スバル・レオーネ(4WD/3AT)哲学の原点に触れる

華やかな4WDブーム以前に現れた直線的な赤いセダン。3代目レオーネは「どこへでも行ける」というスバルの哲学の原点を、いまも伝えている。

華やかな4WDブーム以前に現れた直線的な赤いセダン。3代目レオーネは「どこへでも行ける」というスバルの哲学の原点を、いまも伝えている。

4WD乗用車のパイオニア

赤いボディに黒いバンパーとサイドモール。直線で構成された角張ったデザインは、まるで昭和の刑事ドラマに登場しそうな佇まいだ。

室内に目を移せば、ステアリングやシフトノブにまで「4WD」のロゴが誇らしげに刻まれている。当時における四輪駆動が、いかに特別であり、ひとつの誇りだったかを物語る。

今回の主役は、スバルの代名詞ともいえる「水平対向+4WD(AWD)」の基盤を築いたレオーネ、その3代目モデルだ。

スバル・レオーネ(4WD/3AT)哲学の原点に触れる

ポルシェ911に4WDが加わるよりも、アウディ・クワトロが登場するよりも早い時代。スバルは、1972年にレオーネ4WDエステートバンを量産化し、一般乗用車に四輪駆動を持ち込んだ。その後セダンにも拡大され、4WD=商用・クロカンという常識を覆した。

レオーネはやがてラリーの舞台にも挑み、スバルが初めて国際ラリーへ参戦する礎となった。

この3代目もWRCに投入され、そこからレガシィ、インプレッサへと系譜が続いていく。やがてスバルは誰もが知る黄金期を迎えた。

「スバリスト」という言葉が生まれたのは21世紀に入ってからだが、彼らが惚れ込み、愛してやまないスバルのアイデンティティ──水平対向エンジンと4WDを核に据えた独自の哲学──は、このレオーネで確立されたと言っていいだろう。

スバル・レオーネ(4WD/3AT)哲学の原点に触れる

悪路走破を想定した余裕

「どこへでも行ける」。

それはスバル車のキャッチコピーであると同時に、彼らの車づくりの哲学そのものだ。

本当なら、このクルマの真価は雪深い峠や荒れたオフロードでこそ試すべきなのだろう。だが現代の日本では、そうした道を見つける方が難しい。だからこそ今回の試乗は、あえて舗装路に限定した。

スバル・レオーネ(4WD/3AT)哲学の原点に触れる

キーを捻ると、1.8リッター水平対向4気筒が目を覚ます。現代のエンジンと比べれば振動が大きい。しかしその荒々しさが逆に心地よく、“旧車に乗っている”という実感をはっきりと刻み込んでくる。

ステアリングは薄くて大径。切り始めにはたっぷりと遊びがあり、応答はゆったりとしている。それでも直進安定性は高く、ハンドルをまっすぐに構えれば道に吸い付くように走っていく。軽快というより「どっしり」という表現がふさわしい。

アクセルを深く踏み込むと、トルクがじわじわと湧き上がり、車体を前へと押し出す。速さを誇る類いのクルマではない。だが「確実に進んでいく」という感覚が、何より頼もしい。

スバル・レオーネ(4WD/3AT)哲学の原点に触れる

足まわりは柔らかめで、舗装の継ぎ目を越えると車体が大きく揺れる。それは現代のクルマほど素早く収まらないが、その動きの奥には悪路走破を想定して生まれた余裕が感じられ、普段の舗装路でもはっきりと伝わってくる。

結局、雪も泥も必要なかった。このクルマのキャラクターは、街中を走るだけでも十分に伝わってきたのだ。

スバル・レオーネ(4WD/3AT)哲学の原点に触れる

本気を感じさせる機構

ハンドルの向こうに、「HEIGHT」と刻まれた見慣れぬボタンがある。

恐る恐る押してみると、モーター音が車内に響く。数秒で終わるかと思いきや、延々と続くその音に「故障か?」と不安になるほどだ。やがて音が止んでも、景色は変わらない。外に出て眺めてみて、数センチほど車高が上がっていることに気づいた。

これは、当時の“ハイトコントロールサスペンション”。HEIGHTスイッチで数センチ車高を上げられる簡易な機構。上がったのかどうか分からないほどわずかな変化に、これだけの時間をかける。

スバル・レオーネ(4WD/3AT)哲学の原点に触れる

冷静に考えれば実用性は限られている。それでも、80年代のセダンに“走破性を高めるための機構”が与えられていること自体が胸を熱くさせる。

それは、スバルが「どこへでも行ける」を本気で実現しようとした証だからだ。

このリフターのスイッチはその象徴として、いまも乗り手の胸を熱くさせる。

スバル・レオーネ(4WD/3AT)哲学の原点に触れる

「どこへでも行ける」という約束

どこへでも行ける──スバルが掲げたその言葉は、いまもフォレスターやアウトバックのキャッチコピーに息づいている。

だが、その思想を最初に体現したのは、間違いなくこのレオーネだった。

スバル・レオーネ(4WD/3AT)哲学の原点に触れる

その3代目が登場したのは1984年。映画「私をスキーに連れてって」が公開され、空前のスキーブームとともに4WD乗用車ブームが訪れる少し前のことだ。

映画で脚光を浴びたセリカGT-FOURは、流線型の現代的なデザインでブームの火付け役となった。それより少し前に登場したレオーネは、直線基調のスタイルゆえに、その波には乗り切れなかったのかもしれない。

スバル・レオーネ(4WD/3AT)哲学の原点に触れる

だが、それでいいじゃないか。メジャーブランドのトヨタや日産とは違う道を選び、独自路線を貫くこと。それこそが世界中のスバリストたちが大切にしてきた“普通じゃない”ことへの愛着であり、誇りではないだろうか。

色褪せない赤いボディに「4WD」のデカールが鮮やかに残るこの個体。セダンという形で本気で悪路を走破しようとした設計思想は、いまもはっきりと息づいている。

キーをひねったときの振動、そしてじれったいほどゆっくりと上がるリフターの動きを見届けると、ただの古いセダンではなく「スバルの哲学の原点」に触れていると実感する。

スバル・レオーネ(4WD/3AT)哲学の原点に触れる

現代の舗装路を静かに流しているだけで思う。悪路を駆け抜ける必要はない。このクルマのメッセージは、もう十分に伝わってくる。

「どこへでも行ける」という約束は、時代を越えていまも確かにここにある。

スバル・レオーネ(4WD/3AT)哲学の原点に触れる

SPEC

スバル・レオーネ ST 4WD

年式
1985年
全長
4,405mm
全幅
1,650mm
全高
1,375mm
ホイールベース
2,465mm
車重
1,100kg
パワートレイン
1.8リッター水平対向4気筒
トランスミッション
3速AT
エンジン最高出力
100ps/5,600rpm
エンジン最大トルク
147Nm/3,200rpm
メーカー
価格
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