直6炸裂のトップグレードに老舗のチューナーで着飾ったG29のZ4。それですら個性的な一台であるのに、極めつけはサンダーナイトメタリックでレセンスの面目躍如だ。
“第三の選択肢”を挙げろ
Mやアルピナではない、BMWカスタマイズにおける“第三の選択肢”を挙げろと問われたら、ACシュニッツアーと答える。
80年代末、モータースポーツ活動で知られたシュニッツアー兄弟の弟ヘルベルトと、アーヘン(略してAC)に本拠を置くBMWのメガディーラー“コール・オートモービル”を経営するウィル・コールが、市販モデルのチューニングパーツ開発のために設立した会社がACシュニッツアー(ACS)だった。
あまたあるBMWのチューニングブランドにあって、なぜACSなのか。
ドイツでは多くの正規ディーラーで販売されているという事実がその技術力や信頼性の高さを物語っているからだ。
あらためて製品メニューをみても、見た目の派手さばかりを狙ったものは皆無で、いずれも質実剛健さの伺える硬派なパーツばかり。見栄やハッタリで選ぶブランドではないことが分かる。
サンダーナイトという珍しいパープルカラーのZ4 M40iが目の前に現れたときの第一印象も、そのことをよく物語っていた。
「シュニッツアーのエアロキット付きです」と言われても一瞬、何のことかわからなかったからだ。それくらいデザインがまとまって見えた。
気になるのは乗り味の変化
なるほど車高もノーマルより20mm近く下がっている。
ACSのサスペンションキットが入っているようだ。20インチホイールはもちろんACS製で、AC1モノブロック・バイカラーと呼ばれる定番品。
そしてごくひかえめなデザインのフロントリップスポイラーとサイドスカートが装備されていた。ちなみにこれらを全てイチから揃えようとするとパーツ代だけで軽〜く6ケタ万円を超えていく。
気になるのは乗り味の変化の方だろう。
ルックス優先にドレスアップした個体は往々にしてスタンダード仕様よりも、特に街乗りにおいて、ドライブフィールは悪化しがち。
いろんな素材や解析技術が出揃った今、動的なクオリティでノーマルの上を狙うことは、昔に比べるとそう簡単なことではなくなっている。
まずはルーフを閉じて走り出した。ドライブモードはコンフォート。
ソフトトップ・ロードスターに大径タイヤを装備し車高を下げた場合、この状態では車体のよれやきしみを感じたり、タイヤの存在が不必要に伝わってきたりする場合が多い。
けれどもこの個体は、まるでスタンダード仕様のようにしっかりとした弾性を保ちながら心地よく街中をクリアする。
一体感も失われているどころか増しているように感じ、車体のコンパクトさを一層強く意識する。要するに思い通りに動かせている感覚があって、とても扱いやすい。
ドライブモードをスポーツにセットしルーフを開けた。ちょっと頑張って走ってみることに。
ルーフを開けたことで本来なら車体としての剛性感も少しは失われるはずだけれど、ほとんど変わった印象はない。
むしろ、車体がより小さくまとまった気さえした。乗り心地もソリッドさは増すけれど、決して悪くない。
初夏のワインディングを軽快に駆け抜ける。
よぉくわかっているのだ
シュニッツアーはよぉくわかっているのだ。Z4が本領発揮するパート、普段乗りのGT使いやオープンエアのスポーツモータリングにおいて、より胸のすく走りを実現しようとしたのだろう。
チューニングの意図が、乗ってみればはっきりと伝わってくる。
総合的に見れば、自然で機敏なステアリングフィールもまたノーマルより一段上の出来だった。
ステアリングと前輪の動きのリニアな関係がより明確になっているとでも言おうか。妙にクイック過ぎたり、重過ぎたりということがない。非常に好感のもてるハンドリングをみせる。
それにしてもZ4 M40iのパワートレインはいまだに気持ちの良さで一級品である。
ACSパーツによるチューニングこそ入っていないけれど、スタンダードでパフォーマンス的にはもう十二分だ。
豊かなトルクと高回転域まで速やかに回るエンジンフィールはまるで大排気量のストレート6。それでいてシルキーと評するほど線は細くない。
けれどもその抜けの良いフケ上がりはまさにビーエムの直6だ。滋味深い。
そんな愉悦のパワートレインがコンパクトなソフトトップロードスターに収まっている、というだけでも、このご時世、奇跡ではないだろうか。
久しぶりにG29を駆りながら、やっぱりBMWはエンジン製造会社であったと独りごちた。
SPEC
BMW Z4 M40i
- 年式
- 2024年式
- 全長
- 4335mm
- 全幅
- 1865mm
- 全高
- 1305mm
- ホイールベース
- 2470mm
- 車重
- 1570kg
- パワートレイン
- 3リッター直列6気筒+ターボ
- トランスミッション
- 8速AT
- エンジン最高出力
- 340ps/5000rpm
- エンジン最大トルク
- 500Nm/1600~4500rpm
- タイヤ(前)
- 255/30/20
西川淳 Jun Nishikawa
マッチボックスを握りしめた4歳の時にボクの人生は決まったようなものだ。以来、ミニカー、プラモ、ラジコン、スーパーカーブームを経て実車へと至った。とはいえ「車いのち」じゃない。車好きならボクより凄い人がいっぱいいらっしゃる。ボクはそんな車好きが好きなのだ。だから特定のモデルについて書くときには、新車だろうが中古車だろうが、車好きの目線をできるだけ大事にしたい。