シトロエン・C4カクタス 1.6ディーゼル(FF/6AT)本国仕様はズルい

日本仕様でも十分変わっているのに、本国仕様はさらにズルい。ディーゼルのトルクに6速AT、天井いっぱいのガラスルーフ──知られざる“本物のカクタス”の世界が、そこにはあった。

日本仕様でも十分変わっているのに、本国仕様はさらにズルい。ディーゼルのトルクに6速AT、天井いっぱいのガラスルーフ──知られざる“本物のカクタス”の世界が、そこにはあった。

ディーゼルと6速ATがズルい

C4カクタスは、日本では2016〜2017年にわずか200台限定で販売されたモデルだ。

丸みを帯びたボディに、サイドを覆う独特の「エアバンプ」。柔らかな造形と奇抜なディテールが同居する“キモかわいい”外見は、一目でそれとわかる個性を放っている。

何を隠そう、かくいう筆者もC4カクタスオーナーだ。通勤に、買い物に、旅行に──ほぼ毎日、相棒として使い倒している。

日本仕様の1.2リッター直列3気筒ガソリンターボは、数値上こそ控えめだが、小柄で軽い車体との相性は抜群だ。街乗りも、ワインディングも、そして高速道路でも特に不満はなく、「これで十分だ」と思っていた──はずだった。

シトロエン・C4カクタス 1.6ディーゼル(FF/6AT)本国仕様はズルい

だが、本国仕様の1.6リッター直列4気筒ディーゼルに乗った瞬間、その“十分”が一瞬で“物足りない”に書き換わる。

交差点を曲がった先、軽くアクセルを踏むだけで、車体が迷いなくスッと前へ出る。回転は滑らかに上がり、ディーゼル特有の分厚いトルクが発進や合流を力強く支え、もたつきやもどかしさとは無縁だ。

