知っているようで知らないポルシェ914。「ワーゲンポルシェ」や「廉価版911」などとキーワードが目立つが、確かな個性があり、どこへ言っても冒険になるのであった。
INDEX
ポルシェ914に望まれた役割
ポルシェ914について、知っているようで知らない、という向きは多いかもしれない。
フォルクスワーゲンとポルシェが共同開発したスポーツカーで、ポルシェのエントリーモデルとしての役割を果たした。
もとを辿れば、ポルシェとフォルクスワーゲンそれぞれにメリットをもたらす車であった。ポルシェは生産/経営基盤を安定させたかったし、フォルクスワーゲンもビートルの派生車種を喉から手が出るほど欲していたのだ。フォルクスワーゲン・カルマンギアの後継、そしてポルシェ911よりも求めやすいモデルの投入。設計と製造をポルシェが、必要なものの提供はフォルクスワーゲンが行う。お互いの関係にヒビが入るまでは、好調な成績を維持した。
販売直後は、914と914/6という2種類のエンジンがあった。前者はフォルクスワーゲンが設計した1.6リッター水平対向4気筒エンジン(80ps)を、後者は911Tと同じ2.0リッター水平対向6気筒エンジン(110ps)を載せた。
1973年には914/6に代わるモデルとして1.7リッターを2.0リッターに拡張した110psのモデルが加わる。1974年には1.8リッター水平対向4気筒エンジン(85ps)が加わった。
余談ではあるけれど914/8というモデルが2台だけ存在する。モータースポーツ由来の8気筒を搭載し、フェリー・ポルシェの60歳の誕生日に贈られた(彼はあまり気に入らなかった)。
914の割り切った内装と外装
ポルシェ914を目の前にすると、あらためてペッタリと低い車だと感じる。
真横には一切のボディラインが与えられず、乗員を中心に、極端に短いホイールベースで前後輪が置かれる。オーバーハングも短い。シンプルだけれどボディ上端にわずかな抑揚がある。よく見るとホイールアーチの切り方にも繊細に練られている。分かりやすい主張は無いのに、味気なくはない。黄色いボディカラーと相まってミッドセンチュリーの家具を思い起こす。
かつて「スタイルオート」誌の編集長がデザインを酷評し「心を打たれない」と断言したことはあまりにも有名だが、私はむしろ、余白や穏やかな主張にどこか日本的な奥ゆかしさを感じる。見れば見るほど癖になるまいか。
フロントガラス越しに見える両脇の「峰」は911ほど丸くなく、切り立った峰を思い起こさせる。「運転に集中できる環境」という使い古された表現があるけれど、914のそれは「運転するしか、もうない」と言えるくらいに何もないのである。それがいいのだけど…。
ピュアで繊細、でも男っぽい
キーをひねると、しばらくのクランキングの後、2リッターエンジンが元気に目を覚した。最初は少しアクセルを煽りながらアイドリングの回転数が落ち着くまで待つ。
2リッターのモデルが組み合わせているのは、ポルシェ製の915ミッションである。マニアックな表現ではあるけれど「熱いナイフでバターを切る感触」だとか「棒ではちみつを掻き回す感触」だとか言われるミッションだ。
1速にインサートすると、たしかにぬるっとした独特な感触がある。エンジンをストールさせないように元気に回しながらクラッチを繋ぐ。
パワーこそ無いけれど、背中に伝わる振動やエンジンが躍動するノイズのお陰で物凄くスピードが出ているように感じる。目線も極端に低いから、どこを走ってもアドベンチャーだ。
このままずっと走っていたい、と思えるほど私はタフではないが、この車があれば毎週の休日が楽しみだし、晴れていれば絶対にガレージから引っ張り出して走りに行くだろうと思った。
よく考えたら、乗った楽しさ、エンジンの鼓動も似ていないか…?似ているから何だと言われればそこまでだけれど、私は40年の時空を越えた共通点の多さに驚いた。718は「廉価版」か?そう感じた事は一度もない。914も同じだ。お互いに明確な個性があり、911は914と718を、逆も、引き立て合っている。
718ケイマンとガレージに並べたい、とも思った。こっちがスピードイエローだから、718はガーズレッドかな?もう妄想が始まっていた。
SPEC
ポルシェ914 2.0
- 年式
- 1975年
- 全長
- 3985mm
- 全幅
- 1650mm
- 全高
- 1230mm
- ホイールベース
- 2450mm
- 車重
- 985kg
- パワートレイン
- 2リッター水平対向6気筒
- トランスミッション
- 5速MT
- エンジン最高出力
- 110ps
- サスペンション(前)
- ストラット
- サスペンション(後)
- トレーリングアーム