G350dでもなくG63でもない、玄人好みの選択肢がG550だ。V8の余裕ある力感に、マヌファクトゥーアで仕立てられた特別な仕様が加わり、ゲレンデの奥深さを濃く味わえる。
INDEX
玄人好みのGクラス
G550というグレードに馴染みのある人は、決して多くないだろう。
一般的に「Gクラス」として語られるのは、街でよく見かけるG350dやG400dあたりだ。実用性と扱いやすさに優れ、オーナーのライフスタイルに溶け込む存在として人気を集めている。
ところが、このG550というグレードは、非常に玄人好みのGクラスだ。
AMGのG63のように強烈な個性を前面に押し出したモデルではなく、ディーゼルのように効率性に寄っているわけでもない。4.0リッターV8ガソリンエンジンが生むのは、誇張のない力感と厚みのあるトルク。
そこには、まさに“ゲレンデらしさ”を純粋に味わえる力強さがある。
そして、G550は左ハンドル仕様のみの設定。本国の雰囲気を色濃く残しており、実用性よりもオリジナルに近い姿を選ぶという点でも、こだわりの強い人向けの一台だ。
脚色を排し、Gクラスに本来求められる素の力強さを最も濃く感じられるモデル──それがG550なのだ。
V8のふくよかなサウンド
G550に搭載されるのは、4.0リッターV8ツインターボ。最高出力422ps、最大トルク610Nmという数字だけ見れば、十分すぎるほどのパフォーマンスだ。
だが実際に走らせて感じるのは、数字以上に“余裕”という言葉に近い。
アクセルを軽く踏み込むと、低回転域からV8ガソリンエンジンのふくよかなサウンドが車内に広がる。AMGのように人工的な演出を加えた爆音ではなく、機械が自然に奏でる重厚な響き。どこか控えめでありながら、耳に心地よく残る。
このG550はあくまでゲレンデ本来のキャラクターを残したまま、中身にはV8が与える厚みと力強さが宿り、素朴さと実力が両立している。
余計な装飾を加えず、根源的な力感をそのまま味わえるところにこそ、純血のゲレンデらしさが感じられる。
マヌファクトゥーアという仕立て
この個体の魅力を際立たせているのが、マヌファクトゥーアプログラムによる仕立てだ。
ジュピターレッドの鮮烈なボディに、白革シートとツートーンステアリング。Burmesterのサウンドやアンビエントライトと組み合わされ、Gクラスにさらなる華やぎを与えている。
マヌファクトゥーアプログラムとは、メルセデス・ベンツがGクラスのために用意した特別なカスタマイズメニュー。ボディカラーやレザー、トリムやステッチまで幅広く選ぶことができ、オーナーの感性を直接反映した一台を仕立てられるのが特徴だ。
メーカーが完成品として用意する限定車「マヌファクトゥーアエディション」とは異なり、一台ごとに個性が際立ち、同じ仕様に出会うことはほとんどない。
もし新車時にこの組み合わせを自ら選ぶとなれば、なかなか勇気がいるだろう。
けれど、いま目の前に現物として存在しているからこそ、この仕様に強く共感できる人にとっては、代えのきかない価値を放つ一台になる。
ゲレンデ上級者にこそ
Gクラスの“良し悪し”というものは、初めてのオーナーには分かりにくい。
初めてゲレンデに触れるなら、その存在感や視界の高さ、分厚いドアを閉めたときの金庫のような音に感動するだろう。それだけでも十分に価値がある。
けれど、何台かを乗り継ぐうちに気づくことがある。仕様や世代ごとの違い、走りのキャラクター、そこに潜む癖。それらを知り、意識的に楽しめるようになって初めて、Gクラスというクルマの奥深さが見えてくる。
例えば、AMGは強烈な力で圧倒する一方で、本来のゲレンデらしさが陰に隠れる。ディーゼルは効率性に優れ実用的だが、その分、遊びの余白は少なめだ。
そのどちらでもなく、Gクラスそのものの存在感と力強さを素直に味わえるのが、このG550だ。
ただの移動手段ではなく「Gクラスという文化」に付き合う感覚。
それは、誰にでも開かれた入り口ではなく、むしろ“ゲレンデ上級者”にこそ刺さる領域だ。
奥深さを味わう
街での存在感は、ジュピターレッドのボディが物語るように圧倒的だ。
派手さも華やかさも、この個体には確かにあるし、その目立つことこそゲレンデの本質のひとつでもある。
だが実際にハンドルを握っていると、不思議と周囲への誇示だけでは終わらない。
V8の響きがもたらす力強さ。マヌファクトゥーアプログラムによる特別な仕立て。ゲレンデならではの手応えに触れるほどに、このクルマの奥深さが見えてくる。
やはりこのG550は、玄人好みの一台だ。
目立つ覚悟を必要とする派手な装いを纏い、ゲレンデの純血を味わう。
その奥深い豊かさを理解できる人にとって、これ以上の相棒はないだろう。
SPEC
メルセデス・ベンツ G550 AMGライン
- 年式
- 2021年式
- 全長
- 4817mm
- 全幅
- 1931mm
- 全高
- 1969mm
- ホイールベース
- 2890mm
- 車重
- 約2500kg
- パワートレイン
- 4.0リッターV型8気筒ツインターボ
- トランスミッション
- 9速AT
- エンジン最高出力
- 422ps/5250〜5500rpm
- エンジン最大トルク
- 610Nm/2000〜4750rpm
河野浩之 Hiroyuki Kono
18歳で免許を取ったその日から、好奇心と探究心のおもむくままに車を次々と乗り継いできた。あらゆる立場の車に乗ってきたからこそわかる、その奥深さ。どんな車にも、それを選んだ理由があり、「この1台のために頑張れる」と思える瞬間が確かにあった。車を心のサプリメントに──そんな思いを掲げ、RESENSEを創業。性能だけでは語り尽くせない、車という文化や歴史を紐解き、物語として未来へつなげていきたい。