三菱・ミニカトッポ(FF/3AT)夢を積み込んで

多くの人にはただの“変な形の軽”に映るだろう。けれど目的を持つ人にとっては、工夫が詰まった小さな相棒になる。そんなミニカトッポは、夢を積み込んで走る楽しさを教えてくれる。

多くの人にはただの“変な形の軽”に映るだろう。けれど目的を持つ人にとっては、工夫が詰まった小さな相棒になる。そんなミニカトッポは、夢を積み込んで走る楽しさを教えてくれる。

変な形の軽自動車

久しぶりに見た瞬間、心の中で思わず笑ってしまった。

「やっぱり変な形だよな」と。

街でよくトッポを見かけていた90年代当時からそう思っていた。軽自動車といえば背の低いハッチバック型が主流の中に、ひとりだけ頭ひとつ飛び出たスクエアな姿。

運転席側には前ドアしかなく、助手席側だけ後席用のドアが付いているアンバランスさ。現代の理屈で考えれば不合理な造形だ。

三菱・ミニカトッポ(FF/3AT)夢を積み込んで

あの頃、なぜ人はこんな車を選ぶのだろう、と不思議に思っていた。だが今日、ハンドルを握って走り出したとき、その疑問は自然に解けていった。

トッポはただの変な軽ではない。

明確な目的を持つ人にとっては、とことん楽しい道具だった。

三菱・ミニカトッポ(FF/3AT)夢を積み込んで

広さと見切りのよさ

ドアを開けて乗り込むと、当時のハッチバック型の軽をイメージしていた自分の予想よりも、はるかに余裕のある空間が広がっていた。

天井が高いことは外観から予想はついたが、フロアも低めに設計されているのか、頭上の余裕が想像以上に大きい。腰を下ろす動作もスムーズで、体がすっと収まる感覚がある。

降りるときも無理なく足が地面に届き、自然に立ち上がれる。まるで椅子に腰かけるような自然さだ。

三菱・ミニカトッポ(FF/3AT)夢を積み込んで

そして走り出して驚くのは、見切りの良さだ。四角いボディと大きなガラスが生み出す視界は、今のクルマに慣れた目には新鮮ですらある。

運転席からは、短いボンネットの先端にヘッドライトが覗く。リアの端までは直接視界に入らないが、ガラスの広さと直線的な造形のおかげで、まるでボディの角まで見えているような安心感がある。

障害物との距離感を視覚だけで把握できるのだ。直接見えているから、バックカメラやパーキングセンサーがなくても不安がない。

三菱・ミニカトッポ(FF/3AT)夢を積み込んで

トッポは、軽の限られた枠の中で少しでも広い室内を確保するために、ルーフを高く、四隅を切り落とさず、ガラスを縦に大きく取るという設計がなされていた。

その工夫の積み重ねが、結果として運転席からの視界の良さや扱いやすさを生み出している。

広いだけでなく、安心して扱える。そこに、660cc自然吸気エンジンの穏やかな加速が重なる。急かされることのないその走りは、お年寄りや運転が得意でない人にもすすめたくなる。

そんな懐の深さを感じた。

三菱・ミニカトッポ(FF/3AT)夢を積み込んで

工夫の積み重ねから

車を停め、リアゲートを横に開けた瞬間、仕切りのない大きな開口部が広がる。

一見するとただの四角い空間だが、そこに何を載せようかと考え始めると、次々にイメージが湧いてくる。

マーシャルのスタックアンプを積んで、仲間とスタジオに向かう光景。釣り竿やキャンプ道具を無造作に放り込み、夜明け前の海に出かける休日。

後席を倒してマットを敷けば、眠気のまま横になれる簡易ベッドに早変わりする。車中泊という言葉が今ほど一般的でなかった時代に、この広さは小さな冒険を可能にしていたに違いない。

三菱・ミニカトッポ(FF/3AT)夢を積み込んで

ふと見上げると、天井の一角に小さな物入れが隠れていた。

「積載5kgまで。柔らかい物のみ」と注意書きがあるが、そんな制約すら遊び心に変えてしまう。

ブランケットや車中泊用の目隠しを忍ばせておけば、ちょっとした旅の安心感につながるし、キャンプ用の小物を並べておけば、次の休暇を待つ気分を盛り上げてくれる。

実用性はほどほどでも、こういう遊び心があるだけで、クルマと過ごす時間がぐっと楽しくなる。

三菱・ミニカトッポ(FF/3AT)夢を積み込んで

こうしたディテールの積み重ねが、トッポをただのハイトワゴン以上の存在にしている。限られた条件の中で、アイデアを重ねたからこそ生まれた、他にはないキャラクターだ。

そしてその個性に惹かれる人が確かにいたことに、今なら心から納得できる。

三菱・ミニカトッポ(FF/3AT)夢を積み込んで

想いを載せて

ミニカトッポは1990年に誕生した軽トールワゴンの先駆者だった。

軽トールワゴンの歴史を振り返れば、本流を形づくったのはスズキ・ワゴンRやダイハツ・ムーヴだろう。しかし、その扉を最初に開けたのはトッポだった。

今回試乗した個体は、現代風にいうとフェイスリフト後のモデル。角目から丸目に変わったことで、背の高いボディが持つユーモラスな雰囲気とぴたりと重なり、キャラクターが鮮明になった。

また、トッポと言えばポップな単色が多い印象の中で、この深緑とシルバーのツートンは落ち着いた洒落っ気があり、30年経った今もセンスを感じさせる。

三菱・ミニカトッポ(FF/3AT)夢を積み込んで

走行距離はわずか16000km。年式なりの経年劣化はところどころに見られるが、まだまだ元気に走ってくれる。

もし趣味や仕事で、このトッポに載せたいものがあるのなら。

楽器でもキャンプ道具でも、あるいは週末の計画そのものでも。

それはもう、ただの移動ではない。荷物や道具を運ぶだけでなく、自分の想いを積み込んで走ることになる。

この小さなボディが運んでくれるのは、夢以外のなにものでもない。

三菱・ミニカトッポ(FF/3AT)夢を積み込んで

SPEC

三菱・ミニカトッポ

年式
1994年
全長
3,295mm
全幅
1,395mm
全高
1,695mm
ホイールベース
2,260mm
パワートレイン
660cc直列3気筒
トランスミッション
3速AT
エンジン最高出力
40ps/6,000rpm
エンジン最大トルク
53Nm/4,000rpm
  • 中園昌志 Masashi Nakazono

    スペックや値段で優劣を決めるのではなく、ただ自分が面白いと思える車が好きで、日産エスカルゴから始まり、自分なりの愛車遍歴を重ねてきた。振り返ると、それぞれの車が、そのときの出来事や気持ちと結びついて記憶に残っている。新聞記者として文章と格闘し、ウェブ制作の現場でブランディングやマーケティングに向き合ってきた日々。そうした視点を活かしながら、ステータスや肩書きにとらわれず車を楽しむ仲間が増えていくきっかけを作りたい。そして、個性的な車たちとの出会いを、自分自身も楽しんでいきたい。

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