ただ悪路に強く、頑丈なだけではない。上質さと何十万km先まで走れる信頼感。現代ランドクルーザーの原点は、この100系にある。
セルシオに通じる上質さ
ランドクルーザー。言わずと知れた、トヨタが世界に誇る名車中の名車だ。
初代BJ型が誕生した1951年から70年以上にわたり、その堅牢性と信頼性を武器にあらゆる大陸を走り抜けてきた。
どの世代に触れても共通するのは、ただのクルマを超えた「道具としての強さ」だ。必要最小限ではなく、必要十分をきっちり積み重ねた先にある安心感。それこそが、長年ランドクルーザーが人々の心を惹きつけてきた理由だろう。
その中でも、ランドクルーザー100は一つの転換点に位置するモデルだ。1998年にデビューした100系は、それまでの80系が持っていた骨太で無骨なデザインを継承しつつ、明確にラグジュアリーを意識した進化を遂げた。
オフロード性能は当然のように高いレベルで維持されながら、都市での快適性や乗用車としての完成度に焦点を当てた設計思想。それは、世界のSUV市場が「クロカン四駆から高級SUVへ」とシフトしていく流れと呼応していた。
特に今回試乗した「VXリミテッドGセレクション」グレードは、当時のセルシオに通じる上質なウッドコンビステアリングや本革シートに加え、センタークラスターを縁取る艶やかなウッドパネル、ドアトリムやシフトノブの仕立てに至るまで、あらゆる場所に高級感が行き届いている。
装備や素材だけでなく、その空間に立ち上る空気までも、当時のトヨタが理想とした「最上の一台」であることを証明している。
荒れ地を走破するための頑丈さと、長距離移動を豊かにする快適性が同居する、「和製レンジローバー」とも呼びたくなる一台。
ランドクルーザーの歴史を知るほどに、このモデルの持つ意味は一層際立ってくる。
このままどこまでも
運転席のドアを開け、少し高めのステップに足を掛けて体を預ける。視線が一段上がった瞬間、外の世界が別のものに見える気がする。
ベージュの本革シートは、硬すぎず柔らかすぎず、まるで長く使い込んだ家具のように迎え入れてくれる。
右手でキーを捻ると、V8エンジンがひと吠えする。すぐに回転は落ち着き、穏やかなアイドリングが空間を満たす。
ハンドルを握り、ブレーキを踏みながらシフトをドライブに落とす。少しアクセルに触れるだけで、2トンを超える車体が重厚なエンジン音とともに滑らかに動き出す。
高級感のある内装だけではなく、その走りもまたセルシオを思い出させる。ゆっくりと動き出したときの滑らかさや、路面のざらつきを包み込む静けさには、当時の高級サルーンに通じるものがある。
それでいて、ランドクルーザー本来の頼もしさや一体感もしっかりと備わっている。その両方を同時に味わえることに、ただ感心するばかりだった。
道が空いたタイミングで、少しだけアクセルを踏み増してみる。4.7リッターの深い懐が、ためらいなく車体を押し出す。大柄なボディが路面をゆったりと滑るように進むのに、ハンドルにはしっかりとした手応えが残る。
当たり前かもしれないが、そこに一切の不安はない。むしろ「このままどこまででも走っていける」と思わせる懐の深さがある。
都市でも郊外でも、運転することに余計な気負いが必要ない。この自然体の乗り味こそ、100系が当時世界で評価された理由だ。
驚くのは、20年を超えた今でも、その感覚がほとんど失われていないことだ。ナビの表示は少し古めかしいが、走りや快適性は現代基準でも十分に通用する。
それこそが、ランドクルーザーが日本だけでなく世界中で愛され続けてきた理由の一つだろう。
余白はたっぷりと
もちろん、このクルマを選ぶには少しの覚悟がいる。
4.7リッターのV8ガソリンは、パワーも余裕も申し分ない代わりに、燃料計の針は想像よりも早く動く。街乗りでは「燃費」という言葉を忘れたほうがいい。
けれど、その覚悟を持ってハンドルを握ると、数値を超えた豊かさが待っている。
この感覚は、カタログの数値だけでは語りきれないものだ。
重厚さと滑らかさが同居する走り、手に触れるものすべてに宿る高級感、そして何十万キロを共にできる安心感。
その安心感の理由は、単なる頑丈さだけではない。輸入車にはない「日本で、日本のために作られた」という信頼が、この一台にはある。湿度や気温の変化、日常の小さなストレスに負けず、ただ淡々と走り続ける。
もし故障が起きたとしても、修理に応えてくれるディーラーや専門店は無数にある。そうした環境まで含めて、このクルマの安心感なのだと思う。
同じモデルでも10万km、15万km走った個体が当たり前の中、この個体の走行距離8万kmは「まだこれから」という余白を残している。
ランドクルーザーにとって8万kmは通過点でしかなく、この先30万kmを走るポテンシャルは十分にある。
この信頼感こそが、トヨタが積み重ねてきた技術の証だ。
しかも、いまなら手が届く価格帯で流通しており、この先は相場が上がることはあっても、大きく値を落とす理由は見当たらない。
「長く使うことを前提にクルマを選ぶ」という価値観があるなら、ランドクルーザーほど確かな答えをくれる存在はそう多くない。
愛され続ける理由
国産オフロード車の王者として語られるランクルは、荒れた道を走るためのものだけではなく、都市であっても人の暮らしや心を支える強さに根ざしている。
この100系は、高級SUVとしてのランドクルーザーの方向性を最初に明確に示した一台だ。
頑丈さや耐久性といったランドクルーザー本来の資質はそのままに、セルシオ譲りの上質さを手に入れた。当時のトヨタが本気で「世界で通用する高級SUV」を目指した証拠が、いまもひとつひとつの部品や乗り味に宿っている。
もちろん燃費は良くないし、街中では大きさに気をつかう場面もある。それでも、このクルマを所有し、日々の道をともにすることに特別な満足があるのは、時間をかけて築かれた信頼と安心が揺るがないからだ。
たとえ年月が経っても、このクルマは変わらない。どこまでも走っていけると思わせる懐の深さと、何十万km先まで想像できる確かさがある。ランドクルーザーが世界中で愛され続ける理由は、結局その一点に集約されるのだと思う。
数字だけでは語れない「所有する価値」を、これほど実感させてくれるクルマは、もうそう多くはないだろう。
長く寄り添える一台を探しているなら、このランドクルーザー100は、きっと期待以上に応えてくれるはずだ。
SPEC
トヨタ・ランドクルーザー100 VXリミテッド Gセレクション
- 年式
- 2003年式
- 全長
- 4890mm
- 全幅
- 1940mm
- 全高
- 1860mm
- ホイールベース
- 2850mm
- 車重
- 2450kg
- パワートレイン
- 4.7リッター V型8気筒DOHC
- トランスミッション
- 電子制御5速AT
- エンジン最高出力
- 235ps/4800rpm
- エンジン最大トルク
- 43.0kgm/3600rpm
河野浩之 Hiroyuki Kono
18歳で免許を取ったその日から、好奇心と探究心のおもむくままに車を次々と乗り継いできた。あらゆる立場の車に乗ってきたからこそわかる、その奥深さ。どんな車にも、それを選んだ理由があり、「この1台のために頑張れる」と思える瞬間が確かにあった。車を心のサプリメントに──そんな思いを掲げ、RESENSEを創業。性能だけでは語り尽くせない、車という文化や歴史を紐解き、物語として未来へつなげていきたい。