初めて買ったクルマと同じ一台を、当時のよさはそのままに、今の感性を添えて、あらためて仕立て直していく。これは、レストアでもなければ、新しくつくり直すわけでもない。これから先も、このクルマが長く走り続けられるように。ReCREATEという試み。
自分の“初めて”が目の前に
このゴルフ2を見た瞬間、体が勝手に反応していた。頭で考えるより先に、心が動いた。ボディの色、程度の良さ、そしてエンジンをかけたときの匂いと音。そのすべてが、かつて18歳の自分が手に入れた“初めての一台”と同じだった。
あの頃、まだ免許もないのに買った一台。当然、運転はできないから実家の駐車場に置きっぱなし。それでも、ひたすら洗車してみたり、エンジンをかけてみたり。教習所が終わる日を待ちながら、その姿を毎日眺めていた。
誰にとっても最初の一台には特別な思い入れがあると思うけれど、もちろん自分も例外ではない。だからこそ今回、このゴルフ2を見たときに、すぐに気持ちが動いた。
右ハンドルのディーゼル・マニュアルという、自分が乗っていた仕様そのまま。しかもワンオーナーで、信じられないくらいコンディションがいい。
これはもう運命以外の何者でもないと感じて、迷うことなく仕入れを決めた。
おおらかな気持ちで
リアウィンドウには、かすれたヤナセのステッカーが残っていた。フォルクスワーゲンの正規輸入を担っていた時代の名残であり、この個体が日本仕様として正式に導入された証でもある。右ハンドルも、メーターのkm/h表記もそれを裏付けている。
ディーゼルで、しかもマニュアル。そんな仕様を街中で見かけることは、今では商用車でも稀だ。
もちろん、現代のクリーンディーゼルのような洗練された加速や静粛性はない。アイドリングは騒がしく、回転を上げてもスムーズとは言いがたい。
まあ、はっきり言って遅い。でも、それがいいのだ。スピードも上がらなければ回転も上がらないあの感覚。現代の車に慣れた体にはむしろ、その時間のかかり方が新鮮で心地よかったりする。
どう頑張ったって急げない。だからこそ、はじめから肩の力を抜いていられる。
そのままでも十分魅力的
今も、このクルマに乗って驚くのはパッケージングのうまさだ。
見た目は現代のクルマと比べるとかなりコンパクトなのに、中は驚くほど広く感じる。後席も大人4人がしっかり座れる。無理に押し込んだ感じではなく、自然に空間が確保されている。
スイッチやメーターにも時代なりの味がある。
緑色の照明が、上からじんわりと計器を照らす。最近のようにメーター裏から光るわけでもなく、演出をしているわけでもない。
夜になるとそっと浮かび上がる、あの感じがたまらない。まるで部屋に置いた間接照明のように、気持ちを和らげてくれる。
元通りにするわけではない
「ReCREATE」という言葉を選んだのは、「レストア(復元)」よりも「再構成」がふさわしいと思ったからだ。
外装はペイントし直す予定だが、内装を含めた全体の雰囲気には、積み重ねてきた時間の良さがにじんでいる。だからといって、そのまま残すだけでは物足りない。古びた味わいは活かしつつ、そこに今のセンスを加えていく。
たとえるなら、古い道具を今の暮らしに合わせて再構成するようなもの。新品のように戻すのではなく、古いからこそ醸し出せる魅力を、今の目線をプラスして整える。それが今回のアプローチだ。
「クラシックカー」として愛でるのではなく、ひとつの“素材”として、いまの生活にフィットさせる。その準備を、いま少しずつ進めている。
次の時代に受け継ぐために
現状でも十分に乗れるし、魅力はすでにある。
けれど、このゴルフ2には、これからもっと長い時間を走っていてほしい。だからこそ、細部に手を入れ、現代的な感性で仕立て直していくつもりだ。
ただ綺麗にするのではなく、古さの魅力を残しながら、多くの人に楽しんでもらえるかたちへ。
そうすることで、このクルマが積み重ねてきたストーリーを、次の時代にもつないでいけると思っている。
これから少しずつ形になっていくその過程も、もちろん楽しみのひとつ。でも実は、どこまで手を入れるか、どう仕立てていくかを考えている今この時間こそが、一番わくわくしているのかもしれない。
ReCREATEしたゴルフ2をお披露目できるのがいつになるかは、まだわからない。でも、このクルマらしく、焦らずゆっくりと進めていくつもりだ。
どうぞ気長に、続編をお楽しみに。
河野浩之 Hiroyuki Kono
18歳で免許を取ったその日から、好奇心と探究心のおもむくままに車を次々と乗り継いできた。あらゆる立場の車に乗ってきたからこそわかる、その奥深さ。どんな車にも、それを選んだ理由があり、「この1台のために頑張れる」と思える瞬間が確かにあった。車を心のサプリメントに──そんな思いを掲げ、RESENSEを創業。性能だけでは語り尽くせない、車という文化や歴史を紐解き、物語として未来へつなげていきたい。