フィアット500ジャルディニエラ(FF/4MT)「遅い!これ下さい!」

フィアット500ジャルディニエラ(FF/4MT)「遅い!これ下さい!」

お尻のあたりがちょっと長いフィアット500。「ジャルディニエラ」と呼ばれるこのモデルの時代背景や「ならでは」の特徴を見つめる。このクルマにしかない味わいとは?

そもそもフィアット500とは?

フィアット500って、あのルパン3世に出ていた……。これはあまりに多くの人が知っているイメージだと思う。

思い浮かぶその500は、いわゆる2代目の500。正式名称はフィアット・ヌォーヴァ500。ヌォーヴァ=NUOVA=新。

つまりこの車には、もう1世代前のご先祖様がいる。いわゆる「トポリーノ」と呼ばれていた世代で、映画「ローマの休日」にヴェスパとともに登場した。

「トポリーノ」はイタリア語で「ハツカネズミ」。外観が機敏で小柄な体躯がもとになっていると言われている。

メカニカル視点でトポリーノを見つめると、エンジン搭載位置やサスペンションの形式などなど、いわゆる「萌えポイント」の宝庫であるのだけれど、長くなるのでこれはまた別の機会に。

さて、この記事の主役、フィアット500ジャルディニエラについてである。

その上でジャルディニエラとは

「トポリーノ」→「ヌォーヴァ500」ときて、「500ジャルディニエラ」である。

見た目はヌォーヴァ500をビヨーンと後方にストレッチ(ホイールベースが+100mm、全長が+210mm)している「だけ」に見えるけれど、リアハッチを開けると「だけ」ではないことがわかる。

ストレッチしていないヌォーヴァ500の場合、リアハッチを開くと、そこには空冷直列2気筒OHVが縦置きされている姿がまず目に飛び込む。

500ジャルディニエラの横開きのハッチを開くと、そこはツルンと荷室になっている。エンジンはどこに? 荷室のカーペットを持ち上げると姿を現すのだ。

フィアットの技術部から、世界の大衆車へと影響を与え続けたダンテ・ジアコーサ(1996年没)は、縦方向にかさばったエンジンをパタッと横に倒した。あっぱれな解決法で荷室容量を稼いだ。

低くフラットなパワートレインはその後「sole=ソール」の愛称で称賛と親しみを表現された。靴のソールを例えたものだと推測するが、soleには「ヒラメ(魚)」の意味もある。

個人的にはそう訳すほうがしっくりとくる、低さ(平べったさ)だと感じる。

内装外装のグッとくるポイント

フィアット500ジャルディニエラには、とかく愛おしいディテールが内外装に盛りだくさんなのだ。

真横から見る。「ふつうの」フィアット500に見慣れていると最初は違和感。でもすぐに馴染むのはきっと、リアクォーターガラスやピラー、そしてハッチの角度などが計算されているからだろう。

伸びているのに間延びしていない。それどころか安定感さえ感じる。そういうところ、イタリア人にしかできないデザインの上手さだなぁと感心する。

極めつけはリアピラーに沿うインテークグリル。一見すりおろし器にみえるようなこれ、きちんとフレッシュなエアを吸入する役割を果たす。アルミ製は1960〜1967年モデルのみ(以降は黒い樹脂製)というのもポイントだと思う。

リアヒンジのドアを開いてシートに腰を下ろした瞬間、周りの景色までタイムスリップしたかのような感覚になる。

細すぎて不安になるほどのステアリング(でも剛性感は不思議に高い)、右前には三角窓、個人的にはシガーライターの蓋に描かれたタバコの絵柄もどことなく懐かしくて好きだ。

ふと横を見る。隣に止まっているホンダNボックスが巨大な壁に感じた。ふと反対を見る。隣に座っているレセンス編集部員の顔の近さにも驚く。肩なんてもう触れそうである。このままいるとちょっと恥ずかしいのでエンジンに火を入れた。

ジャルディニエラに乗ってみる

長いシフトノブの下、チョーク弁を目いっぱい引く。セルも引く。ブルッ……ブルッ……ブルッ……ブルッ……ブルッ……、ブババババババ!

待ってましたと言わんばかりに、わずか18psの2気筒エンジンが目覚める。

ペダルはずいぶん車体中央側にオフセットしている。体を左に捻るようにしてアクセルペダルをちょこんと踏む。クラッチペダルをじわりと離せば、トットットとすぐに前に進む。意外と力持ちなのだ。

そこから先は……あれ……! 進まない。

助手席のメンバーとエーイ! なんて言いながら(そんなことで車が進むわけではないのに)目いっぱい走らせる。

ちょっと速度が乗ったかな? と思った所で、涼し気な顔でそこそこ旧い軽に抜かれる。顔をあわせて大笑いする。

気づいたら私達は汗を拭いながら、必死になって運転していた。

ボタンを押してもエンジンが掛かったか分からないくらい静かで、その2秒後にはエアコンが室内をキンキンに冷やし、意思を持っているかのように前の車についていく車ばかりの時代になった。

そんな車に慣れきってしまっていた私はあくせく運転することを新鮮に感じる。

ベージュのコットンポロが、オリーブグリーンの500ジャルディニエラにどんぴしゃだったレセンス編集部員を横目に、次はコレを着て、あそこへ行こうなんてもう考えている自分がいた。

「遅い! これ下さい!」。楽しい車とは何かを考え直す機会となった。

SPEC

フィアット500ジャルディニエラ

年式
1979年
全長
3180mm
全幅
1320mm
全高
1350mm
ホイールベース
1950mm
トレッド(前)
1120mm
トレッド(後)
1130mm
車重
555kg
パワートレイン
0.5リッター直列2気筒
トランスミッション
4速MT
エンジン最高出力
18ps/4600rpm
メーカー
価格
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