ジャガーFタイプ・クーペP340(FR/8AT) しなやかなアスリート

ジャガーFタイプ・クーペP340(FR/8AT) しなやかなアスリート

ジャガーFタイプの内外装から、贅肉の一切を研ぎ落としたアスリートのしなやかな体の動きを思い浮かべた。走りもしかり。スポーツカー・デビューには、この車が最適といえそうだ。

変わりたかったあの頃のジャガー

2011年、フランクフルトモーターショー。ジャガーFタイプのコンセプトが披露された。当初のモデル名は「C-X16」。少しおじさんぽかったジャガー・ブランドに一石を投じた。

その2年後、「Fタイプ」を名乗り、まずはコンバーチブルがデビュー。クーペが続いた。モデル名からして「Eタイプ」を強く意識することがわかる。精神的な先祖とも言われている。

当時のデザインディレクターであったイアン・カラムは「ムダをそぎ落とした筋肉質なフォルムは(中略)ステアリングを握りたくなるはずです。ジャガーのスポーツカーが人々に感じさせなくてはいけないのは、まさにそれなのです」とデビュー時の資料で語っている。

余談だが、C-X16のあとにC-X17が続いた。これはFペース(同社初のSUV)になった。この頃のジャガーが若返りへの切望が見て取れる。そんな時代だった。

ジャガーFタイプ 全組み合わせ

この頃のジャガー(とランドローバー)は、いかんせんグレードが多い。グレード名も煩雑で、全てを把握するのは、われわれのような人種ではない限り難しい。だから本稿では、パワートレイン/駆動方式/トランスミッションをまとめたい。

デビュー〜2017年、パワートレインは3リッターV型6気筒スーパーチャージャー/5リッターV型8気筒スーパーチャージャーの2本立てだった。

それぞれに出力違いが用意され、340ps/6500rpm〜575ps/6500rpm、450Nm/3500rpm〜700Nm/3500-5000rpmの幅をカバーした。

上位グレードには4WDが、FタイプSのクーペのみ6MTが選択できた。その他はいずれもFR/8ATが組み合わされた。

2017年以降、2.0リッター直列4気筒ターボチャージャーが加わった。300ps/5500rpm、400Nm/2000rpmを発揮した。また、既存の3リッターV6/5リッターV8スーパーチャージャーは、出力特性をわずかに変えつつ続投した。

今回試乗するのは3リッターV6スーパーチャージャーを搭載した「P340」なるトリムレベルにあたる。340ps/380psの2本立てのうち前者にあたり、駆動方式はFR。MY2019で走行1.2万kmの個体だ。

ほぼ同じコンセプトとプロダクト

ジャガーFタイプをまず真横から眺めてみる。低い位置からノーズが始まる。長いボンネットの上端は、低さを保ったままルーフへ。薄いうすいサイドウインドウを経て、厚みのあるリアを創り出す。大きく横に張り出すリアフェンダーは、まさにネコ科の動物が飛び出さんとする後ろ脚のよう。じつに優美なデザインだ。

細く、長く左右に伸びるテールライトも、この時代にしか創れない造形。LEDの恩恵に感謝したくなる。よく「モーターショーのコンセプトカーがそのまま現実に飛び出したような」という表現が使われるけれど、Fタイプは、実際にもコンセプトカーとほとんど変わらない。格納式のドアノブ然り。非現実的ともいえる、一切の無駄が削ぎ落とされた意匠だ。

コンセプトカーとほとんど変わらないのは内装もおなじ。すべてのコンポーネントはドライバーに向いており、センターコンソールの助手席側には隔壁さえ設けられている。着座位置、ダッシュボードの高さ、サイドウインドウ下端の高さのすべてがコクーン状のコックピットを演出。ドライバーオリエンテッドな設えがFタイプの「意義」を静かに伝える。

それぞれのスイッチのデザインは他のどの車とも似ておらず、精緻な押し心地から、動的な質感をかなり研究していることも感じられた。特別な車に乗っているのだと思わせてくれる隙のない仕立てだ。

ガングリップタイプのシフトノブを後方に倒せば「D」になる。走り出そう。

贅肉ゼロ しなやかなアスリート

まずこのFタイプ。乗り心地において不快に感じるところはまるで無い。19インチのホイールを履くテスト車であるけれど、脚が積極的に動くおかげでむやみな突き上げとは無縁の快適性だった。

アクセル踏力に対する反応も自然。踏み始めから中間地点にかけてじわりとトルクが立ち上がり、公道で物足りなさを感じるシチュエーションは無いだろう。

そして音。3リッターV6スーパーチャージャーは、オプションのスポーツエキゾーストのバルブを開かずとも、調律された快音を響かせる。乾いた音、とでも言おうか。自然と車体後部から聞こえる音に耳を傾けている。バルブを開くと高回転域でわずかに排気音がビビリはじめる。この音に迫力がある。変速時、ボッと吹いたアフターファイヤー音は、ブゥワフッ! と盛大な音に切り替わる。アクセルを話すとコポコポっと大きな破裂音が響き、この時にはもうFタイプにグッと心を掴まれている。それでいて、サウンドがどこか上品に纏められているのが、ジャガーらしさとも言えるだろう。

一方、ステアに対するノーズの反応は随分と鋭敏な仕立てだ。マイナーチェンジ後のFタイプもこの傾向は変わっておらず、ジャガーの強い意図だと言えそうだ。生まれて初めてのスポーツカーならば、その機敏さが癖になることだろう。

Fタイプにじっくりと向き合いながら、贅肉の一切を研ぎ落としたアスリートのしなやかな体の動きを思い浮かべた。体の隅々まで自分の思い通りに動かす喜びを得られる人は限られる。けれどその領域に達した人にしか見られない景色があるのだろう。Fタイプの太いステアリングを握りながらそんなことを考えた。

SPEC

ジャガーFタイプ・クーペP340

年式
2019年
全長
4480mm
全幅
1925mm
全高
1315mm
ホイールベース
2620mm
トレッド(前)
1600mm
トレッド(後)
1650mm
車重
1720kg
パワートレイン
3.0リッターV型6気筒スーパーチャージャー
エンジン最高出力
340ps/6500rpm
エンジン最大トルク
450Nm/3500rpm
サスペンション(前)
ダブルウィッシュボーン
サスペンション(後)
ダブルウィッシュボーン
タイヤ(前)
245/45ZR18
タイヤ(後)
275/40ZR18
メーカー
価格
店舗
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