アウディR8クーペV10プラス(4WD/7AT)私、ひとり、満悦至極

アウディR8クーペV10プラス(4WD/7AT)私、ひとり、満悦至極

アウディR8クーペV10プラスは、「有りそうで、他にない」アウディにしか作ることの出来ないスーパーカーだ。インテリジェント。こんな車を愛せる人にありたい、と思う。

アウディR8ヒストリー

アウディR8が日本市場でデビューしたのは、2007年。パワートレインは4.2リッターV型8気筒で、6速「Rトロニック(シングルクラッチAT)」を組み合わせていた。価格は1670万円(消費税込み)だった。

ルマン24時間耐久レースで5勝。世界各国の耐久レースで62勝。これらの知見を製品版に投影させたモデルであった。レーシングカーと市販車のデザインは同じチームでなされた。十八番、クワトロシステムを介し四輪が地面を掻き、420psのパワーを伝えた。

その2年後、アウディR8 5.2 FSIクワトロが加わる。5.2リッターV型10気筒は、525ps/530Nmを発揮。内外装はV8モデルと差別化が図られた。大型化されたフロントエアインテークが実務上の識別ポイントとなる。

その影で、ひっそりと既存のV8モデルに6速マニュアルが加わったのも見逃せない(ATがひっそりと値上げされたことも…?)。V8 MTが1617万円、6速シングルATが1717万円、V10 6速シングルATは1994万円だった。

その4年後、R8は、いわゆるマイナーチェンジの時期を迎える。ここでのハイライトは、6速Rトロニック(シングルクラッチAT)が7速Sトロニック(ツインクラッチAT)に置き換わったこと。4.2リッターV8と5.2リッターV8それぞれが、AT/MT両方のトランスミッションを選べるようになった。

4.2リッターユニットは10ps上乗せになり、また内外装もより高級感あるものに変わった。アウディ自慢のシングルフレームグリルも新しいものになり、いわゆる「流れるウインカー(ダイナミック・ターンシグナル)」やフルLEDヘッドライトが組み合わされた。

4.2リッターV8の6MTは1729万円、7ATは1799万円。5.2リッターV10の6MTは2049万円、7ATは2119万円。そこにスパイダーが加わり、7ATのみのこちらは2339万円だった。

ここまでが初代R8のヒストリーである。

アウディR8、2世代目に

2代目のアウディR8が日本市場でお披露目されたのは2016年のこと。あらためてアウディは「先進性、スポーティ、そして洗練性」というスローガンを打ち出してアピールした。

5.2リッターV型10気筒、そして7速AT(ツインクラッチAT)のみに絞られたパワートレインは、出力の違いでR8 V10(540ps/540Nm)とR8 V10プラス(610ps/560Nm)を叩き出す。いずれもハンドルは左右から選べ、2456万円/2906万円の値札をつけた。

4426mmの全長/1240mmの全高は先代に近いいっぽう、全幅は40mm近く幅広い1940mmに。しかし軽さが自慢のアウディ・スペースフレームは10kg軽量の200kgとなる。

コックピットの12.3インチのTFTディスプレイやLEDヘッドライト(V10プラスはレーザーハイビームも)など、年式にふさわしい装備になったといえるだろう。

その3年後の2019年、V10/V10プラスの名前は消滅、V10パフォーマンスに一本化された。ここでスパイダーが加わった。いずれも5.2L V10が620ps/580Nmを発揮し、7速ATを組み合わせた。3001万円/3146万円となった。

良くも悪くも?アウディ

アウディR8のエクステリアを眺める。ミドシップの構造や幅広さゆえ、構成要素はいわゆる「スーパーカー」だが、誰が見てもわかりやすい、というわけでは無さそうだ。

派手な切込みや突起が極力おさえられ、ボディ造形も端正で、しかもシングルフレームグリルやヘッドライトの意匠など、セダンやSUVのアウディと共通するところが多いのが、そう感じさせられる理由なのだろう。

またこの世代(2019年以降)からシングルフレームグリル上の3本のスリットが加わった。かつての「スポーツクワトロ」のエアアウトレットを思い起こさせるディテールだ。

内外装も、アウディの言語を積極的にキープしているように見える。ステアリングホイールそのものは、私が見る限りアウディTTのそれにエンジンスタートボタンやドライブセレクトボタンが加わったものに見えるし、シフトノブもフェラーリやランボルギーニのそれほど特別な仕立てではない(それらが使いやすいかどうかは別にして)。

一方の静的質感は見事で、徹底的に整理されている。配列に迷いもない。エアコンのスイッチを押しても、ハザードを点灯しても、キチキチと緻密な感触があり、動的質感にもアウディらしさを感じる。劣化の心配もなさそうで、見事といってもいいだろう。

ドライバーズシートとセンターコンソールの間に、縦方向にパネルが伸び、アウディはこれをモノポスト(1人乗り)デザインと呼ぶ。背面の壁(エンジンコンパートメント)や、高い位置にあるウインドウ下端と合わせて、囲まれ感がある。集中させる仕掛けである。

安寧×激情のハーモニー

ステアリングスポーク右下につく赤いスタートボタンを押すとアウディR8は目覚める。短いクランキングのあとにガオと一発吠え、ノーマルモードにする限り、それ以降のアイドリング音量は騒々しいという程ではない。

そのまま走り出すと、細かな凹凸のあるアスファルトでは頭が小刻みに揺れる。アウディの見た目に油断しがちだが、そこはやはりスーパーカーであることを実感する。

ただし気づく。「乗りやすい」。ご想像通りかもしれないが、ふわっとした乗り心地の良さではなく、よく撓る硬いボディゆえのマイルドさ。四隅が強いバネでX字で結ばれているような、凝縮感のある安心感だと感じた。

ステアリングの反応、そしてアクセルの反応にピーキーなところはまるでない。渋滞にはまれば、ゆるい加速↔静止の繰り返しに苦痛になることはない。現に、私が助手席に移動した際、あまりスーパーカーといわれる類の車に乗っていない他の編集部員が、とてもリラックスして運転していたのが印象的だった。

運転席に戻り、「ドライブセレクト」をダイナミックモードに切り替えた際、最も印象的なのが激情型のエグゾーストノートだ。高回転型の大排気量(5.2リッター)V10自然吸気は、ハスキーな高音をあたりに響き渡らせる。

このままアクセルを踏み込むと、580Nmの大トルクが瞬発させ、怒涛の加速を見せつける。後続の別部員は、「ワープしているようでしたよ」と興奮気味で後に語った。

瞬時に終わる変速は途切れのない加速を永遠かと思える長さで続ける。気がついたらとんでもない速度に達しており、サーキットでなければ無謀だなと思った。

この「気づいたら」というのは、繰り返しになるが、乗り心地、ハンドリングに嫌な鋭さがないからである。それにノーズとヒップにアウディの「4つ輪」。必要以上に目立つことを嫌う、けれど熱い血の流れる車に自分だけで向き合えればいいと思える、インテリジェンスに満ちた人に向いた車なのであった。

SPEC

アウディR8クーペV10プラス

年式
2021年
全長
4430mm
全幅
1940mm
全高
1240mm
ホイールベース
2650mm
トレッド(前)
1650mm
トレッド(後)
1610mm
車重
1670kg
パワートレイン
5.2リッターV型10気筒
エンジン最高出力
610ps/8250rpm
エンジン最大トルク
560Nm/6500rpm
サスペンション(前)
ダブルウィッシュボーン
サスペンション(後)
ダブルウィッシュボーン
タイヤ(前)
245/30ZR20
タイヤ(後)
305/30ZR20
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