世界的に大ヒットを記録したゴルフⅡには、数多くの限定車や特別なモデルが設定されています。
その中でも、“特別なゴルフⅡ”として外せない存在がゴルフカントリーです。
いまではSUVとコンパクトカーを掛け合わせたモデルは市場の主流となり、選択肢も豊富です。
しかし当時においては、少し枠から外れた、実にユニークな企画でした。
しかも単なるスタイル違いではありません。
街中での使用だけを前提としたモデルではなく、本気でオフロードへ踏み込み、通常のゴルフでは辿り着けない場所まで走ってほしい――そんな思想すら感じさせます。
1990年から1991年にかけて、全世界で約7,735台が生産され、日本には110台(黒65台、青30台、緑15台)が導入されました。
ゴルフといえばFFの二輪駆動モデルが主流ですが、このカントリーはシンクロ(Syncro)による4WDをベースとしています。
さらに、このクルマの特異性は製造工程にも表れています。
まずドイツ・ヴォルフスブルクでゴルフシンクロを完成させ、塗装や基本装備まで施された状態で一度仕上げられます。
その後、約1,000km輸送され、オーストリア・グラーツにあるシュタイア・プフ(Steyr-Puch)社の工場へと運び込まれます。
そこで、リフトアップや専用サブフレームの追加、前後アクスル位置の変更、背面タイヤの装着など、合計約438点の専用パーツが組み込まれ、ようやく“ゴルフカントリー”として完成します。
改めて、シュタイア・プフ社といえば、軍用車の開発やゲレンデヴァーゲンの生産にも関わった、悪路走破性に優れたモデルを得意とする専門集団です。
その背景を知ると、このクルマの見え方は大きく変わってきます。
専用のグリルガードや背面タイヤといった分かりやすい装備に加え、リア下部に見える駆動系を保護する構造など、細部まで入念に設計されていることが分かります。
また、ヒトデのような形状の5本スポークホイールはスピードライン(Speedline)製。
ツートンカラーで仕上げられており、好事家にはたまらないポイントでしょう。
左ハンドルの5速マニュアルというこの個体は、内装もシンクロ譲り。
明るめのグレーの生地に、緑・青・赤のアクセントが効いた独特の雰囲気を持っています。
もともと流通量の少ないモデルですが、この個体は、欠品していることも多いカントリー専用デカールが一通り揃っている点も見逃せません。
少しでも気になるのであれば、その出会いは大切にしてほしい。
そう感じさせてくれる一台です。

永井陽向 Hinata Nagai
絵本よりも中古車情報誌を隅々まで読み込んでいた幼い頃。それ以来、ずっとクルマに魅せられてきた。高校生の時に初めたInstagram「hinacars」では6年間で2000台以上の写真と解説を投稿。最新モデルから名車と呼ばれるクラシック、そして誰も気に留めないような隠れた一台まで。日々クルマとの新しい出会いがあり、そのたびに胸が高鳴る。その“ワクワク”を、クルマオタクとしての視点で丁寧に言葉へ落とし込みながら、読者のクルマ人生をより豊かにしていきたいと考えている。












