3代目となる最新パナメーラ。そのベースグレードには、ポルシェが積み重ねてきたアップデートの集大成と、Sクラスのように滑らかな乗り味、911のような一体感が詰まっていた。
「素」のパナメーラ
2023年秋に発表され、2024年からデリバリーが始まった3代目パナメーラ(972型)。
タイカン譲りの先進的なインテリアと、次世代アクティブサスの搭載によって、大きな変革を遂げたと言われている。
今回試乗したのは、そのなかでも最もベーシックな仕様──2.9リッターV6ツインターボを積んだ、FRのベースグレード。
いわば“素のパナメーラ”だ。
ターボEハイブリッドでも、4WDでもない。最新の電子制御や複雑な機構が入り組む上位グレードではなく、このクルマの“基準”として設計された仕様。
そもそもパナメーラに何を求めるのか──それを問い直すには、この「素」のグレードがちょうどいい。
その意味でも、これは最新のパナメーラが何を大切にして進化したのかをよく教えてくれる一台だった。
進化がストレートに伝わる
このベースグレードに搭載される2.9リッター V6ツインターボは、見た目にも、諸元的にも2代目(971型)後期型とほとんど変わらない。
型式も同じEA839。出力は若干引き上げられたが、スペック上の違いはごくわずかだ。
だが実際に乗り始めてすぐ、その違いに驚かされる。
アクセルを軽く踏んだ瞬間からのトルクの出方が自然で、PDKの変速も驚くほど滑らか。路面からの入力も角が取れており、クルマ全体が、しっかりと一体感をもって動いているように感じる。
その変化の正体は、制御系の刷新と統合設計の進化にある。
スロットルマップ、トランスミッション、電子制御ダンパー「PASM(ポルシェ・アクティブ・サスペンション・マネジメント)」、そしてシャシー全体の統合制御。それらが高次元で連携し、数値では表現できない精度と滑らかさを生んでいる。
だからこそ、この“素の仕様”では、余計な電動化や重量増に邪魔されることなく、クルマそのものの完成度がストレートに伝わってくる。
ポルシェが「変わらないものを、どう進化させていくか」に全力を注いでいることが、じわじわと伝わってくる。
「アップデート」の集大成
「最新のポルシェが、最良のポルシェ」
ポルシェを語るとき、よく引き合いに出される言葉だ。
それは、ポルシェがクルマづくりの本質を変えずに、ブレることなく進化を重ねてきたからこそ、自然と生まれた評価なのだろう。
この最新のパナメーラに乗ったとき、ふとメルセデス・ベンツの現行Sクラスに初めて触れたときの感覚を思い出した。
前型のSクラスでも、乗り心地や快適性、走行性能はすでに完成の域に達していると感じていた。それなのに、まだ磨く余地があったのか──そう思わせる静かな驚きがあった。
その驚きと同質の感動が、この3代目パナメーラにもあった。
もし、最新のSクラスが自動車全体の未来像を提示する存在だとすれば、パナメーラは“走る”というメカニズムの精度を突き詰めた、アップデートの集大成だ。
パワートレインや足まわり、制御系といった走りの本質に関わる部分が、細部に至るまで緻密にアップデートされている。
いわば、Sクラスの快適性と、911のドライビングプレジャーを両立したような、いいとこ取りの存在。ラグジュアリーとスポーツ、2つの価値観を高度なバランスで融合している。
最新が、最良。
このベースグレードに触れていると、その言葉が決して過剰でも誇張でもなく、ポルシェというブランドをかたちづくっている、根本的な価値観のひとつなのだと実感する。
今だからこそ味わえるもの
この個体は“素”のベースグレードでありながら、“フル装備”という言葉もまたよく似合う。
内装は鮮やかなレッドレザーに包まれ、全席が独立した4座仕様で、後席にはコンフォートシートとセンターコンソールが備わる。
スポーツクロノパッケージによりSport Plusモードやローンチコントロールが使用可能に。スポーツエグゾーストは、必要なときだけ低く太い音を響かせる。
Burmester 3Dサウンド、ナイトビューアシスト、ヘッドアップディスプレイ、Pディスプレイまで備えたこの仕様は、まさに“全部乗せ”に近い内容だ。
それと同時に、FRレイアウトにV6ツインターボという、いまや数少ない純内燃4ドアスポーツでもある。
電動化の流れはポルシェにも確実に押し寄せており、次世代ではハイブリッド化が主役となるだろう。
最新の制御技術と緻密なシャシーに、アナログ的な官能が絶妙に残されている──その整合感が味わえるのは、この時代、この仕様だからこそだ。
そしてこの個体は、走行3000kmという新車に近い状態。エンジンやダンパーが馴染み始め、これから本領を発揮し始める、ちょうどいい時期だ。
現行型パナメーラは、全型から派手な見た目の変化はない。けれど乗ってみればすぐに分かる。「これは別物だ」と。
最新型のベースグレードにこそ、進化の本質が現れる──この一台は、そんな当たり前のようで忘れがちな事実を、改めて思い出させてくれる。
SPEC
ポルシェ・パナメー
- 年式
- 2024年式
- 全長
- 5052mm
- 全幅
- 1937mm
- 全高
- 1423mm
- ホイールベース
- 2950mm
- 車重
- 2020kg
- パワートレイン
- 2.9リッター V型6気筒 ツインターボ
- トランスミッション
- 8速PDK
- エンジン最高出力
- 353ps/5400〜6700rpm
- エンジン最大トルク
- 500Nm/1850〜5000rpm
河野浩之 Hiroyuki Kono
18歳で免許を取ったその日から、好奇心と探究心のおもむくままに車を次々と乗り継いできた。あらゆる立場の車に乗ってきたからこそわかる、その奥深さ。どんな車にも、それを選んだ理由があり、「この1台のために頑張れる」と思える瞬間が確かにあった。車を心のサプリメントに──そんな思いを掲げ、RESENSEを創業。性能だけでは語り尽くせない、車という文化や歴史を紐解き、物語として未来へつなげていきたい。