マセラティ・メラク(MR/5MT)これは何度でも言おう ジウジアーロは天才だ

スーパーカー世代、感極まること必至の一台マセラティ・メラク。シトロエン傘下時代の初期モデルを西陽の差す中、ディティールに吸い込まれそうになりながら走らせよう。

スーパーカー世代、感極まること必至の一台マセラティ・メラク。シトロエン傘下時代の初期モデルを西陽の差す中、ディティールに吸い込まれそうになりながら走らせよう。

自分のモノとするまで

クルマだって人と同じで、好きになってしまったならもう、しょうがない。

一目惚れに理由などあるはずもなく、狂おしいまでに好きになったというだけで、そうとなれば何があっても自分のモノとするまでだ。誰がなんと言おうと。その結果なにが起きようとも。

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そんな決意をもってガレーヂに収めるべきクルマは古今東西にいくつかあれど、マセラティ・メラク、特にシトロエン傘下時代の初期モデルはその筆頭格になるだろう。

加えて、どれだけ好きであってもその人にとってのワン・オブ・ゼムというよりは、できればオンリーワンで手に入れるべきモデル。そう、愛情を全て注いではじめて成立するクルマなのだった。

クラシックなゴールドペイント。個人的にはもうそれだけで心を奪われそうになるというのに、巨匠ジウジアーロによるボディワークを改めて観察すれば、“生涯メラク一筋”という御仁が現れたとてなんら不思議に思わない。

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基本的には当時のブランドフラッグシップモデルであったボーラと同じフォルムであり、ほとんどのボディパーツを共有する。

とはいえスーパーカーブーム時代の子供達は、まるで双子のようなボーラとメラクを、ものの2秒で見分けることができた。リアクォーターが“抜けている”のがメラクだ、と。

今さらながらジウジアーロは天才だと思う。優雅なV8ミドエンジン・グランツーリスモを目指したボーラの雰囲気を壊すことなく、代わりにV6を積んだ“なんちゃって+2座”のスーパーカーに新たなデザインソリューションを与えたのだった。

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ファストバックスタイル

フライング・バットレス。ゴシック建築様式の一つ“飛梁”(とびはり)の応用である。

ボーラではエンジンベイの上をガラスで覆うことでファストバックスタイルを維持していたが、冷却性能に不安があった。かといって、側面を潰したトンネルバックスタイルにしてしまっては、リアセクションが重たくなって、美しさをまるで表現できない(試しにボーラのリア側面ガラスを塗りつぶしてみてほしい、ほらね)。

そこでジウジアーロは梁を別途残し、エンジンベイには平らなフードを被せて、ボーラの窓の部分を“吹き抜け”にし、少なくとも見た目にボーラの雰囲気を守ることに成功したのだ。梁を取ってしまうとなんだかピックアップトラックのようになって、それはそれでユニークだけどスーパーカーにはまるで見えない。

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メラク(というかボーラもあわせて)のデザイン的な見どころはそれだけにとどまらない。

ノーズの程よく尖った丸い形状から、サイドウィンドウまでの潔く波うつライン、ドアのエッジ、水平の骨太なサイドライン、そしてリアエンドのダックテールまで(いやもちろんそれ以外にも)、吸い込まれそうに見てしまうディテールが全体に惜しみなく散りばめられている。

その一つ一つを確認しているうちに、もうどうしても我がモノとしてみたい気持ちが強くなっていくのだけれど、そんなにわか好きが手に入れていいクルマでないこともまた、よく知っている。

そんなことを語る前から欲しいと思っていなければダメなクルマなのだ。

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驚くは加速ではなく減速

とにかく本物が目の前にあって、しかもすぐにドライブできるコンディションにあるというだけでシアワセだ。動いてくれるだけでめっけもん。そんなイメージさえつきまとう。

実際、乗ってみればこれがまた想像とはまるで違うドライブフィールに面食らった。正確にいうと初めてのメラク経験ではなかったけれど、何度乗ってもそう思ってしまうようなクルマなのだ。

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まず、ドライビングポジションが独特で、扁平気味の足先を呪う。極端に内よりで、しかも例えばカウンタックのように体ごと内向くというよりも、太ももから先をセンター寄りに曲げていかないと踏めない感じ、だ。

よくもまぁ、こんな姿勢でドライブできたものだと、イタリア人の足の長さを恨めしく思う。

V6エンジンがご機嫌に回っている。もうそれだけで嬉しい、などというとマセラティファンに叱られそうだ。力強さは十分で、年式を考えれば不満なく走ってくれる。けれどももしアナタが初めてメラクをドライブしたとして、驚くのは加速ではなく減速だろう。

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シトロエンの油圧システムを使ったブレーキシステムのため、なんとも優雅というか唐突というかなかなかクセのある止まり方をする。

ロールスロイスやベントレーのように車重があればそんな止まり方も有効だし、そもそもシトロエンの乗り味にマッチするフィールだから、スポーツカー然としたメラクがそんなふうに止まると驚かせるというわけだった。

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いや待てよ、マセラティの本望といえばまずはグランドツーリングカーではなかったか。少なくとも三兄弟のレーシングカー時代を卒業したのちはそうだった。

であればメラクのそんな乗り味もまた、優雅に運転の時を楽しむために有効ではあると思う。美しいデザインディテールをコクピットの中から思い出しつつ。

文:西川淳(Jun Nishikawa)

マセラティ・メラク(MR/5MT)これは何度でも言おう ジウジアーロは天才だ

SPEC

マセラティ・メラク

年式
2018年
全長
4335mm
全幅
1770mm
全高
1135mm
ホイールベース
2600mm
車重
1320kg
パワートレイン
3リッターV型6気筒
トランスミッション
5速MT
エンジン最高出力
190ps/6000rpm
エンジン最大トルク
255Nm/4000rpm
サスペンション(前)
ダブルウィッシュボーン
サスペンション(後)
ダブルウィッシュボーン
タイヤ(前)
185/70VR15
タイヤ(後)
205/70VR15
  • 西川淳 Nishikawa Jun

    マッチボックスを握りしめた4歳の時にボクの人生は決まったようなものだ。以来、ミニカー、プラモ、ラジコン、スーパーカーブームを経て実車へと至った。とはいえ「車いのち」じゃない。車好きならボクより凄い人がいっぱいいらっしゃる。ボクはそんな車好きが好きなのだ。だから特定のモデルについて書くときには、新車だろうが中古車だろうが、車好きの目線をできるだけ大事にしたい。

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