フォルクスワーゲン・ゴルフGT TSI(FF/6AT)食欲抑えた長距離アスリート

ジャーマン魂が込められれば、市販車の1.4リッターでもこんな動力性能になってしまう。加えて燃費も好印象。しかもこれは既に発売から15年も経っているクルマの話だ。

ジャーマン魂が込められれば、市販車の1.4リッターでもこんな動力性能になってしまう。加えて燃費も好印象。しかもこれは既に発売から15年も経っているクルマの話だ。

革新的なパワートレイン

フォルクスワーゲン・ゴルフ。

1974年の登場以来、実用車の枠を超えた「コンパクトカーの基準」を作り続けてきたモデルだ。

たとえば初代ゴルフGTIは、スポーツカーとファミリーカーの両立を実現し、その後のホットハッチの概念を決定づけた。

フォルクスワーゲン・ゴルフGT TSI(FF/6AT)食欲抑えた長距離アスリート

そんなゴルフが5代目(ゴルフV)に進化したのは2003年。

ボディ剛性の大幅な向上と先進的な技術を採用し、歴代のゴルフの中でも最もモダンな設計を誇る。

このモデルの中で、革新的なパワートレインを搭載したのがゴルフ5 GT TSIだった。

フォルクスワーゲン・ゴルフGT TSI(FF/6AT)食欲抑えた長距離アスリート

このGT TSIが搭載するのは1.4リッター直列4気筒 TSIエンジン。

ただの1.4リッターエンジンではない。スーパーチャージャーとターボチャージャーの二段過給を採用し、最高出力170ps、最大トルク240Nmを発生する。まさに「ダウンサイジングの革命児」ともいえるパワーユニットだ。

では、この革新的なエンジンが生み出す走りとは、一体どんなものなのか。実際にステアリングを握って確かめてみよう。

フォルクスワーゲン・ゴルフGT TSI(FF/6AT)食欲抑えた長距離アスリート

独特のパワーデリバリー

ドアを開けると、そこに広がるのはゴルフならではの質実剛健なインテリアだ。

ソフトタッチ素材を多用し、シンプルながら機能的なレイアウト。

ステアリングを握ると、その太さとしっかりとしたグリップが、ドライバーを走る気にさせる。

フォルクスワーゲン・ゴルフGT TSI(FF/6AT)食欲抑えた長距離アスリート

イグニッションを回すと、TSIエンジンが目を覚ます。

アイドリングは驚くほど静かだが、軽くアクセルを踏み込むと、スーパーチャージャーがすぐに働き始め、ターボがそれに続く。

まるでNAエンジンのようなリニアな加速感と、ターボ車らしいトルクの厚みを併せ持つ、独特のパワーデリバリーだ。

フォルクスワーゲン・ゴルフGT TSI(FF/6AT)食欲抑えた長距離アスリート

街中では、スーパーチャージャーが効率よく低速域のトルクを補い、ストップ&ゴーが快適。

速度が上がるとターボが本領を発揮し、一気に加速する。このスムーズな特性により、エンジンの排気量が1.4リッターとは信じられないほど余裕を感じる。

フォルクスワーゲン・ゴルフGT TSI(FF/6AT)食欲抑えた長距離アスリート

ワインディングロードに持ち込むと、そのポテンシャルはさらに際立つ。6速DSG(デュアルクラッチトランスミッション)は、エンジンの特性を最大限に引き出し、素早いシフトチェンジを実現。

特にスポーツモードにすると、アクセルレスポンスが向上し、エンジンの美味しい回転域を存分に使うことができる。

コーナリングは安定感があり、FFであることがここまでうまく生きている車はほかに無いとさえ思える(もっとシャープなFF車は他にあるけれど)。

フォルクスワーゲン・ゴルフGT TSI(FF/6AT)食欲抑えた長距離アスリート

前輪駆動ながら、電子制御ディファレンシャル「XDS」がコーナリング時の内輪の空転を抑え、FF特有のアンダーステアを最小限に抑えている。

そして驚くのは、その燃費性能だ。170psを発生しながら、実用域での燃費はリッター15km以上をマーク。これはダウンサイジングの恩恵であり、「パワーとエコ」の両立を実現したエンジン設計の賜物だ。

フォルクスワーゲン・ゴルフGT TSI(FF/6AT)食欲抑えた長距離アスリート

妥協なき万能ハッチ

試乗を終えて、このゴルフ5 GT TSIが何を目指した車なのかがはっきりと分かった。

単なる高性能モデルではない。これは、当時、「未来のスポーツコンパクト」の方向性を指し示したモデルなのだ。

フォルクスワーゲン・ゴルフGT TSI(FF/6AT)食欲抑えた長距離アスリート

ゴルフGTIが伝統的なホットハッチの魅力を追求したのに対し、GT TSIは最新技術を駆使し、より実用的でバランスの取れたパフォーマンスを提供するモデルとなった。

排気量を抑えつつも、過給技術によって上級クラスの動力性能を手に入れ、しかも環境性能にも優れる。これこそ、フォルクスワーゲンが提唱した「ダウンサイジング」の理想形だ。

フォルクスワーゲン・ゴルフGT TSI(FF/6AT)食欲抑えた長距離アスリート

しかし、この革新的な技術も時代とともに変化し、ゴルフ6以降ではスーパーチャージャーを廃止し、ターボのみのシンプルなTSIへと移行した。

そのため、ゴルフ5 GT TSIは、二段過給という独自のキャラクターを持った稀有なモデルとして、今なお愛され続けている。

フォルクスワーゲン・ゴルフGT TSI(FF/6AT)食欲抑えた長距離アスリート

中古市場では今も高い人気を誇り、状態の良い個体を探すのは難しくなりつつある。エコカーとスポーツカーの要素を両立させたこの一台は、「妥協なき万能ハッチバック」の完成形とも言えるだろう。

GTIばかりに、目がいってませんでしたか?

もし、この車に出会う機会があれば、ぜひ試乗してみてほしい。ゴルフが追求してきた「実用性と走りの調和」を、新時代の解釈で体現した一台。それが、ゴルフ5 GT TSIなのだ。

SPEC

フォルクスワーゲン・ゴルフGT TSI

年式
2008年式
全長
4225mm
全幅
1760mm
全高
1500mm
ホイールベース
2575mm
車重
1410kg
パワートレイン
1.4リッター直列4気筒ターボ+スーパーチャージャー
トランスミッション
6速AT
エンジン最高出力
170ps/6000rpm
エンジン最大トルク
240Nm/1500~4750rpm
タイヤ(前)
225/45R17
タイヤ(後)
225/45R17
  • 上野太朗 Taro Ueno

    幼少から車漬け。ミニカー、車ゲーム、車雑誌しか買ってもらえなかった男の末路は、やっぱり車。今、買って買って買ってます。エンジンとかサスとか機構も大事だけれど、納車までの眠れない夜とか、乗ってる自分をこう見られたいとか、買ったからには田舎に錦を飾りにいきたいとか、そんなのも含めて、車趣味だと思います。凝り固まった思想を捨てたら、窓越しの世界がもっと鮮やかになりました。

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