アウディR8 GTスパイダー(4WD/6AT)冷静と情熱のメトロノーム

地味でもなければ、派手でもない。それでいてスーパーカーという何とも絶妙な匙加減をみせるクルマ。スフィアブルーというカラーリングも相まって所有欲をくすぐる一台だ。

地味でもなければ、派手でもない。それでいてスーパーカーという何とも絶妙な匙加減をみせるクルマ。スフィアブルーというカラーリングも相まって所有欲をくすぐる一台だ。

ホンダNSXの後継モデルだ

スポーツカーとして第一級のパフォーマンスを確保しつつ、その工業製品としての圧倒的な完成度の高さで日常の実用に耐えうる快適なドライビングフィールを実現したスーパーカー、アウディR8。

20年近く前に初めてV8モデルを試したとき、こいつはホンダNSXの後継モデルだと思ったものだ(アルミニウムボディだったし)。

アウディR8 GTスパイダー(4WD/6AT)冷静と情熱のメトロノーム

フロントグリルの上、目立つところに4つのリングを掲げているというだけで、イタリアで生まれた妹(ランボルギーニ・ガヤルド)に比べれば周囲からの視線も驚くほど平穏であったし、なによりドライブする本人の感情が常に抑制され心の制御の自由度もまた高かった。

“冷静と情熱”スイッチのオンオフが人にすっかり委ねられている。それがアウディR8というスーパーカーであり、そのクールさが唯一無二でもあった。

残念ながらR8そのものは二世代で終焉を迎えることになる。

アウディR8 GTスパイダー(4WD/6AT)冷静と情熱のメトロノーム

ランボルギーニとの姉妹関係も第二世代R8とウラカンで終え、イタリア陣営は独自開発(テメラリオ)に切り替えている。それだけの体力がついたからだ。

裏を返せばアウディ傘下となったのちのランボルギーニの成功はR8というマザーモデルあればこそだったわけで、だから私(大のランボファン)も一時期、R8に乗ることを決意したものだった。

初代にはV8とランボと共有するV10の用意もあった。V8仕様の軽妙な乗り味はまさに現代版NA-1だったし、なかでも3ペダルは正に“オトナのスーパーカー”で、スポーツカーにうるさい英国では飛ぶように売れたという。

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日本限定わずかに10台

けれどもスーパーカー度で選べばやっぱりV10仕様に軍配が挙がる。私もV10派だった。

R8 V10と対面する。久しぶりだ。スパイダーとなれば新車のテストまで時を遡る必要がある。

目の前の個体は第一世代R8の前期最終モデルで、なかでもシリーズ中で最も貴重な仕様というべき世界限定333台・日本限定わずかに10台のうちの1台、62/333という文字がシフトレバーに刻まれた、R8 GTスパイダーだった。

アウディR8 GTスパイダー(4WD/6AT)冷静と情熱のメトロノーム

記憶を辿る。R8の限定モデルGTはエンジン性能アップと軽量化、そしてレーシーな装備が特徴だった。

5.2リットルのV10NAは525psから560psにまで引き上げられ、トルクも10Nmアップの540Nmに。

フロントスポイラーやリアスポイラー、カナードといったカーボン製空力デバイスが外観上の特徴で、GT専用のスポーツサスペンションを装備することで車高が10mmほど下げられた。

アウディR8 GTスパイダー(4WD/6AT)冷静と情熱のメトロノーム

インテリアもまたカーボンとアルカンターラでまとめられており、スタンダードの“アウディ的な雰囲気”とは一線を画す。

そして何よりクーペは110kg、スパイダーであれば85kgもスタンダードモデルより軽くなっていた。

もちろん、そのぶん新車時価格は高かった。スパイダーの標準仕様に比べると、なんと870万円も高価。2012年に日本での本体価格が3064万円と発表されたとき、いよいよアウディも3000万円オーバーかと驚いたものだった。

アウディR8 GTスパイダー(4WD/6AT)冷静と情熱のメトロノーム

冷静なスーパーカー

R8 GTスパイダーのボディカラーには3色の用意があった。スズカグレー、ファントムブラック、そしてこのスフィアブルー。

地味でもなければ、派手でもない。マットなのに品がある。カナードやウィングが嫌味に見えない。ホイールの存在感が際立つ。

冷静なスーパーカーにはお似合いのコンフィグレーションだと思う。

アウディR8 GTスパイダー(4WD/6AT)冷静と情熱のメトロノーム

完全なバケットシートにはまり込み、エンジンスタートボタンを押す。独特なノイズと共にV10自然吸気エンジンが目覚めた。懐かしさが込み上げると同時に、おそらくもう二度と新車で聞くことのできないサウンドだと思うといっそう感慨深い。

ソフトトップを閉めたまま、走り出す。

タイヤが転がり、ステアリングを少々切ったとたん「これがR8なんだよなぁ」と感心する。ライドコンフォートは(標準仕様より少し固められているはずなのに)そこらのスポーティなサルーンよりも断然よくて、前輪の動きが驚くほどナチュラルだからだ。

アウディR8 GTスパイダー(4WD/6AT)冷静と情熱のメトロノーム

感覚的には取り回しのしやすさでアウディTTと変わらない。否、むしろ動きが自然(つまり前後の重量バランスが良い)なだけTTより心地よい。

ボディサイズを感じさせないから、完全なるスーパーカーサイズ&ルックスであるにもかかわらず、気兼ねなくドライブを続けることができる。

いまだに日常スーパーカーの雄であると確信する所以だ。

アウディR8 GTスパイダー(4WD/6AT)冷静と情熱のメトロノーム

もちろん、そんな実用性の高さだけがR8の魅力ではない。

せっかくなので(暑いけれど)屋根を開け、モードをスポーツに変えてカントリーロードを流す。その気になればサーキットでも極上のパフォーマンスをみせるモデルだけあって、公道上ではいつ何時でも余裕がある。

そして、もちろん、加速は素晴らしく、サウンドはユニークで、減速が楽しい。

R8がアウディ史に残る名車であることは間違いない。

アウディR8 GTスパイダー(4WD/6AT)冷静と情熱のメトロノーム

SPEC

アウディR8 GTスパイダー

年式
2012年式
全長
4445mm
全幅
1905mm
全高
1235mm
ホイールベース
2650mm
車重
1690kg
パワートレイン
5.2リッターV型10気筒
トランスミッション
6速AT
エンジン最高出力
560ps/8000rpm
エンジン最大トルク
540Nm/6500rpm
タイヤ(前)
235/35R19
タイヤ(後)
295/30R19
  • 西川淳 Jun Nishikawa

    マッチボックスを握りしめた4歳の時にボクの人生は決まったようなものだ。以来、ミニカー、プラモ、ラジコン、スーパーカーブームを経て実車へと至った。とはいえ「車いのち」じゃない。車好きならボクより凄い人がいっぱいいらっしゃる。ボクはそんな車好きが好きなのだ。だから特定のモデルについて書くときには、新車だろうが中古車だろうが、車好きの目線をできるだけ大事にしたい。

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