しかも燃料代まで抑えられるときたら、もはや妬ましく思わずにはいられない。

さらに組み合わされるのは6速AT。日常域で6速まで使うことは少ないが、高速巡航では余裕をもって走れ、車内の静けさや燃費面でもその恩恵は大きい。

そして何より──6速まであるという事実自体が、ちょっとしたロマンなのだ。

シトロエン・C4カクタス 1.6ディーゼル(FF/6AT)本国仕様はズルい

ガラスルーフがズルい

運転席に腰を下ろし、ルームミラーを調整し、シートポジションを合わせる。左ハンドルということを除けば、そこまではいつも通り。

ふと視線を上げた瞬間、目の端に見慣れない天井の光景を捉える。

後席上部まで続く広々としたガラスルーフ。昼下がりの柔らかな光が室内を満たし、頭上から大きく空が広がっているような感覚。

心地よさや開放感を優先する──フランス車、とりわけシトロエンらしい哲学と遊び心に、胸が躍る。

シトロエン・C4カクタス 1.6ディーゼル(FF/6AT)本国仕様はズルい

以前から「サンルーフがあればいいのに」と願っていた筆者にとって、この光景はまさに理想そのもの。本国仕様ならではの装備に、思わず嫉妬すら覚える。

そして実際に頭上いっぱいに空が広がる中で走り出すと、日常から解き放たれるような解放感が広がる。ガラス越しに見える街の景色さえ、どこか新鮮に映るのだ。

もちろん、真夏には暑さとの戦いになるかもしれない。だが、その“欠点”も含めて楽しめそうな気がする。

夜には街灯や月明かりが映り込み、雨の日は水滴の模様が天井に浮かぶ。空の表情をそのまま持ち込める車内──こればかりは日本仕様にない贅沢だ。

明るく開放的な車内、そして左ハンドルという要素も相まって、「フランス車に乗っている」という実感が、胸の奥に広がってくる。

シトロエン・C4カクタス 1.6ディーゼル(FF/6AT)本国仕様はズルい

パーキングセンサーがズルい

運転中、ふとセンターコンソールに目をやる。自分の車にはない、見慣れないアイコンがそこにあった。

試しに押してみると、モニターが切り替わり、パーキングアシストの案内が表示される。駐車可能なスペースを検知し、ハンドルを自動で回す準備を整えるという。

そういえば、この車はフロントからもパーキングセンサーが反応していた。狭い駐車場で切り返す時、前方の障害物に近づくと「ピピッ」と警告音が響く。

おかしい。私のカクタスはリアしか反応しないのに。故障を疑い、自分の車のフロントバンパーを確認する。そもそもセンサーがついていないではないか……。

シトロエン・C4カクタス 1.6ディーゼル(FF/6AT)本国仕様はズルい

余談になったが、どうやらこれは縦列駐車用のパーキングアシストらしい。街中に路上駐車することが多いフランスならではの装備だ。

正直、日本では活躍の場は多くないだろう。だが、狭い路地や駐車場での切り返しなど、思わぬ場面で助けてくれる──かもしれない。

縦列駐車アシストはともかく、フロントのパーキングセンサーは、左ハンドルに慣れるまでや、初心者、あるいは駐車が苦手な人にとっては確実にありがたい機能だ。

シトロエン・C4カクタス 1.6ディーゼル(FF/6AT)本国仕様はズルい

シートヒーターがズルい

シート横に、指先に馴染まない見慣れない突起を見つける。

「まだ何か仕込んであるのか…」そう思いながら回してみると、じわじわと座面が温まってきた。

あったのはシートヒーターのダイヤル。寒い日をただの我慢比べにしない、本国仕様オーナーだけが知る、小さな贅沢だ。

ちょっと不便なところもあるけれど、余計なものを削ぎ落としたシンプルさとその割り切りこそ、この車の美点だと信じてきたのに、この本国仕様の意外な贅沢さには、まるで裏切られたような気分になる(もちろん羨ましいという意味で)。

シトロエン・C4カクタス 1.6ディーゼル(FF/6AT)本国仕様はズルい

そしてフロントガラス上部、サンバイザーの間には、シトロエンロゴのボタンとSOSボタンが並ぶ。

もちろん日本では機能しない。だが、その存在が“フランスとつながっている”という錯覚を与えてくれる。

フューチャーレトロ感のあるデジタルメーターのデザインといい、ガラスルーフといい、どこか小型の宇宙船に乗り込んだようなワクワク感がある。

性能や実用性の差ではなく、所有し、運転すること自体が楽しくなる。

そんなC4カクタスが持つ本来の魅力を、この本国仕様は装備の面でも、そして気分の面でも一層盛り上げてくれる。

シトロエン・C4カクタス 1.6ディーゼル(FF/6AT)本国仕様はズルい

元からちょっとズルい

左ハンドルや並行輸入車と聞けば、少し身構える人もいるだろう。だが、そのハードルを越えた先にあるのは、想像以上に豊かな時間だ。

そもそも日本仕様ですら200台限定という希少な存在で、街で同じ車に出会うことは滅多にない。丸みを帯びたボディにエアバンプが走る姿は、どこから見てもユニークで、他とは重ならない個性を放つ。

そんな特別感をもともと備えた車が、本国仕様というだけでさらに深みを増し、所有する人の日常を少しだけ誇らしく、楽しいものにしてくれる。

シトロエン・C4カクタス 1.6ディーゼル(FF/6AT)本国仕様はズルい

「カクタスからカクタスに乗り換えるのも面白いかな」──そんな考えが頭をよぎる。

どうせちょっと変わった車に乗っているのだ。壊れてもいないのに同じ車に乗り換えるという、普通の人からすれば意味不明な物語も悪くない。

C4カクタスは、そう思わせてくれる車だ。

シトロエン・C4カクタス 1.6ディーゼル(FF/6AT)本国仕様はズルい

SPEC

シトロエン・C4カクタス 1.6 ディーゼル

年式
2016年登録
全長
4155mm
全幅
1729mm
全高
1480mm
ホイールベース
2595mm
車重
1120kg
パワートレイン
1.6リッター直列4気筒ディーゼルターボ
トランスミッション
6速AT
エンジン最高出力
99ps/3750rpm
エンジン最大トルク
254Nm/1750rpm
  • 中園昌志 Masashi Nakazono

    スペックや値段で優劣を決めるのではなく、ただ自分が面白いと思える車が好きで、日産エスカルゴから始まり、自分なりの愛車遍歴を重ねてきた。振り返ると、それぞれの車が、そのときの出来事や気持ちと結びついて記憶に残っている。新聞記者として文章と格闘し、ウェブ制作の現場でブランディングやマーケティングに向き合ってきた日々。そうした視点を活かしながら、ステータスや肩書きにとらわれず車を楽しむ仲間が増えていくきっかけを作りたい。そして、個性的な車たちとの出会いを、自分自身も楽しんでいきたい。

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