ニュービートル・カブリオレ(FF/6AT)微笑みをまとった“あの頃の未来”

走行わずか6000km、20年を経たとは思えないコンディションのニュービートル・カブリオレは、時代の空気とつくり手の意志をストレートに伝えてくる。

走行わずか6000km、20年を経たとは思えないコンディションのニュービートル・カブリオレは、時代の空気とつくり手の意志をストレートに伝えてくる。

微笑みが語るもの

丸い。ニュービートルのデザインは、誰かを威嚇するでも、誰かを出し抜くでもなく、「私はここにいるよ」と微笑んでいるかのようだ。

鋭さでも力強さでもなく、まろやかで、柔らかく、温かい。人間の視線に最も馴染む“丸”というフォルムが、このクルマのすべてを物語っている。

2004年式のニュービートルカブリオレ。今あらためて対峙すると、そのかわいらしさの裏にある意志に気づかされる。

それは、流行ではなく思想だ。ただ過去を模倣したノスタルジーではなく、「あの頃の未来」を誠実にかたちにした意志の結晶だ。

ニュービートル・カブリオレ(FF/6AT)微笑みをまとった“あの頃の未来”

ビートルの記憶を現代に

フォルクスワーゲン・ビートルは、1938年に誕生。第二次世界大戦後に本格的な量産が始まると、その親しみやすいフォルムと堅牢な作りでヒットし、世界中の人々の暮らしに寄り添う存在となった。

1998年、その精神を受け継いだ「ニュービートル」が登場。クラシックなデザインを現代的に再構築し、FFレイアウトや水冷エンジンを採用。レトロでありながら新しい──そんな価値観が時代と共鳴し、瞬く間に人気モデルとなった。

そのオープン仕様として、2003年に「ニュービートル・カブリオレ」が追加される。電動開閉式ソフトトップと4人乗りの実用性を備え、2010年まで製造された。

今回試乗した2004年モデルは、その初期にあたる一台。登場直後の瑞々しさと作り手の熱意が、そのまま息づいている。

ニュービートル・カブリオレ(FF/6AT)微笑みをまとった“あの頃の未来”

“未来の空気”をまとった一台

2.0リッターNA、115ps。現代の目で見れば、スペックは平凡。けれど、このクルマは物足りなさを感じさせない。それどころか、滑らかな加速と、穏やかなステアフィールが心地いい。

アクセルに対する反応は素直で、オートマの変速も違和感がない。無理をさせなければスムーズに前へ進んでくれる。

レザーシートやアルミホイール、シートヒーターなど、装備はコンパクトカーとしては贅沢なもの。シルバーのボディに、シルバーのボディに、黒の幌と内装。メタリックな質感とモノトーンのコントラストが、どこか未来を意識したような雰囲気をまとっている。

走行距離わずか6000kmという奇跡的な個体。驚くほどヤレがなく、レザーシートやハンドルの手触りまでピンとしていた。

それは単に「きれい」という話ではない。20年前、このクルマが造られた当時の思想や熱量──それを、そのままの濃度で受け取れるということだ。

時間に薄められていないニュービートル。それがこの個体の、最大の魅力かもしれない。

ニュービートル・カブリオレ(FF/6AT)微笑みをまとった“あの頃の未来”

細部に込められた思想

試乗車では欠品していたが、ニュービートルには、ダッシュボードに小さな「花挿し」が備えられていた。「Bud Vase(バドベース)」と呼ばれるこのアイテムは、単なるギミックではない。「クルマは道具ではなく、暮らしの一部である」という、フォルクスワーゲンのデザイン哲学を象徴するものだ。

この時代のニュービートルには「つくり手のこだわり」が随所に残っている。たとえば、メーターまわりの造形、パネルの仕上げ、操作系のスイッチにまで、一見目立たない部分まで芸が細かい。

ニュービートル・カブリオレ(FF/6AT)微笑みをまとった“あの頃の未来”

2000年代前半は、まだ自動車の製造工程に“余白”があった時代だ。手作業の工程も多く、多くの量産車に個性や質感のこだわりが残っていた。「このモデルはここが面白い」「この車は細部が違う」と語れる“商品性の豊かさ”が、ブランドを形成していた。

一方で現在は、安全装備や環境性能など、限られたコストを“見えない機能”に振り分けざるを得ない時代。そのなかで、かつてのように造形の遊びや部品の質感に注力することは、難しくなっている。

だからこそ、このニュービートルのようなクルマに出会うと、ハッとさせられる。時代が違えば、つくり方も違う。だけど、ここには“かたちに込められた意志”が、今もそのまま息づいている。それをまるごと感じられるのも、この個体が、20年前のコンディションをほぼそのまま残しているからだろう。

ニュービートル・カブリオレ(FF/6AT)微笑みをまとった“あの頃の未来”

物語は続いていく

ビートルは、言わずと知れたアイコンだ。でも、ニュービートル──それもカブリオレというスタイルに、2004年という時間軸が加わると、この個体にだけ宿る“物語”が動き出す。

現代のクルマに似たものはない。だからこそ、今見ても古びない。走りの印象も含めて、今の道路事情にきちんとフィットする。シートヒーターだってついている。

ストレスもなければ、不安もない。むしろ「よくここまで丁寧に作り込まれていたな」と感心するばかりだった。

デザイン、質感、サイズ、そして空気感──そのすべてが「いまでは手に入らないもの」になっている。けれどこのクルマは、あなたの隣に座ることができる。

走り出せばきっと、その物語の続きを紡いでいくことになるだろう。

ニュービートル・カブリオレ(FF/6AT)微笑みをまとった“あの頃の未来”

SPEC

ニュービートル・カブリオレ

年式
2004年式
全長
4120mm
全幅
1735mm
全高
1505mm
ホイールベース
2515mm
車重
1320kg
パワートレイン
2.0リッター直列4気筒
トランスミッション
6速AT
エンジン最高出力
115ps/5200rpm
エンジン最大トルク
170Nm/2600rpm
  • 河野浩之 Hiroyuki Kono

    18歳で免許を取ったその日から、好奇心と探究心のおもむくままに車を次々と乗り継いできた。あらゆる立場の車に乗ってきたからこそわかる、その奥深さ。どんな車にも、それを選んだ理由があり、「この1台のために頑張れる」と思える瞬間が確かにあった。車を心のサプリメントに──そんな思いを掲げ、RESENSEを創業。性能だけでは語り尽くせない、車という文化や歴史を紐解き、物語として未来へつなげていきたい。

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