フェラーリ458スパイダー(MR/7AT)「生っぽさ」がもたらす誘惑

フェラーリ458スパイダー(MR/7AT)「生っぽさ」がもたらす誘惑

2023年の今、フェラーリ458イタリア、ならびにフェラーリ458スパイダーの偉大さを感じずにはいられない。意匠、音、操舵に乗り心地。名車になり得る車である。

フェラーリ458イタリア

フェラーリ458イタリアは、V型8気筒エンジンを搭載するミッドシップモデルだ。初代はフェラーリ308。その後、328、348、F355、360モデナ、F430と続き、2009年にドイツ・フランクフルトモーターショーで披露された。

458は、シンプルに4.5リッターの排気量と8気筒を組み合わせたもので、今回のテスト車のように「458スパイダー」が2011年に加わる。電動開閉のハードトップが組み合わされた。

この世代まで自然吸気エンジンが搭載され、V8のバンク角は90°。圧縮比は12.5。ロードカーとして初めて、最高出力570psの発生回転数=9000rpmを実現した。一方の最大トルクは540Nm、わずか3250〜6000rpmで発生した。トランスミッションはデュアルクラッチAT。

シャシーはアルミニウム製でボディもアルミ。サスペンションアームもアルミ製であった。

生産は後継の488GTBが登場する2015年まで続いた。

インテリアにも特徴あり

デビュー当時、フェラーリF430に見慣れていた身としては、458イタリア、ならびに458スパイダーの縦に細く長いヘッドライトに驚いたものだが、改めて目にすると、現代フェラーリに比べてずいぶんとシンプルだと感じる。

ボディサイドからリアタイヤに向けて流れ落ちるライン、その後端少し手前から勢いよく立ち上がるリアフェンダーなど挑戦的なラインが交差するものの、全体は面構成で、突起や穴が極力排除されている。象徴ともいうべきサイドの大型エアインテークもない。

しかし内装は結構複雑で、それぞれのボタン要素は全てドライバーに向く。ハンドルスポーク上のウインカースイッチは最後まで慣れなかったけれど、いずれも特別感の演出と効率化を目的とした判断なのだと推察する。

極めて上質でもある。隅々までレザーが張り巡らされ、カーボンパネルが接する。相反するマテリアルに思えなくもないが、思い切りのよいラインの引き方と、丁寧な細工でフェラーリ独特の雰囲気になっている。

スパイダーという価値

キーを捻り、ステアリング上のスタートボタンを押すとエンジンがすぐに目覚めた。パドル右側「+」を引くと、デュアルクラッチATが1速に入る。丁寧にアクセルペダルを踏むと、やや低い音を伴って穏やかに前へ進んだ。

シフトチェンジは、シングルクラッチATのように息継ぎすることはなく、すんなりとなめらかに完結する。そして淡々とギアを高める。

前:ダブルウィッシュボーン、後:マルチリンクのサスペンション構成は先代のF430と同じであるけれど、458になって、乗り心地が柔らかくなったと感じた。当時の資料を掘り起こすと、スプリングそのものは25%硬く締め上げている一方で、サスストロークの方は前:+10mm、後:+15mmと拡大している。加えて先述のアルミスペースフレームがF430比+20%の剛性アップだという。この辺が効いているのかも知れないと思った。

私はF430のエキゾーストノートにがっかりしたが、458は裏切らなかった。低回転域ではバオバオと低く唸っているけれど、ひとたび回転を上げると、9000rpmの最高出力発生域へと力強さを増しながらたおやかに回る。なんと気持ちの良いことか!生っぽく艶のあるこの音。現代フェラーリを思い出すと一抹の寂しさを否定できない。何度聞いてもよい。

これを458スパイダーであれば、ルーフを全開にして直接聞けるのだから、ぜいたくである。また屋根を開け放つと、シートから車体後部にファストバックデザイン的ピラーができる。ルーフ開閉機構の複雑で優雅な様も見られる。ルーフが開く喜びもあるけれど、それ以外の芸術的な喜びもある。新車当時は+230万円のアドオンが必要だったけれど正当化できる。

458にはもう1つの魅力

もう1つ。458イタリア/458スパイダーの魅力はハンドリングにあると私は思う。

現代フェラーリの鋭敏すぎるハンドリングも、好きな人にとっては楽しいかもしれないけれど、まだ458の時代はナチュラルだった。

といっても、新車当時は何だこの鋭さは!とドン引きしたものだけれど、時代は移り変わるし、トレンドも変わる。感じ方も変わる。適度に鋭く、またパッケージのお陰で車がクルクルとコーナーを巻き込んでゆく感覚がある。

全てにおいて、人工甘味料のような味付けとは異なる、生っぽさに今だからこそ感動する。

最後の自然吸気V8であり、優秀なデュアルクラッチATが不安を解消する。時代の移り変わりに生まれた宝物が458イタリア/スパイダーなのだ。それを市場も理解している。

買うなら今なのかも…と私は深く考えた。

SPEC

フェラーリ458スパイダー

年式
2020年
全長
4527mm
全幅
1937mm
全高
1211mm
ホイールベース
2650mm
トレッド(前)
1670mm
トレッド(後)
1610mm
車重
1430kg
パワートレイン
4.5リッターV型8気筒
トランスミッション
7速AT
エンジン最高出力
570ps/9000rpm
エンジン最大トルク
540Nm/3250〜6000rpm
サスペンション(前)
ダブルウィッシュボーン
サスペンション(後)
マルチリンク
タイヤ(前)
235/35 R20
タイヤ(後)
295/35 R20
メーカー
価格
店舗
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