- アルピナ / B4 カブリオ ビターボ(2015)
アルピナがかける魔法
BMWアルピナB4カブリオ・ビターボには、アルピナらしさが詰まっている。アルピナらしさとは何か。決して外向きではない、徹頭徹尾、控えめで繊細な「調和」である。

アルピナというブランド
アルピナはレセンス・メディアで初登場だ。そもそも「アルピナ」とは何なのだろうか。
アルピナ(正確にはアルピナ・ブルカルト・ボーフェンジーペン有限&合資会社)の創始者はブルカルト・ボーフェンジーペン。60年代初頭に父の営む事務機器メーカーの工場の一角でBMWのチューニングを開始。70年代には、ドイツの全チャンピオンシップで優勝した。
今のアルピナの業態に近づいたのは1978年以降。BMWのホワイトボディの状態から独自のノウハウを注ぎ、細部に拘りBMWの良さを拡幅させ、また内外装と走りに関する箇所にアルピナ独自のテイストを与えている。
公式資料によると、世界の生産台数は1200〜1700台前後、日本で正規販売されるのは300台程だという。はなから台数至上主義と距離を置いたブランドであることが分かる。
創始者ブルカルト・ボーフェンジーペンは、アルピナの会長として経営に携わりながら、現在は長男のアンドレアス・ボーフェンジーペンが社長に就任し、経営の舵取りをおこなう。
BMWへの敬意は強く、バッジは「絶対に変更しない」と公言したほど。ただしアルピナは一介のチューナーではなく独立したメーカーだ。だからベース車の車体番号は一度×印で打ち消され、脇に新たな番号を打ち替えている。
実際に走らせてみると、アルピナの哲学が隅々まで滲み出ていることが分かるのだった。
どこまで手が入ったか?
今回試乗するのは「BMWアルピナB4ビターボ・カブリオ」というモデルだ。
2014年に東京モーターショーでデビューしたB4ビターボ・クーペの発展版ともいえるカブリオレモデルだ。(同年3月にジュネーブ・モーターショーでカブリオレがデビュー)
4シリーズ・クーペをベースとし、3リッター直列6気筒ターボ(410ps/600Nm)を搭載する。最高速度は300km/h。ちなみにアルピナは性能を表す際「巡航最高速度」と公称する。瞬間値ではなく、実用値として性能を示すためだ。
基本となるパワートレインがあるとはいえ、現代のよくある手法で、チャッとECUチューンを施して馬力やトルクを高めたわけではない。
鍛造のクランクシャフトの採用、専用の吸気ダクト、独立設置させた追加のウォータークーラー/エンジンオイルクーラー、アルミ製大容量インタークーラーなど、細かなところまでオリジナル設計することでパワー向上に対応する。
実際に走らせてみても、3000rpmから発生する最大トルクと、そこから7000rpmまでの、たおやかに回転感のおかげで、確実に手が入ったパワートレインであることが実感できる。骨太でなめらか、なのに後味がすっきりしている。
だが、アルピナの「味」というのは、他にもあるのだった。
まったくもって「別物」
シートに腰を下ろすと、ゴチっとした標準の4シリーズのそれと比べて、ふかふかとしている。目の前のステアリングには、内側にグリーンのステッチが2本走る。その向こうにブルーのメーターパネル。なるほど乗り込んだ瞬間からアルピナ独自の静謐な世界に包まれる。
パワートレインの感触については先述の通りだが、驚いたのは乗り心地。前に245/30ZR20、後ろに265/30ZR20のタイヤを押し込んでいることが信じられないくらいに、やわらかく路面からの入力を消し去る。
さらに得も言われぬブレーキ・フィーリング。繊細な踏み始めから細い線でスッと制動が効き始め、中腹からはあくまで柔らかく、しかし確かな力でディスクを掴み、ピタッと止まる。アルミ製のキャリパー(前:4ポット、後:2ポット)のなす、繊細で抑制の効いたマナーに、プロのストリングスを思い浮かべた。
このあたりのさじ加減の巧さは、結果的に車全体の感触につながる。
もう想像がつくかもしれないけれど、ハンドリングもしかり。切り始めから遅れなく、しかし唐突ではない反応を見せながら、比較的コンパクトな車体全体をくるりと動かしてみせる。調和。どことなくゴツゴツとした印象を拭えない4シリーズが、かくも繊細に、なめらかになるものか。似ているのは見た目だけで、まったくもって別物の車である。はっきりいって。
私がわかればよいのです
うっとりとするアルピナB4ビターボ・カブリオを降りて、なお、分かることがある。
ハンドルを握っている最中は、その甘美なライドに感動するばかりだったけれど、それらの魅力が、ほとんど外に向けられたものではい、という点である。
派手なボディ形状やエアロ、カラー、音で周囲に「オレを見ろ」と言わんばかりの車は多い。しかしアルピナは、ドライバーに、ゲストにわかってくれればいいのです、と静かに、思慮深く言葉を選んで語りかけてくるようだ。
街ゆくアルピナを見ていても、やはりそんなところに満足するオーナーが多いように思える。聞くに毎年一定数、アルピナのエンブレムやデコラインさえ無くすオーダーをかける方々もいらっしゃるようである。
徹頭徹尾、アンダーステートメント。
わからない人から見れば、普通の4シリーズ。しかしそれでいいのである。私(ドライバー)さえわかっていれば。