レンジローバー誕生50周年を記念して生まれた「Fifty」。熟成された5リッターV8と丁寧な仕立てが、色褪せない特別感をもたらしてくれる一台だ。
“Fifty”の名に込められたもの
レンジローバー誕生50周年を記念して、世界限定1970台、日本ではわずか38台のみが導入された特別仕様車──それが「Fifty」だ。ベースとなるのは、上級グレードのオートバイオグラフィ。すでに高い完成度を誇るモデルに、専用装備と演出を加えることで、ブランドの節目にふさわしい一台として仕立て直された。
フロントドアにあしらわれた筆記体の“Fifty”ロゴは、この限定車であることをさりげなく伝えてくれる。グロスブラックにコントラストポリッシュを施した22インチの専用ホイールは、このモデルだけのデザイン。ボディカラーや加飾とのバランスまで含めて、威圧感のないまま、通常モデルとは明確な差異を生み出している。
室内に目を移せば、タンレザーと黒のコンビネーションにアルミ調トリムを合わせたコーディネートは、派手さはなくとも完成度が高く、細部にまで一貫性が感じられる。センターコンソールのシフトセレクター手前には、「Fifty」の筆記体ロゴと「1 of 1970」の刻印が入った専用プレートが設けられている。ふと視線を落としたときに自然と目に入るこの位置が、限定車であることをさりげなく伝えてくれる。
レンジローバーはもともと特別なクルマだが、このFiftyにはそれ以上の特別感がある。装備や素材だけでなく、仕立ての丁寧さや全体の完成度からも、それがはっきりと伝わってくる。
5リッターV8エンジン
ボンネットの奥に眠るのは、5.0リッターV8スーパーチャージドエンジン。最高出力は525ps、最大トルクは625Nm。数字だけを見れば、近年のダウンサイジングターボと大差ないように思えるかもしれない。だが、乗って感じる密度はまったく別物だ。
アクセルを軽く踏み込んだ瞬間から、トルクが厚みをもって立ち上がってくる。過度な演出ではない、スーパーチャージャー特有のリニアな圧力感が、じわりと背中を押す。音は力強く、けれどうるさくはない。回転数に応じて高まる低音の響きが、室内に控えめに届いてくる。
この自然で豊かなフィーリングは、現行型レンジローバーでは味わえなくなった感覚だ。
現行型の上位グレードでは、エンジンは4.4リッターV8ツインターボへとスイッチされた。そのユニットは、レスポンスもパワーも申し分なく、洗練という言葉がよく似合う。しかし、この5.0リッターのスーパーチャージャーには、“機械としての生々しさ”が残っている。
燃焼と吸気が連続する感触。ターボとは異なる、エンジンと一体になるような感覚。効率を突き詰めた現代のパワーユニットとは異なるアプローチで、クルマを走らせる悦びを伝えてくれる。
5.0リッターV8スーパーチャージャーというエンジンは、いまや過去の少数モデルにしか残されていない。パワーや音だけでなく、そのフィーリングを現代的な快適性や質感とともに体験できるクルマは、ごく限られている。このFiftyは、そのひとつだ。
ただ速いだけではなく、静かさや乗り心地の中に“厚み”を感じさせてくれるこのエンジンには、数字以上の魅力がある。
厚みのある乗り心地
オートバイオグラフィをベースとしたこのモデルには、路面状況に応じてダンパーやスタビライザーの制御を最適化する電子制御アクティブサスペンション(Dynamic Response)が搭載されている。さらに、フロントガラス上部のステレオカメラが前方の路面を常時スキャンし、段差や起伏を事前に検知してサスペンションを先回りで調整する、予測型サスペンション制御も組み合わされている。
コーナリング時のロールや加減速時の姿勢変化を積極的に抑え、快適性と安定性を高次元で両立するのが特徴だ。
たとえば段差を越えるとき、乗員に伝わるショックは驚くほど少ない。入力を完全に遮断するのではなく、必要な情報だけをなめらかに通すような印象で、車体全体が落ち着いた所作で動く。エアサスにありがちな過剰な浮遊感はなく、しっかりと地面を捉えながらも、不快な衝撃は見事に消し去ってくれる。
ロール制御も同様に自然だ。コーナーで無理に姿勢を正そうとする動きはなく、車体がごくゆるやかに傾きながら、スムーズに旋回していく。ステアリング操作に対する動きにタイムラグがなく、重心がすっと収まるような感覚がある。
こうした足まわりの動きと、5.0リッターV8スーパーチャージドエンジンのなめらかな駆動力とが組み合わさることで、独特の“厚み”が生まれている。
単に静かで快適なだけでなく、すべての挙動がしっかりと整っている。だからこそ、どんな道を走っていても安心感が続き、その落ち着きが車内の空気にまで品格を与えてくれる。
年月を経ても
一般的なクルマは、フルモデルチェンジを境に、旧型であることが一気に際立ってしまう。機能面だけでなく、デザインや雰囲気まで“ひとつ前のもの”として見られてしまうことは少なくない。
その点、レンジローバーは少し印象が異なる。世代が変わっても、それぞれのモデルに完成されたスタイルがあり、時間が経っても大きく価値を損なわない。モデルチェンジを経ても、どこか変わらず魅力を保っているように見えるのだ。
そんなレンジローバーにおいて、Fiftyのような特別仕様車は、そうした“色褪せにくさ”をさらに際立たせている。派手な演出ではなく、細部にまで統一感のある仕立てが、年月を経てもなお特別感を保ち続ける理由なのかもしれない。
変化の早い時代にあって、長く付き合えるクルマとは何か──そのひとつの答えが、このFiftyのような存在なのかもしれない。
SPEC
レンジローバー・フィフティ
- 年式
- 2021年式
- 全長
- 5000mm
- 全幅
- 1985mm
- 全高
- 1865mm
- ホイールベース
- 2920mm
- 車重
- 2450kg
- パワートレイン
- 5.0リッター V型8気筒スーパーチャージャー
- トランスミッション
- 電子制御8速AT
- エンジン最高出力
- 525ps/6000rpm
- エンジン最大トルク
- 625Nm/2500–5500rpm
河野浩之 Hiroyuki Kono
18歳で免許を取ったその日から、好奇心と探究心のおもむくままに車を次々と乗り継いできた。あらゆる立場の車に乗ってきたからこそわかる、その奥深さ。どんな車にも、それを選んだ理由があり、「この1台のために頑張れる」と思える瞬間が確かにあった。車を心のサプリメントに──そんな思いを掲げ、RESENSEを創業。性能だけでは語り尽くせない、車という文化や歴史を紐解き、物語として未来へつなげていきたい。