ドアを開けた瞬間から、これまでのクルマとは違う時間が流れ始める。テスラ・モデルYロングレンジは、完成度や伝統とは別の軸で、移動そのものの感覚を書き換えてくる一台だ。新しい道具に触れる高揚感が、日常に静かに入り込んでくる。
新しい道具の高揚感
他の電気自動車と比べても、テスラという乗り物には、はっきりとした違いがある。
ドアを開け、シートに座った瞬間に感じる圧倒的な未来感。それはデザインの新しさというより、これまでの「クルマの常識」から一歩外に出たような感覚に近い。
乗り込んだ瞬間、少しワクワクする。
それはスピードへの期待ではなく、新しい道具に触れるときの高揚感だ。
意外だったのは、内装の質感である。
ミニマルな見た目から、どこか割り切った印象を想像していたが、実際に触れてみると印象は違う。
手や身体が触れる部分に使われている合成皮革の質感は高く、日常的に使う道具として、きちんと考えられていることが伝わってくる。
見せる部分と、使われ続ける部分。その優先順位は、意外なほど真っ当だ。
完成度とは別次元の感覚
一方で、クルマとしての完成度という観点では、まだ発展途上だと感じる部分もある。
価格を考えれば致し方ないが、乗り心地や、走りのしなやかさという点では、長い時間をかけて煮詰められてきた内燃機関のクルマとは、別の思想で作られていることがわかる。
細かなフィーリングを味わうというより、移動そのものを効率よく、ストレスなくこなすための設え。
そこに、このクルマらしい割り切りがある。
ただ、その「煮詰めきれていない感じ」さえも、このモデルYロングレンジでは次第に気にならなくなってくる。
静かで、スムーズで、操作は直感的。
気づけば、クルマの出来を評価している自分よりも、ただ移動している時間を受け取っている自分がいる。
完成度とは別の次元にある、新世代感とでも呼ぶべき感触だ。
自分なりに楽しむ
クルマの楽しみ方は、人それぞれだ。
煮詰められた乗り味に価値を見出す人もいれば、新しい体験に心を動かされる人もいる。
人それぞれに、ふと記憶に残る一台との出会いがある。それが高価である必要も、完成されている必要もない。
ただ、自分なりにクルマを楽しめればいい。
テスラ・モデルYロングレンジは、そんな価値観の幅を、静かに広げてくれる存在だ。

河野浩之 Hiroyuki Kono
18歳で免許を取ったその日から、好奇心と探究心のおもむくままに車を次々と乗り継いできた。あらゆる立場の車に乗ってきたからこそわかる、その奥深さ。どんな車にも、それを選んだ理由があり、「この1台のために頑張れる」と思える瞬間が確かにあった。車を心のサプリメントに──そんな思いを掲げ、RESENSEを創業。性能だけでは語り尽くせない、車という文化や歴史を紐解き、物語として未来へつなげていきたい。






















