年式や走行距離では語れない価値が、このM4にはある。前のオーナーが深く付き合い、手を入れた痕跡が走りの質として残っている。ただ速いだけではない。走らせたくなる理由が、確かに存在する一台だ。
真剣に向き合った痕跡
このM4に触れて、最初に感じたのは「前の人、分かっていたな」という感覚だった。
走り出す前、スペックを確認するよりも先に、そう思わせる何かがある。
パワークラフトのマフラー。ニットータイヤのハイグリップタイヤ。
どちらも派手さを狙った装備ではない。
SNS映えを意識したチョイスでもなければ、流行りをなぞった形跡もない。
むしろそこにあるのは、M4というクルマの性格を理解したうえで、「足りない部分を、過不足なく補う」という視点だ。
中古車というと、どうしても年式や走行距離といった“数字”が先に立つ。
だが、この個体は違う。
どんな意図で手が入れられ、どういう気持ちで乗られてきたのか。その輪郭が、クルマの佇まいから自然と伝わってくる。
誰かがM4と真剣に向き合った痕跡が、ちゃんと残っている一台だ。
走らせたくなる官能性
このF82型M4は速い。疑いようがない。
一方で、純正の状態では少し静かすぎると感じる人も多いはずだ。S55エンジンは高性能だが、ターボ化によって音の主張は一歩引いた。
環境性能や快適性を考えれば正解かもしれないが、「走らせる楽しさ」という観点では、どこか物足りなさが残る。
そこに、このパワークラフトのマフラーが効いてくる。
爆音ではない。ただ音量を上げただけの社外マフラーとも違う。
回転が上がるにつれて、エンジンの動きときちんとリンクした音が立ち上がる。アクセル操作に対して、クルマが感情で応えてくる感覚がある。
音があることで、踏む理由が生まれる。踏めば、また音が欲しくなる。
M4が持つ本来の運動性能に、官能性という血を少しだけ通わせたような仕上がりだ。
このマフラーがあることで、M4は「速いクルマ」から「走らせたくなるクルマ」へと一段階、表情を変えている。
理にかなった選択
M4の魅力は、最高出力よりも最大トルクにある。550Nmという数字が示す通り、アクセルを踏んだ瞬間の押し出しは強烈だ。
そしてこのトルクは、タイヤの選び方ひとつで、印象が大きく変わる。
グリップが足りなければ怖さが先に立ち、過剰であれば、日常域では扱いきれない。
その点、この個体に装着されているニットータイヤのハイグリップタイヤは、実に理にかなっている。
路面を掴む感覚が素直で、トルクの立ち上がりをきちんと受け止める。
だから踏める。そして踏めるから、M4の本当の速さが見えてくる。
この足元があることで、M4は“緊張を強いるスポーツカー”ではなくなる。
安心して踏める、だが退屈ではない。
ストリートでM4を楽しむための、ちょうどいい落とし所だ。
前のオーナーが、ただ速さを求めたのではなく、「どうすれば気持ちよく使えるか」を考えていたことが、ここからも伝わってくる。
どう生きてきたか
2016年式、走行距離68,000km。数字だけを見れば、特別な条件ではない。
だが、このM4を実際に走らせてみると、その評価軸がいかに浅いかを思い知らされる。
この個体には、新車では絶対に手に入らない完成度がある。誰かが考え、選び、試し、納得してきた結果が積み重なっている。
それが音になり、足元になり、全体のバランスとして現れている。
中古車の本当の楽しさは、ここにある。
年式や距離ではなく、「どう生きてきたか」。
その履歴がポジティブに作用する個体に出会えたとき、クルマ選びは一気に面白くなる。
このM4は、まさにそういう一台だ。
速さも、刺激も、理性も揃っている。
そして何より、“この個体である理由”がはっきりしている。
M4を探している人だけでなく、「スポーツカーをどう楽しむか」を考えている人にこそ、触れてほしい一台だ。

河野浩之 Hiroyuki Kono
18歳で免許を取ったその日から、好奇心と探究心のおもむくままに車を次々と乗り継いできた。あらゆる立場の車に乗ってきたからこそわかる、その奥深さ。どんな車にも、それを選んだ理由があり、「この1台のために頑張れる」と思える瞬間が確かにあった。車を心のサプリメントに──そんな思いを掲げ、RESENSEを創業。性能だけでは語り尽くせない、車という文化や歴史を紐解き、物語として未来へつなげていきたい。





















