる」と思える瞬間が確かにあった。車を心のサプリメントに──そんな思いを掲げ、RESENSEを創業。性能だけでは語り尽くせない、車という文化や歴史を紐解き、物語として未来へつなげていきたい。

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