シリーズ1〜2

ジャガーEタイプがデビューしたのは1961年、ジュネーブモーターショーでのことだった。最高速240km/h。流麗なボディの下に3.8リッター直列6気筒エンジンをもつこの車はすぐさま憧れの的になった。いわゆるシリーズ1と呼ばれる世代だ。

3年後の1964年、いくつかの課題を克服したマイナーチェンジ版がデビューする。外観こそ大きな変化はなかったが、直列6気筒ユニットは4.2リッターまで拡大。トルクがアップした。内装材も見直され、総じて快適性が高まる。66年には、ホイールベースを伸ばし後席が加わる「2+2（ツー・プラス・ツー）」と、屋根の開く「ロードスター」が加わる。ATも選べるようになった。

翌年からたったの1年、シリーズ1とシリーズ2の間にある、シリーズ1 1/2が存在したことも忘れてはなるまい。

シリーズ1は7年間を通して、穏やかな、しかし着実な改良を受けたのだった。

1968年、シリーズ2へとモデルチェンジした。エンジンは4.2リッターがそのまま引き継がれるが、米国仕様のキャブレターはSUからゼニス・ストロンバーグ製になる。また外観も衝突安全を意識したものになる。いずれも時代に適合するために不可避であった。とはいえ、シリーズ1時代の問題は大幅に払拭された。実用性が高まったモデルといえる。

シリーズ3とは

そしてシリーズ3である。

筆者が最大の変化と捉えるのは5.3リッターV型12気筒エンジンを搭載した点だ。272ps/5850rpm、412Nm/3600rpmを湧出。キャブレターはゼニス・ストロンバーグの175CDSEだ。

外観は、雄々しいものになる。タイヤは太くなり、メッキが増えた。同じEタイプとはいえ、シリーズ1から比べると全く別のものになる。

チャームポイントでもあるフロントの楕円グリル内側には、格子状のメッキパーツが上下に走る。太くなったタイヤを収めるために、前後のホイールアーチも膨らんだ。

パワステの採用など快適性も重視している。ウッドから革巻きになったのもポイントだ。

この時点でクーペは廃止されている。「2+2」と「ロードスター」の2本立てになったことからも、市場がEタイプにどのようなものを求めていたかがわかると言えるだろう。

旅への渇望

いつだってジャガーEタイプを運転するというのは、正直にいって緊張する。それは、ある種、伝説的なモデルとして、世に知れ渡っているからかも知れない。

キーを撚ると、V型12気筒が重い腰を上げるかのように目を覚ます。アイドリングから細かい粒の揃った低いエンジン音が耳に届く。

長いシフトノブを左前に倒し、クラッチをゆっくり離すと、アクセルペダルを踏まずともゆったりとEタイプ・シリーズ3は前に進み始める。フロントガラスの向こうに見える長いノーズもゆったりと上下する。

テンポを意識してシフトアップすれば、太く、ゆとりのあるV12ユニットが速度を高めてゆく。瞬間的な加速や圧倒的な速さというよりも、たっぷりとした力で長い距離をリラックスして走るのに向いた性格である。やや大味な仕立てもまた、長距離を楽にする。

何よりやわらかいサスペンション。ふかふかのシート。60年代〜70年半ばにかけて、既にこんな車があったことに驚くばかりだ。

サイドミラーから見えるセクシーなリアフェンダー。飛行機のコックピットの如くたくさんのスイッチが並んだ上品な（ちょっとだけアメリカンでもある）インパネをドライバーズシートから見つめると、何ともいえない充足感が湧き上がってくるのだ。

これに乗って、旅に出られたらなと思わずにはいられない。

色褪せぬ魅力

資料によると、初代〜シリーズ3の販売終了までの14年間で、計7万2584台がオーナーの元へ嫁いでいったのだという。

1960年代初頭の日本における大卒男子の初任給は1万6000円ほどだった。対するEタイプの日本価格は470〜550万円。

このことを踏まえると、販売台数のとてつもない多さに驚く。

マニアの間では、各シリーズで様々な評価があるけれど、今回のシリーズ3に向き合うと、どんな世代であれ、やはり時代を超えた魅力があることを改めて知る。

まったく色褪せていないのである。