輸入車に踏み出すなら、定番のドイツ車だけでなく“あえてジャガー”という選択もある。気負わず乗れる穏やかさと、英国車らしい特別感。その両方を150万円以下で味わえる一台だ。
ジャガーという選択肢
輸入車に興味はあっても、どこから入るべきか迷う人は多い。価格や維持費、故障の不安──そうした“輸入車ならではの壁”が、最初の一歩をためらわせるからだ。
いざ踏み出すとなれば、まず思い浮かぶのはドイツの三大ブランドだろう。堅実で、誰にとってもわかりやすい入口。
けれど、せっかく特別な世界に足を踏み入れるなら、もう少し遊びを加えてもいい。
そこで提案したいのが、このジャガー・XFだ。
2013年式のこの世代なら、いま150万円を切る価格で選ぶことができる。高級ブランドの名を持ちながら、過度な威圧感もなく、英国車らしい雰囲気をまといつつも日常にすっと馴染む。
輸入車に挑戦しようとする人にとって、ジャガーは最初に浮かぶ名前ではないだろう。だが「特別なのに、気張らなくていい」この距離感こそ、最初の一台として意外にしっくりくる。そう思わせる懐の深さが、このXFにはある。
英国らしい上質さ
外から眺めたときの鮮やかな赤とは対照的に、ドアを開けると一気に空気が落ち着く。
柔らかなベージュレザー、深みのあるウッド、ダッシュボードのブラウン。決して派手ではないのに、しっとりとした気品がある。ドアを閉めると外の空気がすっと遠ざかり、色調の統一された室内に静けさが満ちる。
触れてみると、その印象はさらに強まる。ステッチの幅、ウッドの艶感、パネル同士の合わせ目──どれも主張しすぎないが、きちんと“人の手が入った仕立て”の温度が伝わってくる。ドイツ車のような精密な完璧さではなく、英国らしい柔らかな上質さがある。
そこへ、ジャガーらしい“儀式”が続く。
エンジンをスタートさせると、センターに収まっていたロータリー式シフトセレクターが静かにせり上がる。エアコンをオンにすると吹出口がゆっくりと回転して姿を現す。これらは単なるギミックだが、日常に小さなドラマを生み出してくれる。
その一連の動作が、自分が“英国車という世界”へ入るための演出のように思えてくる。
はじめて輸入車を所有する人が抱く「せっかく乗るなら特別感がほしい」という願いに、XFは過不足なく応えてくれる。
スポーツカーの血脈
走りについては、期待値が高くなかったのが正直なところだ。
以前、同じXFの上位モデルである3.0リッター V6スーパーチャージャーを体験したことがあり、あの迫力や音の厚みを知ってしまうと、2.0ターボにそこまでの魅力を求めるのは酷だと思っていた。
しかし、その思い込みは走り出して数分で覆された。
街中での乗り味は驚くほど滑らかで、ステアリングは軽く、路面の凹凸を柔らかくいなす。トルクも十分で、ストップ&ゴーの多い場所でもストレスがない。国産セダンの延長線上で扱えるのに、乗り心地は一段上の上質さがある。
そして、アクセルを深く踏み込んだ瞬間、XFはまるで別の顔を見せる。
直4とは思えないほど軽快に回転を上げ、6000rpm近くまで気持ちよく伸びていく。その伸び切り方にはジャガーのスポーツブランドとしての血脈が宿っている。
音はV6ほど厚みがあるわけではない。しかし、ターボラグが少なく、回転上昇が潔い。英国車らしいスポーティさがエントリーグレードの2.0にもきちんと息づいている。
ジャガーは単に高級なだけのブランドではない。
モータースポーツの文化が根付き、走らせる愉しさを重視してきたメーカーだ。2.0ターボは、その哲学の“入口”として十分すぎるほどの走りを味わわせてくれる。
世界観こそが本質
輸入車を比較するとき、ついスペックや維持費といった一般的な基準に引っ張られがちだ。
ドイツ車のEクラスや5シリーズ、A6を選べば、間違いのない完成度が手に入る。社会的評価も高く、道具としての正しさに満ちている。
だがXFの価値は、そこでは測れない。
英国の美意識、ジャガー独特の佇まい、毎日触れるたびに少し背筋を伸ばさせる儀式のような演出。
その“世界観そのもの”こそが、この車の本質だ。
そしてそれが、いま150万円以下で手に入る現実は、贅沢という言葉がむしろ控えめに感じられるほどだ。
輸入車入門として、そして英国車の第一歩として、これほどバランスの良い車はなかなかない。
移動する道具以上のものを求めるなら、日常の風景を少し変えてみたいなら、XFは穏やかに、しかし確実にその役目を果たしてくれる。
この雰囲気、この走り、この世界観。
一度味わえば、英国車が持つ“静かな高揚感”がゆっくりとクセになっていくはずだ。
SPEC
ジャガー・XF 2.0 プレミアムラグジュアリー
- 年式
- 2013年
- 全長
- 4,970mm
- 全幅
- 2,077mm
- 全高
- 1,460mm
- ホイールベース
- 2,910mm
- 車重
- 約1,740kg
- パワートレイン
- 2.0リッター直列4気筒ターボ
- トランスミッション
- 6速AT
- エンジン最高出力
- 240ps/5,500rpm
- エンジン最大トルク
- 340Nm/2,000rpm

中園昌志 Masashi Nakazono
スペックや値段で優劣を決めるのではなく、ただ自分が面白いと思える車が好きで、日産エスカルゴから始まり、自分なりの愛車遍歴を重ねてきた。振り返ると、それぞれの車が、そのときの出来事や気持ちと結びついて記憶に残っている。新聞記者として文章と格闘し、ウェブ制作の現場でブランディングやマーケティングに向き合ってきた日々。そうした視点を活かしながら、ステータスや肩書きにとらわれず車を楽しむ仲間が増えていくきっかけを作りたい。そして、個性的な車たちとの出会いを、自分自身も楽しんでいきたい。





























