フィアット500ツインエア・ラウンジ(FF/5AT)現代の名車、ここにあり

フィアット500ツインエア・ラウンジ(FF/5AT)現代の名車、ここにあり

フィアット500は、スペックや安全装備では語り尽くせない車である。2気筒ツインエアターボによる味わい、デュアロジックの人間味。現代の名車と言ってよいだろう。

売れ続けているフィアット500

フィアット500、という車が産声を上げたのは、1936年のこと。「トポリーノ(ハツカネズミ)」の愛称で親しまれ、1955年まで、商用車も含めて約60万台が生産された。

1957年には2代目がデビュー。フィアット500といえばこちらを思い浮かべる向きも多いだろうか。正しくはヌォーヴァ500。そう、ルパン三世がアニメで乗っていたあの車だ。

この世代のフィアット500についてはフィアット500ジャルディニエラ(FF/4MT)「遅い!これ下さい!」で触れているから、是非、ご一読頂けるとありがたいです。

さてそして今回の主役。「タイプ312」と呼ばれる新時代のフィアットの500についてだ。

日本では2008年に発表。売れに売れた。日本では決してメジャーではないイタリアのメーカーにも関わらず、11年連続で年間販売4000台を越えた(先細りしていない)。また女性オーナー比率が2005年時点で15%だったいっぽうで、2020年は60%に達した。

14年連続でここまで人気の車は、しかも輸入車はなかなかない。それもたった1度のマイナーチェンジで。どこに秘密があるのだろう。

内外装の意匠は「レトロ以上」

愛嬌のある丸い目。鏡餅のごとく、2段に重なる真正面のデザイン。短いホイールベースゆえのコロンとしたボディサイドを通ってリアに回ると、やっぱりどこにも角がないモチッとしたリアのヒップに目がいく。

レセンス編集部が集まって写真を撮っていると、通り掛かる人がさっと車に目を向ける。中には振り返ってみる人もいる。老若男女問わず、同じ行動になるところがおもしろい。

中を覗く。白いハンドルにボディ同色のダッシュボード・フェイシア。なんとかわいい!

一言で述べるのならば「レトロ」あるいは「懐古主義」ということになるのかもしれないが、現代のセンスを融合させつつ、それらに頼り切っていない独自のデザインに昇華しているところがイタリア人のうまい所だ。

極めつきは白いパイピングが縁取るチェックの布シート。猫背の丸いヘッドレストも人間味がある。内外装を目にして、ここまで好戦的ではない車って、いまや絶滅危惧種ではなかろうか。この時点でああいいなと思っているのに、さらにツインエアエンジンが魅了する。

ツインエア、トコトコトコ歩む

色んな車に乗ることの多い私でさえ今やエンジンをかける(あるいは電気をオンにする)際はボタンを探してしまうけれど、これはキーを撚るタイプだ。ギュッとひねると、ちょっと長めの間を置いてブルルンとエンジンが目覚める。

ブルルンというのは形容的なものではなく本当に、物理的に、手、足、お尻に振動が伝わるブルルンである。きっと近代パワートレインに飼いならされていると、おやおやと思うはずだ。

総排気量875cc。ボア:80.5mm×ストローク:86.0mm。直列2気筒ターボの存在が伝わる。

アクセルを踏み込むと、トコトコトコっと音を響かせながら、しかし想像以上に低い回転域からトルクがピックアップし始める。フィアット500にはもう1つ、1.2リッター自然吸気もあるけれど、馬力で16ps、トルクで43Nm勝る。

圧倒的な個性に華を添えるのが5速セミATだ。

「デュアロジック」と呼ばれるこのトランスミッションは、まさに自分がMTを運転するならばここで変速するよなというポイントでヌルリと変速してくれる。その瞬間、アクセルを緩めてやり変速後からアクセルを踏むとまた加速。この一連の動作が実に軽妙で愛おしい。

愛なくアクセルを踏み続けると「なんだこのギクシャクした車は!」と怒りたくなるし、実際に怒る人もみた。その気持もわかる。自分でも気が急く時はカチンとくることもあるけれど、その度に「おっとっと、穏やかにいなはれや」と車に諭されている気持ちになる。

ゼロヒャク何秒、コーナリング特性云々、なんて尺度では魅力が見えてこない車なのである。

名車予備軍から立派な名車へ

6年前にマイナーチェンジしたというのに、予防安全装備はESC(スタビリティコントロール)とABS、そしてEBD(前後左右のブレーキバランスを自動的に調整)しか備わらない。

レーダークルーズコントロールにレーンキーピングアシスト…ナニソレ? という潔さである。これだけ安全装備が叫ばれる世の中だから、触れておかないわけにはいかない。

しかしあるに越したことはない装備ではありながら、「ではあなたが車間をあけて、左右に注意しながら、スピードを出し過ぎなければ良いのではないの?」と言われれば、たしかに必須ではないと思えてくる。…思えてくる。

いや待てよ…それはフィアット500ご都合主義とはいえまいか。冷静な自分が突っ込む。

この攻防を繰り返しはじめるということは、既にこの「新しきアナログ車」にやられている証拠かもしれない。

ポヨンとした優しい乗り味に揺られながら、2気筒エンジンに耳を傾け、細い路地にグイグイ入ってゆく。アクセルを踏み込めば、ゴアっとまるでキャブ車のような音をあげ元気に走る。

日本全国でこの光景が見られるということは、だれがどう言おうと市場に認められている証だ。これは初代そして2代目のクラシック500による社会現象と根底は同じだ。モダン500も名車予備軍から立派な名車になりつつある。

SPEC

フィアット500ツインエア・ラウンジ

年式
2020年
全長
3570mm
全幅
1630mm
全高
1520mm
ホイールベース
2300mm
トレッド(前)
1420mm
トレッド(後)
1410mm
車重
1040kg
パワートレイン
0.9リッター直列2気筒ターボ
トランスミッション
5速AT
エンジン最高出力
85ps/5500rpm
エンジン最大トルク
145Nm/1900rpm
サスペンション(前)
マクファーソンストラット
サスペンション(後)
トーションビーム
タイヤ(前)
185/55R15
タイヤ(後)
185/55R15
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