ジャガー・XE S(FR/8AT)隠れた名車との出会い

2リッターモデルでは見えなかったジャガーらしさが、このSグレードにはある。Fタイプ譲りのV6としなやかな足まわり、そしてオプションカラーが映える個体。知る人ぞ知る、隠れた名車に出会えた。

2リッターモデルでは見えなかったジャガーらしさが、このSグレードにはある。Fタイプ譲りのV6としなやかな足まわり、そしてオプションカラーが映える個体。知る人ぞ知る、隠れた名車に出会えた。

まるで別物

ジャガーXEという車名を聞いて、明確なイメージを思い浮かべられる人はそう多くないかもしれない。いわゆるDセグメント──BMW3シリーズやメルセデスCクラス、アウディA4といった強豪ひしめくステージで、XEは必ずしも目立つ存在ではなかった。

筆者も以前、2リッターのモデルに乗ったことがある。静かで滑らかで、真面目なつくりのセダンだった。ただ、足まわりは少しバタつきがあり、ステアリングの応答もどこか曖昧で、期待していた“ジャガーらしさ”──あの、走りに漂う色気のようなものは感じられなかった。

ジャガー・XE S(FR/8AT)隠れた名車との出会い

だからこそ、この「S」に乗ったときの衝撃は大きかった。同じ車名を冠しながら、これはまるで別物だった。

乗り出した瞬間にわかる。しなやかで、落ち着いていて、芯がある。足元が路面に吸い付くようで、しかもそのすべての挙動が自然なのだ。いわゆる猫足と呼ばれるような、柔らかさの中に芯のある乗り味。それでいて、不安定さはまったくない。

あのとき感じた、完成度は高いが印象に残りづらいセダンとは対極の、純粋なドライビングマシンがそこにあった。

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Fタイプ譲りのしなやかさ

このしなやかさには、明確な理由がある。

XEは、Fタイプの開発を通じて生まれた高剛性のアルミプラットフォームをベースにしている。前後サスペンションにはダブルウィッシュボーンとインテグラルリンクを採用し、FRレイアウトと50:50に近い理想的な重量配分が、もともとの設計思想に組み込まれている。

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構造だけを見れば、すでにこの時点で走りの資質は備わっていた。ただし、それをどこまで引き出すかはセッティング次第だ。

2リッターモデルは、快適性と扱いやすさを優先したセッティングが施されており、ステアリングフィールや足まわりも穏やかでフラットな方向にまとめられている。それはそれで上質な仕立てだったが、動かして楽しいという感覚はやや控えめだった。

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それに対してこのSグレードは、その資質を無駄にすることなく使い切っている一台だ。

搭載されるのはFタイプの前期モデルと共通の3リッターV6スーパーチャージャー。スペック上は340ps/450Nm。踏んだときのリニアなトルク感と、回転とともに変化していくサウンドの表情が魅力的だ。ベースグレードに搭載される2リッター直4ターボでは得られない、官能性がある。

ブレーキもフロントにはブレンボ製の4ピストンキャリパーが装備され、制動力とタッチの両立が図られている。足まわりのセッティングも一線を画す。ダンピング特性はスポーツ志向に再調整され、引き締められていながらも決して硬すぎず、コーナーでは適度にロールを許しながら、スッと収束していく。

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同じXEという名前を冠していても、2リッターモデルとはキャラクターがまったく異なる。R-DynamicやHSEも仕立ての良さと上質な乗り味を備えているが、“Fタイプの血統”をそのまま継いだV6+猫足の組み合わせは、Sだけの特権だ。

このパッケージでしか味わえない、ジャガーらしい高揚感がある。

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仕立てからも感じる

この個体がまとうオプションカラーの「イタリアンレーシングレッド」は、深みのある赤で、角度や光の加減によって表情が変わる。派手だが、どこか落ち着いた艶があり、そこに独特の“色気”を感じさせる。落ち着いたボディラインと組み合わさることで、このクルマの雰囲気をより引き立てていた。

20インチの大径ホイールに、赤いブレーキキャリパー。フロントバンパーまわりも引き締まった印象で、全体として躍動感のある仕立てになっている。

ジャガー・XE S(FR/8AT)隠れた名車との出会い

また、この個体には、赤のアクセントが効いたハーフレザーシートが装備されており、視覚的なスポーティさと、しっかりとしたホールド感を兼ね備えることで、走るための空間としての雰囲気を高めていた。

ベースグレードが“上質なサルーン”として仕立てられていたのに対し、Sは明らかにFタイプ寄りのキャラクターだ。足まわりのセッティングも、ステアフィールも、変速制御すらも、よりスポーツカー的な味付けに寄せられている。

ジャガー・XE S(FR/8AT)隠れた名車との出会い

だからこそ、乗って感じる質感も、走らせたときの高揚感も、まるで違う。ベースグレードが“上質なサルーン”として仕立てられていたのに対し、Sは明らかにFタイプ寄りのキャラクターだ。足まわりのセッティングも、ステアフィールも、変速制御すらも、よりスポーツカー的な味付けに寄せられている。だからこそ、乗って感じる質感も、走らせたときの高揚感も、まるで違う。

見た目にも、操作の感触にも、スポーツカーとしての純度が感じられ、その奥には古き良きジャガーらしさが宿っている。

ジャガー・XE S(FR/8AT)隠れた名車との出会い

メジャーじゃないからこそ

XE Sは、メジャーな存在ではないかもしれない。Dセグメントの中では控えめな立ち位置で、街で見かける機会も多くはない。だが、その中には確かにジャガースピリッツが感じられた。

Fタイプ譲りのプラットフォームに、V6スーパーチャージャー、そして走らせたときの濃密なフィーリング。カタログスペックだけでは伝わらない魅力がある。

しかもこのSグレードは、そもそも流通量が少ない。中古市場でも出会える機会はごくわずかで、「知る人ぞ知る一台」という言葉が、これほど似合うモデルもそう多くはない。さらにこの個体は、オプションカラーをまとった仕様。走りだけでなく、見た目にもひときわ個性が際立っている。

ジャガー・XE S(FR/8AT)隠れた名車との出会い

近年では、中古車市場で300万円を下回る価格で取引されていることが多い。この仕立て、この走り、この価格。こういった一台に、ある日ふと出会えるのも、中古車選びの醍醐味だ。

高年式でも最新装備でもないかもしれない。けれど、そのクルマにしかない走りがあり、空気感がある。XE Sはまさに、“隠れた名車”と呼ぶにふさわしい存在だ。

ジャガー・XE S(FR/8AT)隠れた名車との出会い

SPEC

ジャガー・XE S

年式
2016年式
全長
4680mm
全幅
1850mm
全高
1415mm
ホイールベース
2835mm
車重
1650kg
パワートレイン
3.0リッターV型6気筒スーパーチャージャー
トランスミッション
8速AT
エンジン最高出力
340ps/6,500rpm
エンジン最大トルク
450Nm/4,500rpm
  • 河野浩之 Hiroyuki Kono

    18歳で免許を取ったその日から、好奇心と探究心のおもむくままに車を次々と乗り継いできた。あらゆる立場の車に乗ってきたからこそわかる、その奥深さ。どんな車にも、それを選んだ理由があり、「この1台のために頑張れる」と思える瞬間が確かにあった。車を心のサプリメントに──そんな思いを掲げ、RESENSEを創業。性能だけでは語り尽くせない、車という文化や歴史を紐解き、物語として未来へつなげていきたい。

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