フロントに6.3リッターV12を抱え、4つのシートと4輪駆動を備えたフェラーリ。GTC4ルッソは矛盾を美学に変え、スポーツカーの血統とラグジュアリーGTの快適性を同時に叶える。
情熱と洗練が溶け合った
京都のはずれに佇む2017年式フェラーリGTC4ルッソ。
低く構えたロングノーズからリアにかけて流れるようなファストバックデザインは、フェラーリが手がける4シーターの新たな解釈を感じさせる。
フェラーリ特有の情熱と洗練が溶け合った造形は、まさに芸術品だ。
フロントに収まるのは6.3リッターV12自然吸気エンジン。最高出力690ps、最大トルク697Nmを発生。
単なるハイパフォーマンスモデルではなく、フェラーリが誇るグランドツアラーとしての哲学が息づくモデルであることが、この佇まいからも伝わってくる。
そして注目すべきは、そのリアエンド。かつての456や612スカリエッティを思わせるダブルテールランプがアイコニックだが、そこに現代的な解釈が加わっている。
リアディフューザーの造形はF1マシンを彷彿とさせ、視線を奪われる。4つの丸型テールランプが光る瞬間、歴代フェラーリの血統と、最新技術の融合が見えるのだ。
コクピットに足を踏み入れると、そこには伝統と革新が織り成す空間が広がる。ダッシュボードには10.25インチのタッチスクリーンが鎮座し、助手席側にも専用のディスプレイが与えられている。
このパッセンジャーディスプレイによって、ナビゲーションやエンジンの回転数、速度までもが視覚化され、同乗者がただの「パッセンジャー」に留まらないことを象徴している。
革張りのスポーツシートに身を沈めると、フェラーリ特有のタイトさとフィット感が全身に伝わる。
スイッチ類はドライバーを包み込むように配置され、心拍が自然と高鳴っていく。
フェラーリの魔法なのだ
イグニッションボタンを押すと、V12エンジンが目を覚ます。ボンネット下から響く重低音とともに、体中に振動が広がる。
この瞬間、GTC4ルッソがただの「快適なGT」ではないことを思い知らされる。 アクセルを軽く踏み込むと、V12エンジンは野生の猛獣のように咆哮し、一瞬で7000rpmへと跳ね上がる。
最大トルク697Nmは5750rpmで発生するが、それ以前から湧き上がるトルクの厚みが半端ではない。
そして、GTC4ルッソが特別なのはその駆動システムにある。フェラーリが「4RM-S」と呼ぶ4輪駆動システムが、この690psのパワーを無駄なく路面に伝える。
さらに「4WS」(4輪操舵)も装備されており、コーナリング時には後輪が同位相・逆位相に作動し、長大なボディとは思えぬほどの俊敏な動きを見せる。
コーナーがつづく道に差し掛かると、GTC4ルッソの真価が明らかになる。ステアリングは驚くほどクイックで、わずかな舵角でも即座に車体が反応。
エンジンのレスポンスは電光石火で、アクセルを踏み込むと瞬時に4輪が地面をつかみ、鋭く立ち上がる。
「まるでミッドシップスポーツカーのようだ」と感じるほどの身のこなし。しかし、このGTC4ルッソはフロントに巨大なV12を抱えるフロントエンジンの4シーターである。
この矛盾を成立させてしまうのが、フェラーリの魔法なのだとおもう。
そしてブレーキング性能もまた圧巻。カーボンセラミックブレーキは強烈な制動力を誇り、減速Gが身体をシートに押しつける。
さらに限界域にいけばABSやトラクションコントロールの介入は最小限に抑えられ、ドライバーが意図したラインを正確にトレースできる。
究極のグランドツアラー
GTC4ルッソは、単なる「速いクルマ」や「豪華なクルマ」を超越している。
日常性と極限のパフォーマンス、その相反する要素が高度に調和しているのだ。
クルージングモードに切り替えると、V12は静かに鼓動し、サスペンションが路面のギャップを見事に吸収する。けっしてふわふわとした船のような動きではないが、ガタピシと硬いふるまいとは無縁だ。
リアシートに座る同乗者は長距離移動でも疲れを感じないだろう。これほど快適なGTカーが、さきほどまでの猛々しいスポーツカーと同じ個体だとは信じがたい。
街中に戻ると、GTC4ルッソはさらに別の顔を見せる。渋滞の中でもストレスなくアイドリングし、4WSが狭い街路での取り回しを容易にしてくれる。
ボディサイズを感じさせない軽快な動きは、スポーツカーのDNAを明確に示している。
「スポーツカーか? それともGTカーか?」
そんな疑問を超越した存在──それがGTC4ルッソだ。V12エンジンの鼓動、電光石火のレスポンス、快適な乗り心地、すべてが見事にバランスしている。
フェラーリが誇るスポーツカーの血統と、ラグジュアリーGTの融合。GTC4ルッソはそのどちらにも妥協しない、まさに「究極のグランドツアラー」である。
これが「ルッソ(贅沢)」と名付けられた理由なのだろう。フェラーリの伝統と革新を感じながら、わたしは再びV12に火を入れる。ステアリングを握る指先には、690psの咆哮が伝わってくる。
GTC4ルッソ──それは「最速の贅沢」である。
SPEC
フェラーリGTC4ルッソ
- 年式
- 2017年式
- 全長
- 4922mm
- 全幅
- 1980mm
- 全高
- 1383mm
- ホイールベース
- 2990mm
- 車重
- 1790kg
- パワートレイン
- 6.3リッターV型12気筒
- トランスミッション
- 7速AT
- エンジン最高出力
- 690ps/8000rpm
- エンジン最大トルク
- 697Nm/5750rpm
- タイヤ(前)
- 245/35ZR20
- タイヤ(後)
- 295/35ZR20
上野太朗 Taro Ueno
幼少から車漬け。ミニカー、車ゲーム、車雑誌しか買ってもらえなかった男の末路は、やっぱり車。今、買って買って買ってます。エンジンとかサスとか機構も大事だけれど、納車までの眠れない夜とか、乗ってる自分をこう見られたいとか、買ったからには田舎に錦を飾りにいきたいとか、そんなのも含めて、車趣味だと思います。凝り固まった思想を捨てたら、窓越しの世界がもっと鮮やかになりました。