アストンマーティン・ヴァンテージ 110th Anniversary(2025)節度の奥に残る熱

一世代前のヴァンテージを締めくくる110周年記念車。カーボンを纏いながらも、その佇まいは驚くほど静かで抑制的だ。だが走り出せば、制御の奥に残された熱がゆっくりと顔を出す。節度の奥に潜む、本能的なスポーツカーの気配を確かめた。

一世代前のヴァンテージを締めくくる110周年記念車。カーボンを纏いながらも、その佇まいは驚くほど静かで抑制的だ。だが走り出せば、制御の奥に残された熱がゆっくりと顔を出す。節度の奥に潜む、本能的なスポーツカーの気配を確かめた。

前に出過ぎない節度

このヴァンテージは、静かだ。

この世代最終の限定車。カーボンが与えられ、価値という言葉で飾ることもできる一台だが、佇まいは驚くほど抑制的である。

ラインは張りつめ、面は引き締まり、装飾は語りすぎない。

アストンマーティン・ヴァンテージ 110th Anniversary(2025)節度の奥に残る熱

そして、走り出してすぐに気づく。このクルマは、こちらの出方を見ている。

現代の高性能車は、ほとんどが賢く、ほとんどが優しい。環境規制と電子制御のもとで、速さも安全も、あらかじめ整えられている。

だがこのヴァンテージは、どこか違う。

ステアリングに込めたわずかな力、アクセルの踏み込みの深さ、そのすべてが
曖昧に処理されない。

アストンマーティン・ヴァンテージ 110th Anniversary(2025)節度の奥に残る熱

制御はある。だが、支配はしない。

クルマが前に出るのではなく、あくまで人の意思が先にある。

その順番が、きちんと守られている。

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互いに求め合いながら

現行ヴァンテージが洗練されたパートナーだとすれば、この一世代前の最終型はもっと近い存在だ。

そして、近いが、甘くはない。

互いの呼吸を測りながら、少しずつ距離を縮めていく。

アストンマーティン・ヴァンテージ 110th Anniversary(2025)節度の奥に残る熱

不用意な操作には応えず、集中を求める。

だがその一方で、動き出した瞬間の反応は濃密だ。ボディの凝縮感、路面の情報、エンジンの鼓動。

すべてが薄まらず、そのまま伝わってくる。

アストンマーティン・ヴァンテージ 110th Anniversary(2025)節度の奥に残る熱

そう、このクルマには、英国紳士のような節度がある。

振る舞いは上品で、声を荒げることはない。だが、内側には確かな力が宿っている。

アストンマーティン・ヴァンテージ 110th Anniversary(2025)節度の奥に残る熱

濃密な時間を過ごしたいなら

抑えられているからこそ、わずかな解放が強く感じられる。

その感覚は、現代の完璧な高性能車ではなかなか味わえない。

速さのための数字ではなく、制御の内側に残された熱が、静かにドライバーを試してくる。

アストンマーティン・ヴァンテージ 110th Anniversary(2025)節度の奥に残る熱

サイズはコンパクトだが、密度は高い。気軽さではなく、濃さがある。

このヴァンテージは、万人に薦められるクルマではない。

だが、クルマと向き合うことを楽しんできた人には、確実に刺さるだろう。

アストンマーティン・ヴァンテージ 110th Anniversary(2025)節度の奥に残る熱

完璧さの時代に、まだ人の感覚が入り込める余白がある。

それは乱暴さではなく、品格を保ったまま残された衝動だ。

最終後期という言葉は、終わりを意味するものではない。

むしろ、最も濃く、最も静かな形で完成した証なのだと思う。

アストンマーティン・ヴァンテージ 110th Anniversary(2025)節度の奥に残る熱
  • 河野浩之 Hiroyuki Kono

    18歳で免許を取ったその日から、好奇心と探究心のおもむくままに車を次々と乗り継いできた。あらゆる立場の車に乗ってきたからこそわかる、その奥深さ。どんな車にも、それを選んだ理由があり、「この1台のために頑張れる」と思える瞬間が確かにあった。車を心のサプリメントに──そんな思いを掲げ、RESENSEを創業。性能だけでは語り尽くせない、車という文化や歴史を紐解き、物語として未来へつなげていきたい。

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