メルセデス・ベンツ G350(4WD/7AT)“らしさ”を求めて

快適さを極めた現行とは異なり、先代にはまだ“ゲレンデらしさ”が息づいている。無骨さと上質さを併せ持つこの一台が、あえて旧モデルを選ぶ意味を教えてくれる。

快適さを極めた現行とは異なり、先代にはまだ“ゲレンデらしさ”が息づいている。無骨さと上質さを併せ持つこの一台が、あえて旧モデルを選ぶ意味を教えてくれる。

現行では薄まったもの

ドアを閉めると、分厚い金属が重く噛み合うような音が響く。

視界に入るのは直線で区切られた窓枠と、箱のように切り立ったボンネット。そこには、現行のGクラスが徹底して磨き上げた快適性とはベクトルの異なる、質実剛健さが残っている。

メルセデス・ベンツ G350(4WD/7AT)“らしさ”を求めて

いまのGクラスは、ラグジュアリーSUVの理想に近づいた。

ステアリングは軽快で、街中でも扱いやすく、長距離でも疲れを感じさせない。日常のあらゆる場面にスムーズに対応する洗練がある。

だが、その進化が同時に削ぎ落としたものがある。かつてゲレンデヴァーゲンと呼ばれていた頃からの荒々しい気配や、どこか頑固な操作感だ。

メルセデス・ベンツ G350(4WD/7AT)“らしさ”を求めて

この一世代前のGクラスに乗り込むと、そうした濃さがまだ息づいている。

ディーゼル特有の低い唸り、ステアリングの重さ、直線的な見切り。現行型では薄まってしまった、いわゆるゲレンデらしい要素だ。

遠出のために選ぶというより、むしろ日常のひとコマを“非日常”に変えてしまう濃厚さ。それがこの世代のGクラスに触れたときに、まず感じられる魅力だ。

メルセデス・ベンツ G350(4WD/7AT)“らしさ”を求めて

世代ごとに宿る個性

Gクラスの歩みは、単なるモデルチェンジではなく、その時代ごとの個性の積み重ねだった。

軍用車として誕生した初期のモデルは、悪路を走破する道具として徹底的に合理的。

やがて高級SUVとして認知され始めると、レザーやウッドをあしらったラグジュアリーな仕様が加わった。

それでも2010年代前半までのGクラスには、どの仕様を選んでも元々持っていた無骨さが芯に残っていた。

メルセデス・ベンツ G350(4WD/7AT)“らしさ”を求めて

現行型はその歴史を引き継ぎつつ、快適性を大きく高めた。

電動パワステや電子制御の安定性向上は、誰が運転しても安心できる完成度をもたらした。しかし同時に、ステアリングを握ったときの緊張感や、ボディの揺れをダイレクトに感じ取るあの感覚は影を潜めた。

メルセデス・ベンツ G350(4WD/7AT)“らしさ”を求めて

だからこそ、世代を選ぶ意味が生まれる。

現行の快適さを取るのか、旧モデルの濃さを選ぶのか。その選択は単なる好み以上で、Gクラスというクルマにどう向き合うかを物語っている。

旧モデルを所有するということは、現代の便利さとは違う濃さを、あえて楽しもうとする姿勢でもある。

メルセデス・ベンツ G350(4WD/7AT)“らしさ”を求めて

無骨さをさらに

今回の個体は2014年に登場した「35th アニバーサリー エディション」。

Gクラス誕生35周年を記念して日本に200台のみ導入された特別仕様だ。

限定モデルらしく、本革シートやAMG仕様のオーバーフェンダーなど、通常のG350にはない仕立てが施されている。

しかしこのクルマは、記念モデルという肩書きだけで終わらない。

フロントにはG63仕様のバンパーが取り付けられ、迫力が一段と増している。足元にはブラックアウトされた20インチホイールにオールテレインタイヤが組み合わされ、頑強さをさらに強調した姿に仕上げられている。

メルセデス・ベンツ G350(4WD/7AT)“らしさ”を求めて

一方で、ドアを開けると印象は変わる。

キャビンを包むのはチェストナットブラウンのレザー。華美ではなく、落ち着いた色調が持つ上質さが漂う。質実剛健なGクラスのキャラクターと自然に響き合い、クラシカルな趣を添えている。

無骨さを強調する外観と、控えめながらも上質な雰囲気をまとったインテリア。その対比がこの個体を際立たせている。

硬派さと味わい深い落ち着きが同居し、記念モデルという肩書きに収まらない魅力を漂わせている。

メルセデス・ベンツ G350(4WD/7AT)“らしさ”を求めて

あえて選ぶという物語

SUVは数えきれないほど存在するが、世代ごとの選択に意味を持つクルマは多くない。その中でもGクラスほど、旧モデルを選ぶ理由がはっきりしているクルマはない。

しかもその理由は、どの世代にもそれぞれの良さがあるからこそ生まれるものだ。

現行の快適さを取るのか、それとも旧モデルの“ゲレンデらしさ”を選ぶのか。

その分岐は、単なるスペックの比較ではなく、どんな時間を過ごしたいのかという問いに対する答えになる。ラグジュアリーな日常を求めるのか、それとも荒々しい非日常を選び取るのか。

メルセデス・ベンツ G350(4WD/7AT)“らしさ”を求めて

この2014年式のG350は、その問いに対して明確な答えを示している。

無骨にカスタムされた外観と、落ち着いたブラウンレザーのクラシカルなインテリア。その両面を備えたこの個体は、「あえて旧モデルを選ぶ」という物語を体現している。

こういう選び方があってもいい──それもクルマの楽しみのひとつなのだと、このGクラスは教えてくれる。

メルセデス・ベンツ G350(4WD/7AT)“らしさ”を求めて

SPEC

メルセデス・ベンツ G350 35th Anniversary Edition

年式
2014年式
全長
4530mm
全幅
1810mm
全高
1970mm
ホイールベース
2850mm
車重
約2500kg
パワートレイン
3.0リッターV型6気筒DOHCディーゼルターボ
トランスミッション
7速AT
エンジン最高出力
211ps/3400rpm
エンジン最大トルク
540Nm/1600〜2400rpm
  • 河野浩之 Hiroyuki Kono

    18歳で免許を取ったその日から、好奇心と探究心のおもむくままに車を次々と乗り継いできた。あらゆる立場の車に乗ってきたからこそわかる、その奥深さ。どんな車にも、それを選んだ理由があり、「この1台のために頑張れる」と思える瞬間が確かにあった。車を心のサプリメントに──そんな思いを掲げ、RESENSEを創業。性能だけでは語り尽くせない、車という文化や歴史を紐解き、物語として未来へつなげていきたい。

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