マクラーレン・GTリュクス(MR/7AT)GTツアラーのファンダメンタルズ

ミッドシップのまま、遠くへ行ける。マクラーレン GTは、速さの思想を一切崩さずに、GTツアラーとしての成立を目指した異色の存在だ。しなやかな足と構えすぎない空気感は、ポルシェを愛してきた人ほど、その本質に気づかされる。

ミッドシップのまま、遠くへ行ける。マクラーレン GTは、速さの思想を一切崩さずに、GTツアラーとしての成立を目指した異色の存在だ。しなやかな足と構えすぎない空気感は、ポルシェを愛してきた人ほど、その本質に気づかされる。

思想はそのままに

2019年にデビューしたマクラーレン GTは、ミッドシップエンジン上にゴルフバッグが積めるという意外性で注目を集めた。

だがその話題こそが、このクルマの本質を端的に物語っている。マクラーレン GTは、マクラーレンの思想から降りてきたGTカーなのだ。

GTという言葉から多くの人が思い浮かべるのは、FRレイアウトで、重厚で、長距離を優雅にこなすラグジュアリークーペだろう。だがマクラーレンは、その文脈をあっさりと無視した。

マクラーレン・GTリュクス(MR/7AT)GTツアラーのファンダメンタルズ

ミッドシップ、カーボンモノコック、徹底した軽量化。その核となる構造は一切変えずに、「荷物が積める」「遠くまで行ける」という要素だけを後から成立させている。

だからこのクルマは、GTでありながら“異物”のような存在感を放つ。速さを誇るためのモデルでもなければ、ブランドの裾野を広げるための入門車でもない。マクラーレンが自分たちの哲学を疑わず、そのままスライドさせた先に現れた、少し変わった答え。それがGTだ。

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運転が楽しいという事実

走り出してまず感じるのは、足のしなやかさだ。

路面の凹凸を丸くいなし、入力に対する反応が過度に尖らない。ステアリングを切った瞬間の反応は正確だが、ドライバーを急かすような緊張感はない。

同世代の720Sと比べると、その違いはより明確になる。720Sはレーシングカーの延長線にあるような、張り詰めた感覚を常に伴う。速さのために研ぎ澄まされた一台だ。一方GTは、同じブランドのクルマとは思えないほど、動きに余白がある。

マクラーレン・GTリュクス(MR/7AT)GTツアラーのファンダメンタルズ

それが結果として、「運転するのが楽しい」という感覚につながる。速く走らせなくても楽しい。流れに乗って走るだけで、クルマと対話している感覚が続く。

この形、このスペックのクルマで、ここまで“足に使える”ものは、そう多くない。

マクラーレン・GTリュクス(MR/7AT)GTツアラーのファンダメンタルズ

遠くまで行きたくなる

GTに乗っていると、目的地が自然と遠くなる。

最初は近場の移動のつもりでも、「もう少し先まで行ってみようか」と思わせる余裕がある。これは単に乗り心地がいい、静かだ、という話ではない。

エンジンは低回転から厚みがあり、踏み込んでも過剰に主張しない。足まわりは常に路面を捉え、長い時間ハンドルを握っていても疲労が溜まりにくい。その一方で、アクセルを踏めば一瞬で別の顔を見せる。この切り替えが自然だからこそ、距離が縮まっていく。

マクラーレン・GTリュクス(MR/7AT)GTツアラーのファンダメンタルズ

乗ると、また乗りたくなる。

特別感は確かにあるのに、気負わない。スーパーカーにありがちな「覚悟」が要らない。この距離感こそが、GTという名前の本質なのだと思わされる。

この個体が持つ“乗りたくなる距離感”は、リュクス仕様であることとも深く結びついている。

ポーセリンとヴィンテージタンで構成されたインテリアは、マクラーレンにありがちな緊張感を巧みに中和している。スポーツカー的な黒一色の空間ではなく、あくまで人が長く居ることを前提にした色と質感。レザーの面積が広く、視界に入る情報量が穏やかだ。

マクラーレン・GTリュクス(MR/7AT)GTツアラーのファンダメンタルズ

リュクスパッケージは、快適装備を足したというより、GTという思想を内装側から成立させるための要素に近い。走り出す前から気持ちが構えすぎない。だからこそ、このクルマは距離を苦にしないし、乗るハードルが低い。

GTが“遠くまで行きたくなるクルマ”である理由は、足まわりだけでなく、この居心地の良さにも支えられている。

マクラーレン・GTリュクス(MR/7AT)GTツアラーのファンダメンタルズ

ポルシェの延長線ではなく

このクルマは、ポルシェが好きな人にこそ乗ってほしい。

長年ポルシェに乗り続け、その走りの文法を身体で理解してきた人ほど、GTの価値がはっきりと見えてくる。

軽さ、一体感、操作に対する正直さ。そうしたポルシェ的な魅力を、別のアプローチで提示しているのがGTだ。あえて言うなら、上位互換というより“別解”。ポルシェの世界観を否定せず、その先にもう一つの選択肢を置いた存在だ。

ディヘドラルドアを開けるたびに、日常が少しだけ特別な色を帯びる。ヴェンチュラオレンジのボディは、乗る前からワクワク感を与えてくれる。所有することそのものが、移動をイベントに変える。

マクラーレン・GTリュクス(MR/7AT)GTツアラーのファンダメンタルズ

GTは、マクラーレンの中で最も穏やかで、同時に最も懐が深い。

走り、足、距離感、居心地。それらが特別な演出なしに、当たり前のように揃っている。

GTツアラーとは何か。その問いに対して、しっかりとマクラーレンでありながら、GTツアラーとしての本質をきちんと備えている、そう答えてくる一台だ。

マクラーレン・GTリュクス(MR/7AT)GTツアラーのファンダメンタルズ
  • 河野浩之 Hiroyuki Kono

    18歳で免許を取ったその日から、好奇心と探究心のおもむくままに車を次々と乗り継いできた。あらゆる立場の車に乗ってきたからこそわかる、その奥深さ。どんな車にも、それを選んだ理由があり、「この1台のために頑張れる」と思える瞬間が確かにあった。車を心のサプリメントに──そんな思いを掲げ、RESENSEを創業。性能だけでは語り尽くせない、車という文化や歴史を紐解き、物語として未来へつなげていきたい。

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