ポルシェ・911(1977)人が合わせて乗る最後の911

調子の良い930に触れると、改めて思う。このクルマは、ただのクラシックポルシェではない。人が合わせて乗る最後の911なのだと。速さや性能の前に、まず機械の呼吸がある。アクセル、回転、シフト。そのすべてに耳を澄ませながら走るとき、この時代の911だけが持つ関係が、静かに立ち上がってくる。

調子の良い930に触れると、改めて思う。このクルマは、ただのクラシックポルシェではない。人が合わせて乗る最後の911なのだと。速さや性能の前に、まず機械の呼吸がある。アクセル、回転、シフト。そのすべてに耳を澄ませながら走るとき、この時代の911だけが持つ関係が、静かに立ち上がってくる。

クラシックの魅力

まず目を惹くのは、この個体のシートだ。チェック柄のファブリックが、ガーズレッドのボディカラーと絶妙に調和している。

1970〜1980年代のポルシェの空気感を、そのまま閉じ込めたような雰囲気がある。派手ではない。だが、このクルマにはこれ以上ないほどよく似合っている。

こうしたディテールこそ、クラシック911の魅力だろう。

ポルシェ・911(1977)人が合わせて乗る最後の911

運転するというよりも

930に乗ると、いつも同じ感覚がよみがえる。このクルマは「運転する」というより、呼吸を合わせる感覚に近い。

現代のスポーツカーは、ドライバーの操作を瞬時に処理する。アクセルもシフトも、すべてが正確で、すべてが速い。だが930は違う。アクセルの開け方、回転の上げ方、シフトのタイミング。そのすべてを、クルマの呼吸に合わせる必要がある。

ポルシェ・911(1977)人が合わせて乗る最後の911

特に印象的なのはシフトフィールだ。よく「バターを熱いナイフで切るような感触」と例えられる。確かにその表現も間違いではない。だが実際には、それだけでは言い足りない。

回転数を丁寧に合わせ、エンジンの鼓動を感じながらシフトを入れる。するとギアは抵抗なく、すっと吸い込まれていく。それは操作というより、タイミングの一致だ。クルマが受け入れる瞬間を、身体で感じ取る感覚である。

ポルシェ・911(1977)人が合わせて乗る最後の911

人がクルマに合わせる感覚

この感覚は、現代の911では味わえない。

今のポルシェは圧倒的に速く、完成度も高い。だが、クルマの側が人に合わせてくれる。

930はその逆だ。人がクルマに合わせる。だからこそ、関係が生まれる。

ポルシェ・911(1977)人が合わせて乗る最後の911

最初は少し距離がある。だが走るほどに、その距離は縮まっていく。

アクセルのリズム、シフトのタイミング、ブレーキの踏み方。それらが揃い始めた瞬間、このクルマはまるで身体の一部のようになる。

その瞬間が、たまらなく楽しい。

ポルシェ・911(1977)人が合わせて乗る最後の911

時間をかけて

だから930の魅力は、速さでもスペックでもない。クルマと向き合い、時間をかけて少しずつ馴染んでいくことにある。

そしてある日、ふと気づく。自分がこのクルマの呼吸を、自然と理解していることに。

ポルシェ・911(1977)人が合わせて乗る最後の911

そのとき930は、単なるクラシックカーではなくなる。一台の機械が、確かな相棒になる。

それこそが、このクルマを所有する本当の醍醐味なのだと思う。

ポルシェ・911(1977)人が合わせて乗る最後の911
  • 河野浩之 Hiroyuki Kono

    18歳で免許を取ったその日から、好奇心と探究心のおもむくままに車を次々と乗り継いできた。あらゆる立場の車に乗ってきたからこそわかる、その奥深さ。どんな車にも、それを選んだ理由があり、「この1台のために頑張れる」と思える瞬間が確かにあった。車を心のサプリメントに──そんな思いを掲げ、RESENSEを創業。性能だけでは語り尽くせない、車という文化や歴史を紐解き、物語として未来へつなげていきたい。

    著者の記事一覧へ

メーカー
価格
店舗
並べ替え