トヨタ・ソアラ2.5GT-T(FR/4AT)五感で感じる高級車の定義

バブルの熱狂を背負いながら生まれた、贅沢と先進の象徴。30年を経た今だからこそ、触れてわかるその豊かさ。乗り味にも、たたずまいにも、歴史を感じさせるドラマがあった。

バブルの熱狂を背負いながら生まれた、贅沢と先進の象徴。30年を経た今だからこそ、触れてわかるその豊かさ。乗り味にも、たたずまいにも、歴史を感じさせるドラマがあった。

ターボがもたらす加速感

この3代目ソアラに近づいたとき、まず感じるのは、大柄でありながらどこかやわらかな空気だ。

直線を多用していた先代までの意匠を離れ、丸みを帯びた流線のフォルムに変わった姿は、当時の「未来」を素直にかたちにしたように見える。

搭載されるのは、280PSを誇る2.5リッター直列6気筒ツインターボで、低回転から分厚いトルクを湧き上がらせ、高回転域では直6らしい滑らかで伸びやかな加速が味わえる。

トヨタ・ソアラ2.5GT-T(FR/4AT)五感で感じる高級車の定義

アクセルを深く踏み込むと、ジェット機のような「キーン」という吸気音が立ち上がり、視覚と聴覚を同時に刺激する。その存在感は、現代のターボエンジンでは失われた一種のドラマだ。

いまやターボはほとんどの車に標準装備され、むしろその気配を感じさせないことが当たり前になっている。けれど、この時代のターボは、意図的に特別な装置として存在感を持たせていた。

ターボには、その回転フィールや立ち上がりの唐突さを「機械的すぎる」と評する声もあったが、いま改めて味わうとむしろ、ドラマチックさを演出する一つの要素となっている。

トヨタ・ソアラ2.5GT-T(FR/4AT)五感で感じる高級車の定義

その乗り味は、現代の高級車と比べて驚くほど軽快だ。交差点を旋回したとき、全長約4.9mの大柄な車体が想像以上に自然に向きを変える。ダブルウィッシュボーンサスペンションがもたらす柔らかな動きの中に、FRレイアウトならではの機敏な応答性が組み合わさり、車格を忘れさせるほどの一体感がある。

そして、自主規制枠ぎりぎりの280PSを与えられたことにも、「大きく豪華に」という当時の価値観が透けて見える。さらに、電子制御4速ATやドライバーの操作を学習してシフトスケジュールを変えるAI-SHIFTなど、先進技術が惜しみなく注ぎ込まれていた。

このクルマをイメージリーダーとして、時代のニーズに応えようとしたトヨタの情熱が、走行性能から感じ取れる。

トヨタ・ソアラ2.5GT-T(FR/4AT)五感で感じる高級車の定義

最先端の上質を形に

走りだけではない。このクルマの贅は、室内の隅々にも行き届いている。

この個体は2.5GT-TグレードのLパッケージ装着車。上質な内装装備や快適性が追加された仕様だ。

走行距離2.3万kmという良好なコンディションを保った室内からは、当時の空気がほのかに香る。淡い色調のモケットシートは、触れた瞬間、しっとりとした繊維の厚みが指先に残る。

木目調パネルや電動シートなど、セルシオやクラウン譲りの上質な快適性を備えたキャビン──それらは単なる装飾ではなく、豊かさを形にするための証だ。

トヨタ・ソアラ2.5GT-T(FR/4AT)五感で感じる高級車の定義

席に座り、視線を前に移すと、黒いパネルに薄緑の数字が浮かぶデジタルメーターが目に入る。「デジタル」といっても、いまの液晶モニターのように滑らかに映像を描くものではない。どこか電卓を思わせる素朴さがあり、数字が一つずつ切り替わりながらリズムを刻む。

速度表示が上がっていくその様は、30年前の未来をそのまま保存したようだ。加速に合わせて変わる薄緑の光は、ターボの息吹と一体になり、現代のクルマにはない感覚をもたらす。

