獲物を狙うような鋭い顔つきに心を奪われた少年時代。大人になった今、再び向き合い、ハンドルを握って思うのは──やっぱりこのクルマはカッコいい。
INDEX
獲物を追うサメの様なカタチ
幼いころ、初めてこの車を見た瞬間にそう思った。攻撃的な顔立ちに、一瞬で惹きつけられたのを覚えている。
三菱の社章「スリーダイヤ」に由来し、スペイン語でダイヤモンドを意味する「ディアマンテ」と名付けられた、まさにブランドを象徴する一台。「あの車とは違う。ファーストミディアムカー宣言」という挑発的なキャッチコピーと共に登場したのが1990年のことだ。
その姿は、まるで獲物を狙う捕食者のように鋭く、時代の空気を切り裂くかのようだった。ちょうど規制緩和で3ナンバー車が普及し始めた時期に発表され、ディアマンテは瞬く間に大ヒットを記録する。
当然、そんな存在感をテレビ業界が見逃すはずもない。刑事ドラマでは舘ひろしの愛車として起用され、画面の中で“男臭い相棒”として強烈なキャラクターを確立していった。
当時の僕はもちろん「逆スラントノーズ」なんて言葉を知らない。ただ、あの鋭く尖った力強い顔つきが、子ども心を強烈に刺激した。4灯のヘッドライトが放つ鋭い眼光と、ビレット風のセンターグリルは、まさに捕食者の口元のようだった。
「カッコいい」──そう心の中で呟いた少年が大人になった今、再びこの車と対峙している。
デュアル管から聴こえる当時の音
今回試乗したディアマンテ25エスパーダには、2.5リッターV型6気筒エンジンが搭載されている。
キーをひねると、セルモーターが大きなクランクを回す感触が一瞬伝わり、その直後にV6が目を覚ます。しばらくアイドリングの音に耳を澄ませ、軽くアクセルをあおると、背後のデュアルマフラーから太いトルクを思わせる響きが返ってくる。
「このエンジンは絶好調だ」そう直感したのと同時に、ディアマンテから「坊主、大きくなったな」と声をかけられたような気がして、早くも心が躍る。
はやる気持ちを抑えてシフトをドライブに入れると、この時代のクルマにありがちなシフトのガタつきもなく、カチリと決まる。
「これは相当な上玉かもしれない」──そう思いながらアクセルを踏み込む。V6らしい豊かなトルクが低回転から解き放たれ、スムーズに回転が伸びていく。
この個体のODOメーターが示すのはわずか8000kmあまり。その希少な数字が示す期待どおり、異音ひとつない立ち上がりに思わず感動する。
現代のクルマと比べると細身のステアリング。その握りから路面の情報を直に感じ取りながら、当時のクルマらしい乗り味を堪能しつつ、アクセルをさらに踏み込む。
野太いエンジンサウンドと共に、四輪すべてが地面を蹴り出すような感覚。その瞬間、グリルに輝く「4WD」の誇らしいエンブレムが頭をよぎった。
気づけば、この車の持つ一つひとつの要素が、男心を掴んで離さない。
三種の神器がないからこそ
憧れだったハンドルを握り、存分に走りを味わったあとで、「やっぱりこのクルマ、カッコいい」と心の中でつぶやきながら、内装を改めて見渡す。
当時のクルマ界隈では、屋根(サンルーフ)・革(本革シート)・マルチ(マルチビジョン)が“三種の神器”とされていた。これらをすべて備えたクルマこそが憧れの存在だったのだ。
だが、いまこの時代の車を乗り継ごうとすると話は変わってくる。
屋根も革も、当時の造りは現代ほど質が高くなく、そこに経年劣化が重なることで避けては通れない問題となる。マルチに至っては、故障するとエアコンまで動かなくなることも珍しくない。加えて部品の入手も困難となれば、往年の三種の神器に安易に手を出す気にはなれない。
その点、このクルマは三種の神器をひとつも備えていないから、その手の悩みとは無縁だ。
けれど快適性が落ちるかといえば、そんなことはない。機械式のエアコンはよく効くし、厚みのあるファブリックシートは手入れも比較的簡単で、長く付き合える安心感がある。
「屋根・革・マルチ」がないこと──それが今では大きなメリットとなっている。
今も昔も良き相棒
再びハンドルを握り、走り出す。
アクセルを踏み込んだ時に感じる立ち上がり方は、近年のターボエンジンやEVに見られる、定規で引いたような直線的なパワー感とは全くの別物。曲線的に盛り上がってくるその加速は、「この先にオレの得意な領域があるんだぜ」と訴えかけてくるようだ。
それはまるで、獲物を狙う獰猛な生き物をパートナーにしている感覚だ。そんな頼もしさを受け止めながらのドライビングは、相棒と相談しながら進む冒険の旅に似ている。
このディアマンテは、幼いころに憧れた者には「待っていたぜ坊主」、かつてハンドルを握った者には「久しぶりだな相棒」と語りかけてくる。
合理的に調教された現代車とは違う、このクルマの魅力を感じ取れ、そして楽しめたのは僕が大人になったからなのか。
さあ、出かけよう。時間を超えてやってきた相棒と、最高の獲物を探す冒険の旅へ。BGMはもちろん、ディアマンテと共にブラウン管を彩ったB’zのあの曲だ。
SPEC
三菱・ディアマンテ 25 エスパーダ 4WD
- 年式
- 1994年式
- 全長
- 4775mm
- 全幅
- 1775mm
- 全高
- 1410mm
- ホイールベース
- 2720mm
- 車重
- 約1530kg
- パワートレイン
- 2.5リッター V型6気筒
- トランスミッション
- 4速AT
- エンジン最高出力
- 175ps/6000rpm
- エンジン最大トルク
- 225Nm/4500rpm
高見大介 Daisuke Takami
子どもの頃、ポケットにはいつもお気に入りのミニカーが入っていた。選ぶのはスーパーカーではなく、決まって国産の大衆車。父の車の助手席から、街を走る彼らを羨望の眼差しで眺めるのが大好きだった。あの頃に憧れた80〜90年代の車達は、中年になった今の僕の目にはどう映るのだろう。きっと、懐かしさと新しい発見が入り混じった不思議な気持ちが芽生えるだろう。そんな感覚を、読者の皆さんと一緒に楽しみたい。