アストン・マーティン・ラピードS(FR/6AT)仮の姿

アストン・マーティン・ラピードS(FR/6AT)仮の姿

アストン・マーティン・ラピードSの、4枚のドア、4つのシートは「仮の姿」だ。その実、これはれっきとしたスーパーカー。無骨な乗り味は裏切りでなく、あっぱれなのだ。

受け継いだラピードの名前

アストン・マーティン・ラピード。4枚のドアをもつ、4座のサルーンである。

2006年、アメリカのオートショーでコンセプトカーがデビュー。2009年、ドイツにて製品版が正式に発表された。

その名はラゴンダ社から3年間だけ生産されたラゴンダ・ラピードにちなむ。

2010年よりオーストリアのマグナシュタイアー社の向上で年間2000台の生産が目指されたものの頓挫。2012年にはイングランドに移管。2020年まで販売は続いた。

アストン・マーティンDB9のアーキテクチャーをストレッチして下敷きとするラピードは、大きく分けると2世代に分けられる。

ラピード(2010年〜2013年)とラピードS(2013年〜2018年)であり、パワートレインの数値や装備、デザインが更新された。

このページでテストするのはラピードSだ。細かく見ていくことにしよう。

ラピードのパワートレイン

アストン・マーティン・ラピードSは、「AM11」から「AM29」なるV型12気筒自然吸気ユニットに置き換えられている。

ラピードと比べると、最高出力は+81psの558psに、最大トルクは+20Nmの600Nmになった。結果、0-100km/h加速タイムは0.3秒短縮され4.9秒に、CO2エミッションは−23g/kmの332g/kmまで削減されたと発表された。

2014年には、これまでの6速トルコンAT(タッチトロニック2=ZF製の6HP26)から、8速(タッチトロニック3=ZF製の8HP70)に置き換えられている。同時にエンジン型式は引き継ぎながらさらなる増強を果たしており、560psと630Nmの数値スペックを手にした。0-100km/h加速タイムは4.4秒に短縮され、最高速度は327km/hに達した。

ラピードのプロポーション

ラピードを街でみるのは、せいぜい月に1度か2度くらいだろうか。その度に見入ってしまうのは、アストン・マーティンらしいクーペデザインを伸びやかなボディに落とし込んだ、非現実的なプロポーションだからだろう。

非現実的だと思うのは、一般的な考え方ならば実用性を採るために4枚のドアを採用するであろうに、ラピードは、はっきりいって実用性のためではなく、デザインを最優先させながら追加のドアを2枚くっつけているからだろう。

また、車体を後方からみると、リアフェンダーが他の2ドアモデルよろしく大きく膨らみ、張り出している。デザインを担当したマレク・ライヒマンは「サラブレッドの競走馬からヒントを得た」と説明しており「隆起する筋肉が皮膚を通して浮かぶさま」とも表現していた。

ホイールベース2989mmの上に載るボディは、全長×全幅×全高=5019×1929×1360mmとなる。全長と全幅に対して、全高が極端に低いことがおわかり頂けるだろう。

だがしかし後部座席は窮屈である。

4ドア・4シーターは仮の姿

軽くアクセルを踏んでみると、12気筒の自然吸気とはいえフェラーリのような甲高いサウンドとは異なる、粒の大きい、猛々しい音がした。

タッチトロニック2による変速だって、少し前のスーパーカーさながら。車とダイレクトに繋がっている実感がある。

走り出すと乗り心地の硬さに気がつく。世にある4枚ドアのサルーンのふかふかとした乗り心地を想像していたならば驚くだろう。ステアリングにはザラリとした路面の感触が伝わってくる。室内も安楽な静けさとは異なる。

2ドアクーペのアストン・マーティンに比べると車そのものの動的質感は穏やかだけれど、それも仕立てゆえというより、ホイールベースが長いだけのことである。

4枚ドアがついていて、4座のシートが収まるのは、あくまで「字面」のことであり、アストン・マーティンは、まずはっきりとスポーツカーを作りたかったのだとすぐにわかった。

だからおのずとスピードがノッてくる。気づいたら結構なスピードになっている。コーナーがやってくれば、後席の住人のことなんて忘れて、車との対話を優先している。ラピードを運転することを自然に楽しんでいる。

印象的だったのは後部座席に座っていても同じ気持ちになれた点だ。前後左右、どこに座っていても、自分が操縦している感覚になれる。自分を中心に車が動いているように思える。

だから小さな窓の、深い椅子に体をねじ込み、フロントシートで前が見えなかったとしても、この生々しいサウンドと機敏な身のこなしを楽しんでいる。ラピードでしか、こんな感覚になれたことが私はなかった。

そうか4ドア・4シーターなんて仮の姿なのか。やわらかなコットンセーターの中に潜む、血管まで浮き出た彫刻のような筋肉をもちあわせるジェントルマンを思い浮かべたのだった。

確立されたラピードの要素

アストン・マーティン・ラピードは、既存の2ドアをより実用的にしたかったという思いではなく、今の(当時)のアストンを4ドア・4シーターでも表現できるか?ということを前提に作られていると私は感じる。

結果的にこれほどエキサイティングで無骨な4ドア・4シーターは他にない。フェラーリの2ドア・4シーターの方がまだ快適だ。

狭い、乗り心地も硬い、うるさい。でもこれくらい割り切っているからこそ、他のどんな車ともダブらない個性になっている。

実は2015年に完全電動タイプの「ラピードE」の存在がアストン・マーティンによってほのめかされたけれど、2020年1月に頓挫している。これも大歓迎である。ラピードには、ラピードにしかない要素が既にしっかり確立されている。

それらをセクシーなボディで包み込む。なんとも粋なことではあるまいか。

SPEC

アストン・マーティン・ラピードS

年式
2014年
全長
5019mm
全幅
1929mm
全高
1360mm
ホイールベース
2989mm
車重
2040kg
パワートレイン
6リッターV型12気筒
トランスミッション
6速AT
エンジン最高出力
558ps
エンジン最大トルク
620Nm
サスペンション(前)
ダブルウィッシュボーン
サスペンション(後)
ダブルウィッシュボーン
タイヤ(前)
245/40 R20
タイヤ(後)
295/35 R20
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