BMW・i3(RR/AT)街乗り用新幹線

音もなく滑り出し、街をすり抜けるたびに気分が軽くなる。BMW i3は、静けさと軽さが生み出す新しい心地よさを教えてくれる。充電を気にせず動ける頼もしさと、手のひらに収まるサイズ感。いまこそ、日常の相棒として選びたい一台だ。

音もなく滑り出し、街をすり抜けるたびに気分が軽くなる。BMW i3は、静けさと軽さが生み出す新しい心地よさを教えてくれる。充電を気にせず動ける頼もしさと、手のひらに収まるサイズ感。いまこそ、日常の相棒として選びたい一台だ。

浮いたように動き出す

何かに似ている──そう思った瞬間に、頭に浮かんだのは新幹線だった。

アクセルを踏み込んだ途端、わずかに駆動音が混じり、すぐに車体が“浮いたように”動き出す。それは、多くのEVが持つ無音の静けさとは違う、軽さと一体になった滑走感だ。

BMW i3(レンジエクステンダー装備車)の0-100km/h加速はカタログ値7.9秒。だが60km/hまでの立ち上がりは数字以上に鋭い。

カーボンとアルミで構成された軽量ボディが、後輪に積まれたモーターの力を無駄なく路面に伝え、小さなボディ全体がトルクの塊のように前へ押し出される。

BMW・i3(RR/AT)街乗り用新幹線

「速い」というより、「摩擦を感じない」という表現が近い。ガソリン車でいう“加速の山”がなく、スロットル操作と速度上昇がほぼ同一線上でつながっていく。

その感覚が、どこか鉄道的なのだ。

RRレイアウト特有の安定感と、モーター駆動の滑らかさが共鳴した走り──その結果、街中の速度域で味わうスムーズさは、新幹線を思わせるほど整っている。

無音で、途切れず、どこまでも伸びていく。「街乗り用新幹線」という比喩が、決して誇張に聞こえない理由がそこにある。

BMW・i3(RR/AT)街乗り用新幹線

大径なのに細いタイヤ

i3のステアリングを握ると、最初に感じるのはハンドリングの鋭さだ。軽い車体がすぐに反応し、車線変更もコーナリングも驚くほど素直。

この感覚の源は、20インチという大径ながら、意外なほど細いタイヤにある。BMWはこの構造を「ナローホイール・コンセプト」と呼ぶ。

一般的なクルマよりもタイヤ幅を狭くし、転がり抵抗と空気抵抗を減らす。その代わり、外径を大きくして接地面を細長い楕円形にすることで、安定性を確保した。

BMW・i3(RR/AT)街乗り用新幹線

その結果、ステアリングの手応えは軽く、回頭性は極めてシャープ。RRレイアウトによるトラクションの良さと相まって、動き出した瞬間の軽やかさに、思わず笑みがこぼれる。

街中では軽快そのもの。EV特有のトルクの太さと、BMWらしい骨格の剛性感が融合し、まるで軽スポーツを操っているような感覚になる。

静かで速く、軽いのにしっかりしている。その相反する性質が、i3の走りをいっそう魅力的にしている。

BMW・i3(RR/AT)街乗り用新幹線

電気だけで終わらない自由

「街乗り用新幹線」と呼びたくなるが、このクルマの魅力は街中だけにとどまらない。

このレンジエクステンダー装備車には、EVの弱点を補う“自由”がある。

満充電なら、約170kmを電気だけで走る。だが充電残量が心もとなくなったとき、小さな発電用エンジンが静かに稼働する。

排気量は約650cc、燃料タンクはわずか9リットル。それでも総航続距離は約300kmに達する。

BMW・i3(RR/AT)街乗り用新幹線

ガソリン車のように長距離を走れる安心感がありながら、動力のすべては依然としてモーターが担っている──走りの純度を損なわずに、行動範囲だけを広げたというわけだ。

興味深いのは、この設計が後のBMWにもほとんど引き継がれなかったことだ。

プラグインハイブリッドの主流が「エンジン併用駆動(パラレル式)」へ移る中で、i3のような“発電専用エンジン”を持つクルマは姿を消した。

いま改めて触れると、電気で走ることを諦めないための、最も誠実な折衷案だったことに気づく。

BMW・i3(RR/AT)街乗り用新幹線

小さな相棒

2014年に登場したこのクルマを、ただの「小型EV」と呼ぶのは正しくない。

それは、当時のBMWがクルマづくりの根幹からサステナビリティを組み直そうとした試みだった。

アルミのシャシーにCFRP(カーボンファイバー)製のパッセンジャーセルを組み合わせ、内装にはリサイクル素材や天然繊維を積極的に用いる。

単に「環境に優しいEV」をつくるのではなく、製造から廃棄まで持続可能であることを前提に設計されたモビリティだった。

BMW・i3(RR/AT)街乗り用新幹線

10年前に登場したBMW i3は、いま乗るとしっくりくる。先を行きすぎた設計が、ようやく時代に馴染んだということだろうか。

アンデサイト・シルバーメタリックのボディは、未来的でありながら穏やかな輝きを放ち、2.6万kmという低走行の個体には、当時の静けさと軽さがそのまま息づいている。

RRレイアウトの後輪駆動、20インチの細身タイヤ、レンジエクステンダーの安心感。都市を軽やかに駆け抜け、充電を気にせず遠くへも出られる。

静かに寄り添い、必要なときにだけ力を貸してくれる。そんな小さな相棒だ。

BMW・i3(RR/AT)街乗り用新幹線
  • 中園昌志 Masashi Nakazono

    スペックや値段で優劣を決めるのではなく、ただ自分が面白いと思える車が好きで、日産エスカルゴから始まり、自分なりの愛車遍歴を重ねてきた。振り返ると、それぞれの車が、そのときの出来事や気持ちと結びついて記憶に残っている。新聞記者として文章と格闘し、ウェブ制作の現場でブランディングやマーケティングに向き合ってきた日々。そうした視点を活かしながら、ステータスや肩書きにとらわれず車を楽しむ仲間が増えていくきっかけを作りたい。そして、個性的な車たちとの出会いを、自分自身も楽しんでいきたい。

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