レンジローバー・オートバイオグラフィ(4WD/9AT)普段使いできるロールス

もし、普段使いできるロールス・ロイスがあったとしたら?そんな空想に、現実味を与えてくれるのがこの一台だった。レンジローバー・オートバイオグラフィは、「ラグジュアリーSUV」という言葉の、ひとつの完成形だと思えた。

もし、普段使いできるロールス・ロイスがあったとしたら?そんな空想に、現実味を与えてくれるのがこの一台だった。レンジローバー・オートバイオグラフィは、「ラグジュアリーSUV」という言葉の、ひとつの完成形だと思えた。

許容のいらない上質へ

「砂漠のロールス・ロイス」というキャッチコピーとは裏腹に、4代目までのレンジローバーには、どこか解けきらない違和感があった。それは、宿命のように付きまとっていたトレードオフ——悪路走破性を重視するがゆえに、乗り心地に微かな荒さが残っていた。

もちろん快適ではあった。上質な素材とデザインに囲まれ、ラグジュアリーを名乗るにふさわしい空間も備えていた。けれどその陰に、ほんのわずかだが、“あらさ”や“ゆれ”が顔をのぞかせる瞬間もあった。「文句はないけれど、どこかに我慢がある」そんなふうに感じた人も、決して少なくなかったはずだ。

だが、2022年に登場した5代目は、そんな許容を必要としない。ひとたび走り出せば、そのスムースさと揺るぎのなさによって、「砂漠のロールス・ロイス」がただの比喩ではなく、現実にその領域まで達したことを実感させられる。

タイヤが地面を転がっていることを忘れそうになる、そんな滑らかさだ。しかもそれが、過剰にならず、日常の速度域で自然に感じられるということにこそ、意味がある。

レンジローバー・オートバイオグラフィ(4WD/9AT)普段使いできるロールス

日常にも馴染む完成度

この個体に乗って、まず感じたのは、我慢がひとつも要らないということ。かつてのレンジには、やや腰高な姿勢や、取り回しの難しさと引き換えに得られる王者の風格があった。それも魅力ではあったが、日常使いには向かないと感じる人も少なくなかっただろう。

しかし今作は違う。リアアクスルステアが加わったことで、巨体とは思えぬ回頭性を発揮し、狭い道でも気後れしない。ドライバーズカーとしての完成度が、かつてない次元にまで高まった。

今回試乗したディーゼルエンジン搭載のD300モデルは、かつてのようなディーゼル特有の「カラカラ音」やラフなトルク感が抑えられ、しっとりと力強く、しかも静かだ。タウンスピードでもエンジンの存在を意識させない。これが高級車にふさわしいディーゼルのあり方だと、あらためて教えられる。

レンジローバー・オートバイオグラフィ(4WD/9AT)普段使いできるロールス

組み合わせに宿る世界観

この個体の外装は、「サテンフィニッシュ」が施されたマットブラック。ランドローバー純正の高額オプションのひとつで、選ばれること自体が少なく、市場でもほとんど見かけない仕上げだ。

艶を抑えたこの表面処理は、光を柔らかく吸収し、車体の陰影をよりくっきりと引き立てている。決して派手に主張しないが、その質感の深みが、むしろ静かな存在感として際立っている、まさに素材で語るラグジュアリー。

足元には、グロスブラック仕上げの純正22インチアロイホイール。光沢を抑えたボディとのコントラストが効いており、全体の印象をシャープに引き締めている。マットとグロス、2つの黒をバランスよく使い分けることで、この個体はより洗練された佇まいを手にしている。

組み合わされる内装は、クラフト感あるブラウンレザー。ステアリングからダッシュボード、シートに至るまでトーンが統一され、マットブラックの外装との対比が英国車らしい気品を感じさせる。

万人受けを狙った仕様ではない。だからこそこのクルマには、他では得られない個の魅力が宿っている。仕立ての思想を感じさせる、ビスポークの美学が、この一台には静かに息づいている。

レンジローバー・オートバイオグラフィ(4WD/9AT)普段使いできるロールス

原点から積み上げた品格

ロールス・ロイスには誰もが憧れる。だが、実際に所有できたとしても普段使いできるかと問われれば、ためらいが生まれる。物理的にも、精神的にも。

このクルマは、その隙間を満たしてくれる。ドライバーズカーとしての現実性と、ショーファーカーとしての優雅さ。その両方を手に入れた稀有な存在——それが、5代目レンジローバーのオートバイオグラフィだ。

パフォーマンスにしても装備にしても、明確な過不足のなさがあり、だからこそ長く付き合える。SUVであることを主張せず、けれど確実に全地形対応能力を持っているという信頼。たとえばメルセデスのGLSやBMWのX7とはまた違う、もっと“人格”に近いような存在感がここにはある。

それは単に装備や性能の違いではなく、このブランドが“本質的にSUVをつくるために生まれた”メーカーであることと無関係ではない。ランドローバーは、クロスカントリー車の起源とされる初代レンジローバーを礎に、ラグジュアリーと本格悪路走破性を両立してきた数少ない存在。

量産化の波に流されることなく、常に「何のためにSUVを作るか」を問い続けてきたその歴史が、乗り味や佇まいにまで滲み出ている。

レンジローバー・オートバイオグラフィ(4WD/9AT)普段使いできるロールス

唯一無二の説得力

近年の新車価格の高騰には、誰しも一度は疑問を感じるものだろう。その金額に、本当にそれだけの価値があるのか、そんな思いが頭をよぎるのは、ごく自然なことだ。

けれど、このクルマに関しては、その価格にきちんと理由があると感じさせてくれる。現行型のレンジローバーは、その価格に見合うだけの完成度を確かに持っている。そして今回の個体に試乗してみて、あらためてその納得感を実感することになった。

このクルマは、レンジローバーという完成されたプロダクトであることに加えて、マットブラックの外装やブラウンのレザーといった選びの妙によって、唯一無二の存在感をまとっている。価格とは、単なる数字ではない。それにどれだけの意味が詰まっているかという一点で、このレンジローバーは正当化される。

乗り味も、仕立ても、価格も、その一つひとつに、選ばれるだけの理由が確かにあった。

レンジローバー・オートバイオグラフィ(4WD/9AT)普段使いできるロールス

SPEC

レンジローバー・オートバイオグラフィ

年式
2022年式
全長
5065mm
全幅
2005mm
全高
1870mm
ホイールベース
2995mm
車重
2700kg
パワートレイン
3リッター 直列6気筒ディーゼルターボ+MHEV
トランスミッション
電子制御9速AT
エンジン最高出力
300ps/4000rpm
エンジン最大トルク
650Nm/1500–2500rpm
サスペンション(前)
電子制御エアサスペンション+ダブルウィッシュボーン
サスペンション(後)
電子制御エアサスペンション+マルチリンク
  • 河野浩之 Hiroyuki Kono

    18歳で免許を取ったその日から、好奇心と探究心のおもむくままに車を次々と乗り継いできた。あらゆる立場の車に乗ってきたからこそわかる、その奥深さ。どんな車にも、それを選んだ理由があり、「この1台のために頑張れる」と思える瞬間が確かにあった。車を心のサプリメントに──そんな思いを掲げ、RESENSEを創業。性能だけでは語り尽くせない、車という文化や歴史を紐解き、物語として未来へつなげていきたい。

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