フォルクスワーゲン・シロッコ(FF/6AT)見るからに俊敏、乗ってみると予想通り

誕生し、一度は消えたものがまた復活する。そしてまた消える。もう少ししたら再度復活を遂げることになると予感させるライフサイクルは、時代が求めるからかもしれない。

誕生し、一度は消えたものがまた復活する。そしてまた消える。もう少ししたら再度復活を遂げることになると予感させるライフサイクルは、時代が求めるからかもしれない。

蘇ったシロッコ、その血統の源流

フォルクスワーゲンにとって、スポーツクーペとは何か。実用性と快楽の交点を見極めながら、洗練されたドライビング体験を提供する。

そんな思想のもとに生み出されたのが、1974年に登場した初代シロッコだった。ジウジアーロが描いたクリーンなライン、軽快な走り、そしてFFスポーツの魅力。

それはフォルクスワーゲンにとって、ゴルフGTIと並ぶ「熱い血」の象徴だった。

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しかし、1980年代に入り自動車業界は合理化の波に飲み込まれた。

実用性を最優先するフォルクスワーゲンは、やがてシロッコをカタログから消し去り、より万人向けのコラードへとシフトした。

だが、シロッコという名は完全に消え去ることはなかった。2008年、約16年の沈黙を破り、ついに三代目シロッコが復活する。フォルクスワーゲンは再び、コンパクトクーペという概念を我々の前に提示したのだ。

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その中核を担うのが、2009年式のシロッコ 2.0TSI。ゴルフGTIと同じEA888型2.0リッター直列4気筒ターボエンジンを搭載し、最高出力は200psを発生。トランスミッションには6速DSGを組み合わせ、前輪を駆動する。

このスペックを聞くだけでも、シロッコが単なるデザインコンシャスなクーペではなく、本格的な走りを求めたマシンであることが分かる。

シロッコの復活は単なるマーケティング的なものではなく、フォルクスワーゲンがFFスポーツの可能性を再評価した結果でもある。

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現代の市場ではSUVが席巻し、純粋なクーペは希少な存在になってしまった。しかし、それでもシロッコは開発され、送り出された。

これはフォルクスワーゲンが自社のスポーツクーペに込める想いの深さを示している。

では、実際にステアリングを握った時、このクルマはどんな世界を見せてくれるのだろうか。

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鋭さと洗練の同居、その走りの本質

ドアを開けると、そこに広がるのは明確にスポーツカーの世界だった。

低く構えたシート、タイトな空間、そしてセンターコンソールに鎮座するDSGシフトノブ。これは、実用のための車ではない。走るための車だ。

イグニッションを回す。2.0リッター直噴ターボエンジンが目を覚ます。低回転域では驚くほど静かだが、アクセルを踏み込めば一変する。

トルクフルな加速、ターボの圧がかかる瞬間の鋭いレスポンス、そして6速DSGの変速スピード。すべてが「俊敏」という言葉を体現している。

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シロッコの真骨頂は、コーナリング性能にある。ゴルフGTIと同じプラットフォームを採用しながら、より低い全高、ワイドなトレッド、そして専用の足回りセッティングが施されている。

その結果、コーナーでは驚くほどの安定感を誇る。ステアリングを切ると、素早く反応し、車体がスムーズに回り込む。

電子制御ディファレンシャル(XDS)の働きで前輪のトラクションを的確にコントロールし、アンダーステアをあまり感じさせない。

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さらに驚かされるのは、その乗り心地だ。スポーツクーペでありながら、過剰に硬すぎるわけではない(もっと硬い印象だった。記憶とは不確かなものである)。

ダンパーの動きはしなやかで、路面の凹凸を適度に吸収しつつも、シャープなレスポンスを損なわない。

このバランスこそが、フォルクスワーゲンが長年培ってきたFFスポーツの哲学なのだ。

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シロッコは日常でも十分に実用的な一面を持つ。

リアシートのスペースはクーペにしては広く、トランク容量も意外なほど確保されている。さらに、高速クルージング時の静粛性は見事で、長距離ドライブでも疲れにくい。

この「走り」と「日常」のバランスこそが、シロッコ最大の魅力だ。

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未来へ続くシロッコの遺産

試乗を終えた今、改めて考える。

この車は単なる名ばかりのリバイバルではない。フォルクスワーゲンがFFスポーツに求めた理想のひとつの到達点なのだ。

デザイン重視のクーペではない。実用性を削ぎ落としたピュアスポーツカーでもない。

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その中間点でありながら、どちらの世界にも深く踏み込む。日常での快適性を保ちながら、本気で走ればしっかり応えてくれる。その懐の深さこそが、この車の魅力なのだ。

だが、2017年をもって、シロッコは再び生産終了となった。

SUVの台頭、環境規制の強化、そして市場のニーズの変化。フォルクスワーゲンの中で、コンパクトクーペの居場所は徐々に失われていった。

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しかし、このクルマが持つ純粋な走りの楽しさは、決して色褪せることはない。

シロッコの遺産は今もなお生き続けている。中古市場では根強い人気を誇り、カスタムパーツも豊富に揃う。手に入れた者は、その走りの魔力に取り憑かれることだろう。

21世紀に生まれた、フォルクスワーゲン最後のFFクーペ。その存在を知る者だけが、本当の価値を理解することができるのだ。

SPEC

フォルクスワーゲン・シロッコ

年式
2009年式
全長
4255mm
全幅
1810mm
全高
1420mm
ホイールベース
2575mm
車重
1360kg
パワートレイン
2リッター直列4気筒ターボ
トランスミッション
6速AT
エンジン最高出力
200ps/5100~6000rpm
エンジン最大トルク
280Nm/1700~5000rpm
タイヤ(前)
235/40R18
タイヤ(後)
235/40R18
  • 上野太朗 Taro Ueno

    幼少から車漬け。ミニカー、車ゲーム、車雑誌しか買ってもらえなかった男の末路は、やっぱり車。今、買って買って買ってます。エンジンとかサスとか機構も大事だけれど、納車までの眠れない夜とか、乗ってる自分をこう見られたいとか、買ったからには田舎に錦を飾りにいきたいとか、そんなのも含めて、車趣味だと思います。凝り固まった思想を捨てたら、窓越しの世界がもっと鮮やかになりました。

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