いまの目で見れば、“フューチャーレトロ”な装いだが、30年前のオーナーにとっては、これこそ最先端で、上質の証だったに違いない。

そのドライビングフィールも、たたずまいも、いま触れてみると、あの時代に描かれた高級車の定義を五感で感じられる一台だ。

トヨタ・ソアラ2.5GT-T(FR/4AT)五感で感じる高級車の定義

とにかく大きく、豪華に

この豪華さの背景にあるのは、ただ性能を競うだけではない、時代の空気と歴代ソアラの積み重ねだ。

ソアラは、そもそも「パーソナルラグジュアリークーペ」という新しい価値観を、日本のクルマ文化に浸透させた一台だった。

1981年に登場した初代(Z10型)は、セダンの快適性とクーペの美しさを融合させ、トヨタのブランドイメージを一段引き上げた。

続く2代目(Z20型)は1986年、バブル景気の熱気が日本を覆う中でデビューする。スペースビジョンメーターやデジタルエアコンパネルといった先進装備をふんだんに盛り込み、「技術のショーケース」としての役割を色濃く担った。

トヨタ・ソアラ2.5GT-T(FR/4AT)五感で感じる高級車の定義

そしてこの3代目ソアラは、その伝統を引き継ぎながら、さらに洗練と贅沢を突き詰めた到達点として1991年5月に誕生した。

あの時代、人々は確かに豊かだった。

庶民であれ企業であれ、豊かさを隠さず示すことが自然に受け入れられていた。大きいこと、豪華であること、最新の技術を持っていること──そのすべてがステータスとして、わかりやすく可視化されていた。

トヨタ・ソアラ2.5GT-T(FR/4AT)五感で感じる高級車の定義

そんな空気の中で生まれた3代目は、トヨタがブランドを牽引する役割を与えた最高級パーソナルクーペだ。だから、最新の技術や贅沢な内装材がためらいなく注ぎ込まれている。

バブルが弾けたからといって、車の思想がすぐに変わるわけではない。このソアラには、「大きく豪華であることこそ正義」という時代の残響が色濃く漂っている。

いま乗ってみると、その“匂い”がどこか遠い物語のようで、それでいて生々しい。それが、このクルマを特別に感じさせる最大の理由だろう。

トヨタ・ソアラ2.5GT-T(FR/4AT)五感で感じる高級車の定義

一つの物語として

そんな時代の記憶をすべて抱えたまま、このクルマは現代にたどり着いている。

「とにかく大きく、豪華に。最新技術を注ぎ込む」そんな理想を真顔で実現しようとした、最後の時代の産物。

30年という歳月を経た今、このソアラはかつての夢と虚栄を抱えたまま、ひとつのドラマとして目の前に立っている。

トヨタ・ソアラ2.5GT-T(FR/4AT)五感で感じる高級車の定義

当時にタイムスリップする感覚とも違う。

物質的な豊かさだけではなく、今だからこそ、その贅沢を五感で味わえるもう一つの豊かさ。

今では信じられないようなバブルの熱狂が生んだ一つの物語を、紐解いていくような愉しさ。

それは、走行距離2.3万kmという良好なコンディションを保ったこの個体だからこそ、鮮明に受け取ることができる感覚。

そんな歴史の一幕を、このソアラは今も抱き続けている。

トヨタ・ソアラ2.5GT-T(FR/4AT)五感で感じる高級車の定義

SPEC

トヨタ・ソアラ2.5GT-T

年式
1994年式
全長
4860mm
全幅
1790mm
全高
1340mm
ホイールベース
2690mm
車重
1560kg
パワートレイン
2.5リッター直列6気筒ツインターボ
トランスミッション
電子制御4速AT
エンジン最高出力
280PS
エンジン最大トルク
363Nm
サスペンション(前)
ダブルウィッシュボーン
サスペンション(後)
ダブルウィッシュボーン
  • 河野浩之 Hiroyuki Kono

    18歳で免許を取ったその日から、好奇心と探究心のおもむくままに車を次々と乗り継いできた。あらゆる立場の車に乗ってきたからこそわかる、その奥深さ。どんな車にも、それを選んだ理由があり、「この1台のために頑張れる」と思える瞬間が確かにあった。車を心のサプリメントに──そんな思いを掲げ、RESENSEを創業。性能だけでは語り尽くせない、車という文化や歴史を紐解き、物語として未来へつなげていきたい。

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