アウディ・A5スポーツバック(4WD/7AT)いいクルマは色褪せない

流行が移ろう中で、変わらない美しさを持つクルマがある。アウディ・A5スポーツバックはその象徴だ。時を経てなお輝く、その造形の確かさに息をのむ。

流行が移ろう中で、変わらない美しさを持つクルマがある。アウディ・A5スポーツバックはその象徴だ。時を経てなお輝く、その造形の確かさに息をのむ。

デザインがブランドを変えた時代

2000年代後半、アウディは世界のどのメーカーよりもデザインを重視していた。

それまでのアウディは理性的で、どちらかといえば控えめな存在だった。だが2010年に日本へ姿を現したA5スポーツバックは、その均衡を見事に崩してみせた。

クーペの流麗さ、セダンの品格、ワゴンの実用性──それらを一つに融合させた、新しい“美のかたち”だった。

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ヴァルター・デ・シルヴァが率いたチームは、メカニズムの配置から見直し、フロントアクスルを前方へ移動。結果として、ロングノーズ・ショートキャビンという理想的なプロポーションを手に入れた。

さらに、なだらかに落ちるルーフラインと引き締まったリアエンドが調和したシルエットは、クーペの軽快さとサルーンの品格を両立させ、A5スポーツバック独自のバランスを生み出している。

その姿は、ただの派生車ではなく、「アウディがデザインでブランドを変えた瞬間」を象徴するモデルとなった。

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その時代、街中でこのクルマを見かけるたびに、一段上の車格を感じた。

実際に乗っていなくても、デザインの完成度がひと目で伝わってきた。周囲でもA5スポーツバックを選ぶ人が増え、ひとつのステータスになっていた記憶がある。

その印象がいま目の前の個体を通して鮮明に蘇る。

2010年式、走行距離2万4000km、Sライン、サンルーフ装備。ボディは深いブラックで、細部のコンディションまで当時の質感をそのままに保っている。

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低く構えるクワトロ

ドアを開け、腰を下ろす瞬間にわかる。このクルマのアイポイントは驚くほど低い。体感的にはポルシェと変わらないほどで、SUVやセダンの視点に慣れた身には新鮮な感覚だ。

そのぶん乗り降りには気を遣うが、一度座ってしまえば身体ごと地面に吸い付くような安定感がある。シートとステアリングの位置関係、ペダルの踏み込み角度、すべてがスポーツカー的に整っている。

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2.0L直列4気筒ターボのエンジンは、いま乗っても十分に力強い。

最大トルク350Nmをわずか1,500rpmから発生し、7速Sトロニックとの組み合わせで軽快に吹け上がる。

街中で流すときも、高速で合流するときも、動力性能に古さは微塵もない。むしろ現代のダウンサイジングターボよりもリニアで、機械的な気持ちよさが残っている。

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そして、クワトロシステムによる接地感。

路面をしっかり掴みながら走る安心感がある。滑りやすい路面でも、不安を感じさせない。

ステアリングを切り込んだときの反応も自然で、ボディがひとつの塊として動く感覚がある。

「レガシィの高級版」とでも言いたくなる、上質で安定した走り。スポーティでありながら、どこか落ち着いた余裕が漂っている。

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全部のいいとこ取り

言うまでもなく、A5スポーツバックの魅力は、スタイルと機能の見事な両立にある。

外から見れば、まぎれもなくクーペ。だが、5ドアハッチの形状によってワゴン的な使い勝手も備えている。セダンの落ち着き、ワゴンの実用性、クーペの美しさ──そのすべてを高い次元でまとめ上げている。

この「全部のいいとこ取り」は、当時としても画期的だった。

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サンルーフを開けると、光がキャビンをやわらかく照らし、ブラックレザーの艶を際立たせる。座面は硬めだが、長距離でも疲れにくい。後席の居住性も十分で、ルーフが流れていながら頭上空間に余裕がある。

まるでグランツーリスモのように、乗る人それぞれの生活に合わせて変化できる懐の深さを持っている。

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そして、ボディカラーが黒であることも重要だ。

アウディの造形は光の扱いで完成するデザインだが、ブラックはその“陰影の緊張”を最も美しく見せる。Sライン専用のエアロや18インチホイールも、この濃密な黒の中で立体的に浮かび上がる。

もしこのクルマを一言で表すなら、“機能美の塊”という表現が近い。

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黄金期のオーラ

このA5スポーツバックに再び触れると、あの時代の空気がよみがえる。

まだSUVが街を支配していなかった頃、ドイツ車といえばセダンかクーペ。アウディはその中で、静かに、しかし確実に存在感を放っていた。

その象徴がこのクルマだった。

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横から見たときのプロポーションはいま見ても息をのむほど美しい。前後のフェンダーがわずかに張り出し、キャビンが後方に引かれている。光を受けて流れるラインは、いまのデザインよりも彫刻的で、意思を感じる。

10年以上の歳月を経ても、古びるどころか、むしろ“完成されたもの”だけが持つ余裕がある。

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そして、走行2万4000kmという数字がそれを裏付ける。

この個体はほとんど劣化を感じさせず、Sライン特有のタイトな足まわりとステアフィールを当時のままに伝えている。ブラックのボディは深く艶めき、レザーシートの張りも変わらない。アルミ調トリムやスイッチ類の質感も高く、手に触れる部分の密度感がいまのアウディにも通じる完成度を感じさせる。

ここまで状態の良いA5スポーツバックには滅多に出会えない。それは、アウディがもっとも美しかった時代をそのまま封じ込めたタイムカプセルのようでもある。

いいクルマは色褪せない。

デザインも走りも、いまの基準で測る必要はない。ただ、ひと目で伝わるその存在感こそが、アウディが築いた黄金期の証だ。

アウディ・A5スポーツバック(4WD/7AT)いいクルマは色褪せない

SPEC

アウディ・A5スポーツバック2.0 TFSI クワトロ Sラインパッケージ

年式
2010年式
全長
4715mm
全幅
1855mm
全高
1390mm
ホイールベース
2810mm
車重
約1620kg
パワートレイン
2リッター直列4気筒インタークーラー付ターボ
トランスミッション
7速Sトロニック
エンジン最高出力
211ps/4300〜6000rpm
エンジン最大トルク
350Nm/1500〜4200rpm
  • 河野浩之 Hiroyuki Kono

    18歳で免許を取ったその日から、好奇心と探究心のおもむくままに車を次々と乗り継いできた。あらゆる立場の車に乗ってきたからこそわかる、その奥深さ。どんな車にも、それを選んだ理由があり、「この1台のために頑張れる」と思える瞬間が確かにあった。車を心のサプリメントに──そんな思いを掲げ、RESENSEを創業。性能だけでは語り尽くせない、車という文化や歴史を紐解き、物語として未来へつなげていきたい。

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