登場がM3カブリオレでないことを残念に思いつつも、335iとB3の関連性を知れば、こちらの方が面白い比較と成り得るのだ。
いまここに2台が揃っている
2007年3月、ジュネーブモーターショーにて、アルピナB3ビターボが発表された。
数か月後のグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードにてB3ビターボ・クーペが加わった。ほとんど同時期にフランクフルトでおこなわれたIAAにて、今回の試乗車の1台、B3ビターボ・カブリオも追加発表された。
2008年、E90のフェイスリフトにあわせてB3ビターボ・ツーリングも加わり、フルラインナップになっている。
同年には、BMWのxドライブと呼ばれる四駆システムを用いたアルラットも加わる。さらに2010年にはB3ビターボがB3 Sビターボに置き換わっている。
B3ビターボは、基本的にベース車=335iの構成を受け継いでいる。
3リッター直列6気筒+ツインターボが心臓部だ。ダブルVANOS付きの直噴シリンダーヘッド、三菱重工業製の小径タービンにより加給は共通。いっぽうピストンはアルピナ専用で、圧縮比が10.2から9.4まで落ちている。代わりにブースト圧が0.6barから1.1barに引き上げられた。
結果、335iは、306ps/5500rpmと400Nm/1300〜5000rpmであるのに対し、B3ビターボは370ps/5500rpmと500Nm/3800〜5000rpmとなった。
いまここに2台が揃っているのは、珍しいことだ。
今となっては古風だけれど
まずはBMW 335iカブリオレに乗った。
直前に諸事情で先代=E46型に乗っていたこともあって、インテリアがぐっと近代的になっていることに気がついた。
もちろん今となっては古風だけれど、それはほとんどが画面に覆われた現代のダッシュボードに比べたら、の話であって、整理されたボタン、マテリアル、横方向の広がりなどが、この世代のはっきりとした魅力だ。
スタートボタンを押すと、けっこう野太い音が響いた。今となってはほとんどの車が積んでいない3リッター・ストレート6は、まるでその素性を隠そうともせずに、ボーボーと存在を示してくれる。
シンプルなシフトノブをDに倒して走り出す。なんと豊かなトルクだろう!
アクセルをちょこんと踏むだけで、力がワワッと湧き上がる。アクセルを踏みましていっても、トルクが痩せることはない。滑らかな回転フィール、なめらかな変速。たんなる生活必需品ではなく、趣味の車に乗っているぞ、という充足感がある。
九折では、ハンドルを切ったそばからノーズが瞬時に向きを変え、リアもそれに素直に追従する。
と同時にリアが車を前に前にと押し進める。
爽快で快適、官能的。サイズ感を含めて、今だからこそ魅力が増す。
複雑な気持ちになっている
ここまで楽しい335iカブリオレに乗ったあとだと、アルピナB3ビターボ・カブリオへの期待が高まるどころか、あまり変わっていなかったらどうしよう、という変な不安が生まれる。アルピナ・ファンとしてだ。
シートに腰を下ろすと、まずやわらかさとホールド感の良さに気付かされる。
革が柔らかく形状はそっくりなのに、まるで違うシートのように感じる。
排気音の音量はほとんど同じに感じられたが、少し音が低くも感じられた。
アクセルを踏み込むと、およそ100Nmの差はすぐに感じられた。まるで違うエンジンだ。さらに踏み込むと、64ps差も、かんたんに感じることができる。
なにより違うのが、数値スペック以上の「厚み」。音、トルクの盛り上がりに、335iのエンジンより明らかなドラマがある。V型8気筒と言われても、信じてしまうレベルだ。
タイヤサイズも異なる。が、乗り心地は不思議なことにB3ビターボのほうがよかった。
B3ビターボを知ってしまったことで、335iしか知らなければ幸せだったな、いやいや335iがあるからこそ、B3ビターボの「別物感」を味わえるな、とか複雑な気持ちになっていることに気づく。
それぞれ単体で見ると、どっちもいい。同時に乗り比べても、やっぱりどっちもいい。
そもそも乗り比べられる幸せを噛みしめる。
また、これほどの違いを噛み締められるのも、この時代のBMWとアルピナならではだとも思うのだった。
SPEC
BMW 335i カブリオレ Mスポーツパッケージ
- 全長
- 4580mm
- 全幅
- 1782mm
- 全高
- 1384mm
- ホイールベース
- 2760mm
- 車重
- 1820kg
- パワートレイン
- 3リッター直列6気筒+ツインターボ
- トランスミッション
- 6速AT
- エンジン最高出力
- 306ps/5500rpm
- エンジン最大トルク
- 400Nm/5000rpm
- タイヤ(前)
- 225/40R18
- タイヤ(後)
- 255/35R18
アルピナB3ビターボ・カブリオ
- 年式
- 2016年式
- 全長
- 4590mm
- 全幅
- 1780mm
- 全高
- 1385mm
- ホイールベース
- 2760mm
- 車重
- 1770kg
- パワートレイン
- 3リッター直列6気筒+ツインターボ
- トランスミッション
- 6速AT
- エンジン最高出力
- 370ps/5500rpm
- エンジン最大トルク
- 500Nm/3800~5000rpm
- タイヤ(前)
- 245/35R19
- タイヤ(後)
- 265/35R19